屋上
「死人に口なし」とはよく言ったものだ。
死者は何も語らない。
死体や殺害された現場の情報を残すこともあるが、決して死人がその時の状況を言うことはない。
……故に、死者の声が聞こえる俺は以上であり異端である。
今日も1人で学校の屋上にいると、死者の霊がやってきて自分勝手に話し出す。
今回の霊はどうやら少女のようだ。
死者になった理由は飛び降り自殺。
この現代社会にありふれた、いじめの被害者。
この少女だってきっと、死にたくはなかっただろう。
いじめさえなければ普通の生活を送り、普通の人生を生きていただろう。
だが、既に死んでしまっている以上、できることなんて何もない。
精々話を聞いてやることしかできない。
死んだことも、いじめられたこともない俺ができるのはそれだけだから。
善人なら、きっとこの可哀想な少女を憐れみ、その境遇に涙を流し、いじめた者達へ怒りを募らせることだろう。
常人ならば、怒りは覚えずとも少女を憐れむくらいはしてくれるだろう。
しかし、俺はこの手の話を何百と聞いてきた。
それらに一々怒りを覚えたり、悲しんだりしていては身体が持たない。
だから、俺は相手が満足するまで、静かに話を聞き続ける。
暫くすると、少女は満足したのか一言お礼を言うと何処かへと消えていった。
少しだけ「少女は何処に行ったのだろう」
と、最早顔を合わせることもないだろう少女のことを考えながら、俺は俺自身の日常へ帰っていく。
そしてまた明日、今日とは違う死者の待つ屋上で、いつもと変わらず、彼らの話を聞き続ける。
掌編、短編置き場 綾野 @grand5
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