カルト宗教の親に育てられ、学校でうまくコミュニケーションできなかった少年が、やがて孤独を望み、教師を憎み、殺人者に憧れ……
最終的に自分自身も犯罪者になってしまった、という自叙伝。
私は子供のころずっと学校でイジメを受けていましたし、自分は社会に適応できない異常な人間だという実感もあります。世界全体、人類全体への憎しみもあり、それが小説を書く原動力の一つです。
だから、この小説を読めば共感できるんじゃないか、そこには自分の姿が描かれているんじゃないか。
そう思って読みました。
ところが、ぜんぜん私じゃないんですよ。
主人公の思想も感性も、私と全然違って、「なんでそういう考えになるんだ?」と首を傾げっぱなしでした。
特に、
1、主人公は食べ物を食べるのが好きではない。食欲自体がほとんどない
2、性欲もまったくなく、性的なことに激しい嫌悪感を持っている
この二つがぜんぜん共感できない。
食欲と性欲のない少年! そんなばかな。殺人よりも現実離れしている。
自分には強い欲望がある、だからこそ、自分の肉体を支配している欲望が憎い。欲望に乗っ取られてしまう自分が嫌だ。
欲望に流されてしまう普通の人間たちとは違うんだ、ああはなりたくない。
それなら非常に共感できる。
でも主人公は、そもそも欲望自体がなくて……
だったら彼にとって「性」は「どうでもいいもの」になるんじゃないのか……?
自分と無関係なものでしょう……? なんで嫌悪するの?
このへんがすごくよくわからない……
でも、主人公が抱えている焦りは、よくわかる。
「友達なんていらない、でも一人でいるのも苦しいし、一人ではどこにも進めない」
「学校を出たあと、社会に適応できる自信がなくて、少しでもモラトリアムを引き延ばしたい」
わかるわかる。
そして、小さな「つまづき」を積み重ねていった主人公が、決定的に犯罪を起こしてしまう、その終盤の流れも、迫力がありました。
理解できないところが山ほどあるんだけど、最終的にたどりついた境地は理解できる。
どうすれば彼は、犯罪者にならずにすんだろう、と、いろいろ考えてしまいます。
自分とはぜんぜん違うんだけど、違う人間には違う人間の苦しみがあるんだなあ。
エピソードのタイトルが、「電波的な彼女」→「電波的な彼ら」「悪魔のミカタ」→「夢のミカタ」など、ライトノベルのパロディになっているのも、良い効果を出していると思います。