閑話2 契約とは
第8話 二人の息子 その後
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『…おい、いつまでそうしておるのだ』
「っ!ご、ごめんなさい…」
友達になれたのが嬉しくってうっかり抱きついちゃった。ケルビンさんも急はいやだよね、今日が初めましてなのに。
ルークは首に回していた腕を解いて勢いよく離れた。
「そんな急いで離れなくてもいいのに…ねールーク」
「えっ…と…?」
「ふふ」
すりすりすりすり
ケルビンは片腕で抱えてまま、もう片方の腕でルークの頭を自身の胸元へと寄せた。…頬ずりも忘れずに。
ケルビンは一目見てルークのことを気に入っていたのだ。子供だというのに喚き散らさず、大人しい。けれどいざ話してみると、表情はコロコロとよく変わり見ていて飽きない。極めつけはぬいぐるみのような抱き心地で、なにより自身とほぼ同じ髪色だということ。
ケルビンは単純に嬉しく思った。
ここまで似ている髪色をした生き物に会ったことがなかった。
『ルーク』
「どうしたの父さん?」
ルークはヴァルガに呼ばれたのでとりあえずケルビンに下ろしてもらい、ヴァルガの傍へ寄る。
『お前の場所はここだ』
拗ねたような声を出したヴァルガ。そのままルークを抱きかかえ、ケルビンの元へ向かった。その顔は相変わらずの無表情だが、ケルビンはニコニコしていて一触即発を思わせる雰囲気だ。実際そんなことはないのだが。
『今日は突然ですまなかったな。次からは事前に知らせよう』
「…(あのヴァルガがずいぶんと丸くなったようだね) 伝令なんかしないで、いつでも来て構わないよ。ルークなら大歓迎だからね」
『おい、我は歓迎しないとでも?』
「それは聞くまでもないってやつじゃない?あ、そうだルーク。目を閉じて僕のことを強く思い浮かべながら名前を呼んで?ケルビンって」
チッ、本当にこんなやつをなんで人間共は欲しがるのだ?心底理解できん。話し方は温厚だが、内面は冷酷なんだぞ?こいつは。
などと心の中で文句を言っていたヴァルガだが、その言葉を聞いた瞬間反対の声をあげた。
「え?…うん『ダメだ』…父さん?」
『勝手に契約を交わそうとするなケルビン。それにもう契約の席は我で埋まっておる』
「じゃあその次は僕だね」
「…その、契約ってなに?」
ヴァルガの腕の中で疑問を口にしたルーク。最近読んだ本のなかには、契約は相手を従わせるって書いてあって怖いものならやりたくない、とルークは考えていた。
「そんなひどいものじゃないよルーク。契約はお互いが大切で、常に自分のことを気にかけてほしいって思うもの同士が交わすことを言うんだよ?」
この類はケルビンに説明させた方が、ルークも理解しやすいだろうと思いヴァルガは黙っていた。
「契約は基本、ヒトと生き物。だからヒトとヒト、生き物と生き物同士なんてことは絶対にありえないんだ」
そう、絶対に同種のもの同士の契約はできないのだ。加えて "二重契約" は行えない。ケルビンも分かっているはずだがそれを言わないで己も契約する、ということはルークに二重契約を試そうとする魂胆があるとみた。
もちろん過去に契約を二つ行ったものはいないし、そもそも契約自体が簡単にできるものではない。
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契約を交わしたヒトは、相手の生き物の特性を自身も使えるようになり、人間という枠組みから外れる。しかし、特性を使えるかは契約を交わせるかによる。
契約は魔力が多少なりとも体内に流れていないと、交わすことは不可能なのだ。魔力量によって交わせる生き物のランクも変わる。さらに、高ランクの生き物でないと特性は現れない。
例をあげるとするなら、足が速い生き物がいる。しかしランクは "下の中"といったあたり。この生き物と契約を交わしても、自身の足が速くなるわけでもない、ということだ。高ランクの生き物ならば "上の下" 以上だろう。
強いてのメリットを挙げるなら、交わした生き物と心を通わせ、意思疎通ができることくらいか。
これは契約を交わしたもの皆ができるようになる唯一の公平な特典だろう。
長々と話したがつまり、
・同種間の契約は不可能。
・契約に必要なのは魔力量。
・魔力量が高いほど高ランクの生き物と契約を交わせる。
※高ランクの生き物と契約を交わすと、ヒトの身体に生き物の特性が現れるときがある。
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「…ざっとこんな感じだけど、ルークわかった?」
「えっと、半分くらい…かな、自信ないけど。父さん帰ったらまた詳しく教えてくれる?」
『あぁ、そうしよう。それに半分もわかったのはすごいぞルーク』
予想通り、ルークには難しかったようだ。契約について話すのは少し早すぎたと思う所もあるが、いずれ話すつもりだったのが早まったと思えば問題ない。
頭を撫でれば嬉しそうに擦り寄るルーク。サラサラとした髪は、ずっと触っていたいと思わせるほどに気持ちいい。
『 …ではそろそろ帰るとする。契約についてはまた後日、ここへ来て行うとしよう。試したいことがあるのだろう?ケルビン』
「ルークならもしかしたら…ってね」
「あ、父さんお昼ごはん!そういえばここで食べるからって持ってきたんだ」
『…そういえばそうだったな』
たしかにここへ来る前、ルークの魔力操作訓練も行うつもりだったからご飯を持ってきていた。ルークは遠く置かれたバケットを目指し走っていった。
「じゃあまだルークと一緒にいられるんだ…やったぁ」
すると、ケルビンの気配が変わった。
見るとどこか疲れた様子のまま立っていた。ふらつき、顔をあげるのもやっと、という感じだ。
『…もしや、ヒト型に慣れていないのではないか?』
「っ、やっぱバレちゃったか」
力なく笑うケルビンにタイミングよく戻ってきたルーク。さっきまで元気だったケルビンの変わりように驚き、声をかけようとするルークに、ケルビンはだいじょうぶと笑いかけるが、ルークの顔が晴れることはない。
『…ケルビン。今すぐヒト型から元の姿へ戻れ。ルークを心配させるなら帰る』
厳しい言い方かもしれんが、元の姿に戻れば体調はすぐに良くなるはず。急にヒト型になって、身体がついていけてないだけだろう。
「ん…分かった。じゃあ次ルークが遊びに来るまでに、たくさん練習してヒト型に慣れとくよ」
——そしたら一緒に町に行こう?
聞こえた瞬間に、一面光に包まれてまた馬の姿へ戻ったケルビン。やはり本来の姿の方が楽なのだろう。もうルークの髪を甘噛みするだけの力が戻ってる。
ルークは甘噛みされつつも心配していたが、次第にくすぐったいと二人じゃれあっていた。
もちろん直ぐにケルビンからルークを遠ざけさせて、昼ごはんを食べた。
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——————契約とは つづく
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