第11話 ダンさんと出会う 1



 リッシュンの町を歩いてる親子…と思われる二人。

 思われる。

 この表現しか思い浮かばないというのが、その二人を見た者の感想だった。


 親子のように見えてどこか親子らしくない。


 片方はこの町の者よりも身長が高い男性。おそらく異国から来たのではないかと密かに予想する者が何人かいた。

 しかし、予想した者はみな真実を知らない。話しかけようものなら、すぐさま冷たい目線をもらい身体が恐怖で動かなくなるからだ。

 けれど、フードから見える翡翠の瞳に整ってる顔立ち。町の女性は一目でいいから姿が見たいと考えていた。


 もう片方は子供。時折顔を見上げて隣の男性と話す姿はとても可愛らしくて見ていて癒される、と町の者たち—主に主婦層や高齢の男女世代—の間で専らの噂になるほど。


 見上げながら話すため、フードで顔を隠しているつもりでも傍から見ればバッチリ顔バレしてしまっている事に気づいていない。


 その少し抜けている部分も癒されポイントだ。


 それに気付くのは先程言った高身長な男性。子供と話す時は、愛おしい者を見るかのような柔らかい目をしている。

 時折、フードから子供の顔が見えると、すかさず周りのものに見られないようにフードを深く被せる。

 けれど子供は、男性の顔を見て話したいのかまた見上げて話し始める。話しながら碧色へきしょくの瞳がとても嬉しそうに輝くので、男性も被せるのを一瞬戸惑いつつフードを被せている。


 その一連を繰り返すのが可愛くて微笑ましいと、知らぬうちに町の中で有名になっている2人。


 本人たちは気付かない、町の者たちの心情。





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 「ねぇ父さん?今日は町に来たけど何か買うの?」


 ここ最近は訓練ばかりで息抜きしてないと感じたのが昨日(前も似たようなことがあった気がするが)。ルークに息抜きをしろと言ってもいつも訓練をしたがる。

 だから今日は訓練を強制的にさせないことにした。休息も必要だということをルークに教えなければならない。


 そこで息抜きがてら食料調達をしに、買い物にきた。


 ルークの背丈に合わせて手を繋ぐのは少々ツラいため、腕に抱えて歩いている。抱っこというらしい。以前来たときに町の者がしているのを見た。

 …なるほど、これならはぐれてしまう心配もない。なにより顔が近くにあるのでルークの表情がよく分かる。これはいい。


 こうして抱えてみて分かる。

 赤子のころよりも大きくなって知識も増えた。人間の成長は早いのだな。あとどれほど一緒にいられるのか…。


 ヴァルガはいつか来るであろう別れを考えていた。将来は何がしたいのか、好きな人ができ嫁を娶るのか。そのとき我は、何をしている?…こんな考えをしている自分自身にヴァルガは少し驚き、そして寂しいと感じていた。


 とはいえまだ子供のルーク。抱っこされてる本人はいつもと違う高さの目線になったからとても楽しそうにしていた。


『ルーク、何か欲しいものはあるか?服でもなんでいいぞ。いつも訓練を頑張ってるから "ごほうび" をやる』


 ただ買い物して帰るのは少々つまらん。普段からルークは物欲がない。ここで好みのものとか見つかるといいが…。


 「ごほうび、?んー、ほしいもの…ぁ、父さんと一緒のがほしい」

『一緒のものか…分かった。探してみよう』

 「うんっ」


 好みを知るのはもう少し先になるようだ。

 一緒のもの…つまりお揃いってことでいいのか?そしたら何かなくさず身につけるものがいいな。ルークのような子供でも我のようなオトナでも身につけられるもの…。


 その後何軒か店をまわり、ルークに見せて選ばしてみてもピンときたものはないみたいだ。

 昼が近くなり人通りが増えた。また町に来ればいいから探すのは今度という話になった。


 そしてお昼時にそれは起こった。


 お昼を食べてから食材の買い物をしていた時だった。店主は気前がいい人でおまけを沢山つけてくれた(店主はルークにあげたいから)。


 買った袋を抱え、帰るためにルークと呼びかけても反応がない。それどころか隣にいたルークの姿が見当たらない。


『目を離したばかりにっ…どこだルーク』


 近くを見渡したがフードを被った子どもの姿はいない。翡翠の瞳が細くなるのを感じ、少し遠くの方を見た。人垣の中に子どもの姿があった。


『…ルーク?』


 ヴァルガはヒトじゃないので"普通"は通じない。視力などの全てにおいて人間とは規格外。人垣で見ずらいところも、ハッキリ見えていた。


 その人垣の中心に額から血を流したルークがいた。


 『っ、』


 何か言い争ってるのか大人の男と対峙していた。ルークの少し後ろに年上の女性。集まってる者達はルークを心配しているのか、ただの野次馬か。


 男がさらにルークに暴行を加えようとした所でヴァルガは人垣の元へ走った。


 『(間に合わないっ…!)』


 距離的に考えても間に合わないことは明白だ。どうせルークのことだ、殴られてもいいとか考えるのだろう。だがそれはダメだ、傷ついてほしくない。

 人間の身体は脆いのだ。ましてや子供、すぐにボロボロになって壊れてしまう。だから少しでも自分を庇う仕草をしてくれ…!!


 色んな想いが頭をよぎった。それと同時に視界の端で、何かがルークの元へ駆け出しているのがわかった。


 人間の男だった。

 歳上だろう身体も、服の上からわかるほど鍛えられてる。

 その男はヴァルガより早く着き、人垣を抜けてルークが殴られる寸前で男の腕を掴んだ。


 『(っ、助かった…)』


 その少しあとにヴァルガはルークたちを囲ってる人垣に到着し、その中に紛れ様子をうかがった。


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