第14話 狼は人ではなく、犬に羨望の眼差しを向ける―5
純粋な疑問。
なんでまず僕に声をかけた、というか僕を捕まえようとした?早い話、僕を捕まえる前に疑うべきはまず、写真の中のアズールさんじゃないのか?だって、自分の部下が襲われた、というのは部下が逃げている時点でもう知っているんだし、オケアノスさんをまず見つけようとするんじゃないのか?
いやいや、ここで見つけられなかったから、時間がなかったから、の理由だけで連れ回されては溜まったものじゃない。もし、足が美しい空斬ちゃんが死んだのを気づいたのがついさっきだった、としてそれでもね。僕をまず首根っこひっつかんで連れてくるのはいささか、発想が飛躍しちゃいないか?
「ああ、そのことか?……」
「教えてあげてもいんじゃねー?てか、あんたが教えなくてもあたしが教えんよー。だって、別に知られても困るもんじゃないし、予備もいっぱいあるしねー」
「黙れ、穀潰し。自分で弱点をくっちゃべるな自重しろ」
「うるせー、放火魔。テメーはもうちょい自分で状況をつくっちまったことを恥じろ、カス」
仲間じゃないだろこの二人、と思うくらいにはひどい煽り合いだ。互いに相手の短所に漬け込んでけなし合っていて、見ていられない。もっとも、お灸を据えているから、僕は動けないので、見ているしかないのだけど。
でも、二人の会話からなんとなーく、どうやって怯えてた男を見つけられたのかは察せられる。イドちゃんの能力なのだと……思う。
「カレイドがさー、こっちの技術持ってここの会社に逃げ込まなきゃもっと楽に済んだんだけどねー」
「言うなめんどくさいことを。カレイドが逃げ出すことはわかっていた。しかし、それは五番目の詩人か黄金艦隊にでも逃げるのかと思っていた……。まさか……」
「その五番目の詩人とかっていうのはなに?」
話の腰を折るようで悪いが、何卒教えてくれませんか?お願いします。でないと、僕はバカ認定されちゃうんです。実際、もう魔導師がどんなものなのかも
一から説明してくれないと僕はわかりません!教えてください、教えてください!プリースヘルプミー!
「五番目の詩人はウェルギリウス、黄金艦隊はアルマダ、と呼ばれる魔導師結社のことだ。そういえば、君には僕らがなんなのか言っていなかったな……。僕らもまたとある魔導師結社に属している。カレイドはそこから脱走した、いわば逃亡者なわけだな」
「裏切り者は逃がさない、と?」
「その通り。そもそも、うちのは魔導師結社と言うにはあまりに大きすぎるから、裏切り者には特に厳しいけれどね。場合によっては世界規模の戦争に発展させることすら辞さない、ふざけた連中さ」
一間置いて、カツェリ君は新しいタバコに火を付けた。そして、一服してフー。わざとだろ、僕に煙を吐くのって。
「
「なぜ?魔法なんてものが存在しない都市なら、魔導師が自分を隠すのに適しているんじゃないのか?」
例えば、今のご時世に『能力』なんて存在しない、と言っている中に能力者の学校を作っているこの都市みたいに。
「いや、違うな。僕らと違ってカレイドという魔導師は『魔導師らしい』魔導師なんだ。そんな彼が魔法なんてものとは縁遠いこの都市に来る、というのは考えにくい。
なぜなら、魔導師というのが神を超越するのを目指す場合、おおよそ様々な手段が考察できるからだ。そのためのプロセスを明確化し、発展させる。
このプロセスを僕らは『魔法式』と呼ぶ。魔法式は『神の奇跡を体現するための公式』だ。この公式は、そうだな……。自分が思い描く神のあり方、とでも言ったおところか。
炎の魔法式なら、炎の神。風の魔法式なら、風の神、といった単純なものではない。もっと具体的な神のあり方。神を超えるためにまず神を目指す、ということだ。ここでカレイドの話に戻るが、カレイドはギリシア神話をベースにした魔法を行使する魔導師だ。
魔導師は秘密主義なニンゲンが多いからな。どんな魔法式なのかは知らない。しかし、ギリシア神話をベースにする場合、この都市はギリシア神話に当てはまらない。
ギリシア神話っていうのは大地より始まってそして大地の仔によって締めくくられる。つまり、根幹にあるのは大地だ。しかし、ここは大地が存在していない。あるのは水の属性。四元素で考えればギリシア神話は『地』だ。この都市を無理やり四元素に当てはめるならば……いや……待てよ」
おい、どうした?僕を置いてきぼりにしないでくれ。ぶっちゃっけ話の九割も理解できちゃいないけれど、でもいきなり話を中断してしまうなよ、僕が追いつけなくなる。
すでに周回遅れなのは理解しているさ。でも、だから追いつけないまでも話の端々を理解できるようにしているんじゃないか。その努力を踏みにじらないでくれ。
「イド、お前のお仲間を都市外縁部に集めろ」
「は?なんで?それに同じ顔をいくつも集めたら怪しまれない?」
「構うか。仮面でも付けさせろ。でないと、カレイドを取り逃がす」
「ボートでも使って逃げる、とか思ってる?ありえねーこともないけど……」
イドちゃんは嫌そうな顔を絶えずカツェリ君に向ける。カツェリ君は苛立ってさっさとしろ、と激昂するけど、それでもイドちゃんはまだ嫌そうに、ごねていた。一体カツェリ君がなにに慌てているのかはわからないけど、ここは協力してあげてはどうだろう?僕も腰の痛みがだんだん引いてきたから、走るくらいなら問題はない。さすがに過度に運動するのはまだちょっとキツイけど。
「つぅ。しょーがないなー、じゃぁ『Move Move』。これでいい?」
「ああ。僕らもそこに向かうからな……」
「分かった……でも、外縁部って言ったって広いぞ?文字通り、都市を一周してるんだからな」
都市の半径、いくらだったかな。正円状に形成されたこの都市のくわしい面積はよく知らないけど、円周率を3にするんだったら楽に導けるのに。とりあえず、すっごい広い、とだけでも憶えておけばいいわけで、都市一周をするなんてバカバカしい。
「誰も一周するとは言ってないだろ、間抜け。そこのポテ腹女がどうせすぐに反応を示すからそこに行きゃいいんだ」
「ポテ腹言うな、放火魔」
「ふぅん。要するにアラートトラップみたいなもの?」
「なんだ、それは?まぁ、理解できているならいいんじゃないか?」
イドちゃんって戦闘向きの魔導師じゃなかったんだ。まぁ、たしかに顔だけ出しているきぐるみ少女じゃ戦闘向きの見た目じゃないよな。話から考えて感知系だろうか。
でも、どうやって感知しているんだろ?お仲間、とかカツェリ君は言っていたから、彼女と似た誰かを媒介にして、視覚とか聴覚とかを経由できるとか。まぁ、この辺は想像しても意味ないか。
さて、とりあえず、だ。
「なぁ、さっきから何を焦っているんだ?」
ほんと、何を焦っているのだろう。さっき、なんか属性がどうのこうの、と言っていた時に突然何かに気づいたのか、話を中断してイドちゃんに食って掛かって、有耶無耶に。
「何が起こるんだ?」
「ちぃ、この記憶障害者。ちょっとは考えろ!僕は君ら御用達のゴーグル先生じゃないんだ」
魔導師が
「寄生虫、と言われることないか?」
「自分でもうんざりするくらいにね。それで?」
「ああ、そうかい。じゃぁ、端的に言ってやる。やつは神になるつもりだ、以上」
はぁ?
しかし、彼女のIQは僕の800倍 賀田 希道 @kadakitou
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