第10話 王都へ出発





 「レオ、お〜き〜て〜」

 「ん……まだ…」

 「今日、帰るんでしょ?」



 昨日僕の宝物をあげたらレオから代わりにと、綺麗な指輪を貰った。安物らしけど、多分とても高価なものだと思う、僕の勘だけど。


 だから大切に、無くさないように気をつける。もし指に嵌められなくなったら、首からさげようかな。




 今日も天気は晴れ。朝から太陽の日差しがベッドに差し込んで、レオのブロンドの髪が一層綺麗に光っていた。

 バサッと音を立てて布団と一緒に体を起こしたようだ。


 「…はぁ、そうだった。ありがと、ルーク」


 やっと起きた。まだ早いってことは、いつもはもう少し遅いのかな?


 それとも僕と父さんが早いのか…などと考えてたら、開けっ放しのドアからいい香りが漂ってきた。


 「…父さんがご飯を作ってくれてるみたい。着替えて行こ?」

 「いそいで、着替える…」


 フフッ、ちょっと面白いかも。まだ完全に目が覚めてないのかな?またウトウトと頭が揺れ出した。今日のご飯はなにかな〜?と着替えが終わるのを待ちながら考えてた。





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  「「ごちそうさまでした」」




 やわらかいパンに薄くスライスされたハムが2枚。葉物とスクランブルエッグがあって、僕はそれをパンに挟んで食べるのが好き。


 レオは僕の食べ方にびっくりしてたけど、どうやら気に入ったみたい。あっという間に完食してた。



 『片付けたらレオを王都まで送る。我が本来の姿に戻って飛んでいくのも良いが、どうする?歩いて行くか?』


 歩きなら町を抜けて王都を目指す、と父さんは続けた。それを聞いて僕の考えは決まった。


 「僕は歩きがいいな。レオは?早く王都に着きたい?」

 チラッとレオの顔を見た。飛んで行くのもいいけど、歩きならもっとレオと一緒にいられるよね?


 「どちらでもいいが、ルークが言うなら歩きにしよう」


 やった、王都に行く約束案外早く達成しちゃうかも…!とルークは嬉しそうな顔をした。


 『分かった。ならばこれを着ていかねばな』


 すると父さんが僕達に何かを着せた。これはいつも町に行く時に着るローブと呼ばれるものだ。麻色でボタンやポッケなどが付いたローブ。フードを被ればすっぽりと顔が隠れて前が見ずらい。

 これは森をぬけた時に被ろう。


 けどこれ、一体どこから取り出したんだろう…?さっきまで何も持ってなかったよね…。


 『この国は赤髪や青髪は目立たないが、我やルークの髪色は目立ってしまうからな。レオの顔も知られてると考えて隠して歩いた方が安全だろう』


 そうだったんだ…。たしかにレオ、まだ父さんがドラゴンだって知らない時に、黒髪はこの国の人じゃないって言ってた。それに、お出かけするときもローブを着てた記憶がある。


 「じゃあ見つからないように、こっそり行くの?」

『その方が騒ぎ立つこともないだろう…が、それではつまらん。せっかくの王都だ、楽しまなくては"損"というやつだ』


 父さんの少し笑った顔。レオも同じように笑ってる。どうやら父さんと同じ考えみたい。意外と仲良しなようで嬉しくなった。



 「じゃあ早く行って、王都で観光だ、な…」



 突然フラッと、レオの身体が前へ傾いた。


 父さんが素早く腕で支えてくれたから、床へ当たらなかった。レオは少し怠そうな表情。父さんが額に手を当て、考えている。


 「レオ、どうしたの?!具合悪い?」

 「ん…なんだか急に、力が抜けたんだ、」


 よかった、辛そうだけど熱とかではないみたい。力が抜けたこと以外は平気そうだ。


『……おそらく、この森の魔力にあてられている。昨日はなんともなかったみたいだが、さすがに2日目ともなれば身体が魔力に慣れないのだろう』

 「この森の、魔力…」

『この森を抜ければ具合は良くなる。それまで我慢するしかないが、耐えられるか?』

 「それくらい、平気だ。なるほど、この森は魔力を有しているのか。そして、僕はいまその魔力に慣れなくて、身体がふらついた…ということであってるか?」

『フッ、正解だ。この森について昨日聞きたかったことは歩きながら話してやる』

 「レオ無理しないでね?」


 心配で覗き込んだら少し辛そうな顔で大丈夫だと返ってきた。とりあえずこの森から出なくちゃ。




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 森の外を目指して、歩きながらレオは父さんに質問をしていた。この森のこととか、魔物のこと、


 そして、僕のことも。



 「…つまり、ルークはこの森で捨てられたけどヴァルガアンタや魔物たちに拾われて育てられたってことか。そして赤子のころからこの森の魔力にルーク自身の魔力が順応していたと」

 「うん…」


 思わず俯いてしまう。


 この際、レオには知ってほしかったから思い切って全部話した。…嫌われちゃったかな、僕は元々魔力が高いし、本来あるはずの魔力栓だってない。髪の毛だって変わった色で…きっと僕は普通の子じゃないんだ。



 「ルーク」

 「…なにっ、〜〜〜っ!!」


 振り返ると、ゴチンッと音と共に額に衝撃が走った。不意打ちとはまさにこのこと。咄嗟にしゃがみこんでしまうのは仕方ないと思う。


 頭を抱えて痛さに悶絶しながらも、すぐに立ち上がって抗議の声をあげる。


 「なにするのレオっ」


 じっとレオを見つめる。


 「お前は…そんな普通じゃない自分がイヤか?確かに他と違うのはイヤだろうな。生まれながらに高魔力を持っている。その髪色も黒髪同様初めて見た」


 その言葉にまた自信をなくして俯いていく。

 すると、レオの手が僕の両頬を優しく包んで、顔を上に向かせた。


 「…っ!」

 「だが、ここでいう"普通"とはなんだ?髪色が違う事だってそんなの当たり前だ。みんな同じ人間じゃないだろ?親が違えば当然子供も違う。髪色も完全に親と同じになる訳じゃない。高い魔力だって他から見れば羨ましいくらいだぞ?」



 「そもそも、普通なんてつまらない。少し異質な方が他と違う部分がはっきりして面白いと思わないか?」



 真剣な表情で言うもんだからクスッと笑ってしまった。

 頬に添えられた片方の手が頭へと移動し、優しく髪を梳くように撫でる。


 「…僕はルークの髪色、気に入ってるんだ。とても綺麗で、優しい色。それに、どれだけ人混みの中でも、"ルークだ"って見つけられる」


 言い聞かせるように、発せられた声。


 レオの瞳から目が離せない…。ブロンドの髪が風で揺れて、綺麗なのはそっちだよ、と思わず言い返しそうになる。


 ——優しい色なんて言われたの、初めて。



 すると時間差のようにレオの顔が徐々に赤くなっていった。

 ハッとして慌てたように頭と頬から手が離れた。


 「だ、だからルークは自分のことをそんなふうを思わなくていいってことだからなっ!」


 頬に添えられた暖かい手と、髪を梳く気持ちいい手が離れて少し寂しく思ったのは、今は言わない方がいいと判断。


 「うんっ!ありがとうレオ」

 「分かればいいんだっ」


 顔を横に向けたレオ。耳が赤く染まっていて、恥ずかしいことが一目瞭然。

 嬉しくって思わず父さんを見上げた。父さんは優しく笑っていて、頭をポンポンと撫でてくれた。


 「は、早く行くぞっ」

 「うん!…父さんも行こっ」

『…あぁ』


 父さんの手を取り、止めていた足を動かし始めた。


 少し前を歩くレオ。意外と恥ずかしがり屋さんなんだと分かった。頭の中で何度も繰り返し響く。


—— とても綺麗で、優しい色

—— どこにいても見つけられる



 その日から僕は自分の髪が前より好きになった。


 元々嫌いというわけではなかった。父さんと正反対の色で、嫌いになれなかった。白と黒(正確には白銀)ってなんだかお似合いだと思ってたから。


 けど、レオの言葉で変わった。考えを、変えてくれた。いつかちゃんとありがとうって言おう。


 3人の間では穏やかな空気が流れつつ、歩みは確実に森の外へと向かっていた。




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 歩き始めてから40分程で森を抜けられた。レオの体調も出口に近づくにつれて徐々に回復していって、森を抜けた時はもう平気みたいだった。


『2人ともここからフードを被れ』

 「…ここが、王都の外側」

 「僕はこの町に数回来てるけど、レオは普段ここまで来ないの?」

 「…あぁ。いつもは王都の警備兵に見つかるから、ちゃんと町を見るのは初めてなんだ」



 森から少し歩いたところにある"リッシュンの町"。


 この町では主に調味料となる草花や果実などが出回っている。野菜なども売っているが、王都に比べれば種類は少ない。魚や肉などの動物性食品は王都まで買いに行かなければならない。


 しかし、ここリッシュンは町にしては大きい方だ。住民も多いし、観光で行き交う人々の数もそれなりにある。故に市場や酒場、鍛冶屋なんかもある町。


 時刻はもうすぐお昼前。王都はこの町の先を更に進んでいくのだが、その前にお腹は満たしたい。所詮、食欲には勝てない。


『この町で昼にしよう。食べたいものはあるか?』

 「んー、はいっ!僕いつものとこにレオを連れていきたい」


 ルークは勢いよく手を挙げ、ヴァルガに言った。

 いつもこの町にくるときに必ず立寄るところがある。ルークはそこにレオを連れてきたいと考えていた。


 ルークの言いたいことが分かり、ヴァルガもそこならいいだろうと考え、3人はとある店にやってきた。

それが、ここ…



 「ダンさんのお店ですっ!」


 「酒場…?」



 一見酒場のように見える建物、通称 "ダンさんのお店"。

 町の中心部分に位置し、町民なら誰でも知ってる有名な店。昼はレストランとなり、家族向けの料理を提供し、夜は出稼ぎの者や冒険者たちが酒盛りをする為の酒場となる。


 ——カラン、カコン



 レオは初めての外食で緊張していたが、気の抜けるドアベルの音にクスッと笑みをこぼした。


 その様子を見ていたルークは安心した。そしてレオの手を取り、お皿を拭いている一人の男性の前に座った。



 「ダンさん、こんにちは」



 カウンター席に座り、フードを軽く上げて顔を見えるようにずらしたルーク。

 レオもルークに従いフードを軽くあげると、そこにはレオもよく知る人物がいた。


 「(えっ、なんでここに…?!)」

 「おぉ!ルー坊じゃねぇか!元気にしてたか?」

 「ふふ、ダンさんそれ毎回聞くよね」



 見た目は50代だが鍛えられた身体。茶色の髪をオールバックにしている見た目イケてるおじさん。



 「この人はこの店の店主、ダンさん!優しいし、料理も美味しいんだよ」

 「なんだ、ルー坊の友達か?俺のことはダンさんでいいぜ。よろしくな……ってお前、レオナード…なのか?」



 ダンはルークの隣の少年に目線を向けた。フードから見えるブロンドの髪、とそっくりな空色の瞳。



 「ダ、ダンさんこそなんでここにいるんですかっ!」

 「そりゃお前、ここの店主だからだ」

 「そうではなくてっ…」

——ぐうぅぅぅ


 「まずはメシでも食ってからだ。話はそれから、な?」


 ハッハッハ、と豪快に笑う姿が似合うダンは3人の注文を聞いてから厨房へと入っていった。




 「友達なんだね〜レオとダンさん」

 「なんで嬉しそうなんだよ…。まぁ昔から知ってる人だからね…ルークこそ、何でダンさんと知り合いなんだ?」


 さっきから気になったことを聞いてみた。

 ダンさんと知り合う機会なんてほぼ無いに等しい。それはダンさん自身の職種も関係してると思う。てか100%その理由。


 なんて、勝手にひとりでツッコミを入れてるとルークが話し始めた。


 「ん〜、ダンさんと知り合ったのはね…3ヶ月くらい前かな?」


 時々ルークの隣に座るヴァルガに確認しながら楽しそうに教えてくれた。ダンさんも厨房から聞こえてるのか肩で笑っているのが分かった。


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