このすばss③ あの事件の裏側に真相を!@11巻

Cero

このすばss③ あの事件の裏側に真相を!

── 月の光が降り注ぐ中。私はなんとも言えない嬉しさに包まれていた。

私はそんな溢れ出る気持ちを込めて、その原因である男をぎゅっと抱きしめる。

匂いをかいでみると、1週間振りの、私を安心させる匂いが鼻いっぱいに広がってくる。


もう離しません。もうどこにも行かないでください。


そんなことを思いながら、私の腕の中で荒い息を吐いている男 ー カズマを見た。





──────────────────────




エルロードでのことがあった後、私たちは2週間の間城に滞在した。そして、城での生活に満足した私たち3人は今、アクセルの街にある屋敷に帰ってきていた。

因みにカズマはと言うと、アイリスに甘えられてあと1日だけ城に残ってから帰ると言って城に残っている。


本当にカズマはアイリスにだけは甘いんですから。少し妬いてしまいます。


そんなことを思いながら私達は2週間ぶりの屋敷に足を踏み入れた。



「ただまぁー」


そんなアクアの言葉を聞いて、私はこの屋敷に戻ってきたという実感がわいてきた。


「にしても、カズマは本当に大丈夫だろうか。あいつを王都に一人残らせるなんてやはりやめといた方が良かったか?」


ソワソワしているダクネスに私は


「まぁ、1日だけと言っていましたし、そんなに心配しなくてもいいのではないでしょうか」


ローブを脱ぎながらそう言った。


本当のことを言うと私も少し心配なのです。

アイリスに甘やかされてイチャイチャしていなければいいのですが……


「ねえ、めぐみん、ダクネス。そんな事より私、お腹すいたんですけど」


「確かにお腹がすきましたね。今日の料理当番は誰でしょう?」


「たしか、今日はカズマだった気がするぞ」


「そうですか。なら今日は私が代わりに作りますよ。」


カズマが帰ってきたら、私が料理当番を代わってあげた分しっかりと働いて貰いますからね。

そう思って私はキッチンの方へと歩いて行き呟いた。


「さて、今日は何を作りましょうか」



── この時、私達はまだ、カズマがあんな事を言い出すなんて思ってもいなかった。



次の日の朝のこと。


「アクア、めぐみん、来てくれ!」


ダクネスがそう言って私たちのことを呼んできた。


「どうしたのですかダクネス。あと、アクアはまだ寝てますよ。起こしてきましょうか?」


「ああ、頼む」


私がアクアを起こしてダクネスのところに戻ると、ダクネスは一通の手紙を見せてきた。その手紙は王都からのもだった。

私はそれを受け取り読んでみる。アクアも横から目をしょぼしょぼさせながら覗いてきた。

それを読み終わった私は


「はぁ、まったく。どうせあの人はアイリスに甘えられて帰りたくなくなったのでしょう。相変わらずチョロい男です。ずっと城で暮らすだの、カズマがいなくても魔王を倒せるだの、この人は何を言っているのでしょうか」


「良いじゃない。毎日引きこもってるカズマさんが屋敷にいない日なんてそうそうないわよ?今日は私がソファーを独り占めできるわ!」


そう、その手紙には


やっぱりアクセルには帰らない事。

ずっと城で暮らすから、残っている荷物や部屋にある財産、屋敷も好きにしてくれて良いという事。

カズマがいなくても、私たちなら魔王を倒せると、陰ながら祈っているという事。


そんなような冗談がつらつらと書かれていた。


「その通りだまったく。変な冗談ばかり書いて。どうせ一日滞在を延長したいのだろう。私が返事を書いておこう」


ダクネスは溜息をつきながらそう言った。


「そうですね。お願いします。私としてはすぐにでも帰ってきて来て欲しいのですが」


私も溜息を吐き、手紙をダクネスに返す。

アクアはというと嬉しそうにソファーでゴロゴロとしていた。


「わかった。では、できるだけ早く帰って来いとでも書いておこう」


そう言ってダクネスは微笑みながら部屋へと戻って行った。





昼になって、私は一度2人を呼び集めた。


「どうしたのめぐみん。何で私たちを呼んだの?」


「そうだめぐみん、今から何をするというのだ?」


そう言って2人は私に疑問を投げかけてくる。

私は2人に向かってこう言った。


「今はカズマが居ません。こんな機会は珍しいです。ですが、こんな時こそ。カズマがいない時こそ!

私達だけでもクエストが出来るんだという事を証明して、帰って来たカズマを驚かせてやりましょうよ!」


そう、いつまでも頼りきりなのは良くないのです!


私がそう言うと、アクアは乗り気で


「いいわね、私は乗ったわ!いつも私達の事を散々に言ってくけど、私達も成長してるものね!ここらで私達の大切さを教えてやろうじゃないの!」


「わ、私たちだけでか?それは、大丈夫なのだろうか……」


ダクネスは不安そうに行ってくるが、私たちだって成長してます。何だかんだ言って、今まで沢山の魔王軍幹部を倒しているのです。


「大丈夫ですよ、ダクネス。今更ここらの雑魚モンスターなら私たちでも余裕でしょう。それに私には取っておきの秘策があるのですよ」


そう言って私はダクネスに向かってにやりと笑った。




そんな事で、私達は宿敵であるジャイアントトードの討伐に来ていた。

この程度のモンスターならば、我が作戦の前になすすべもなく敗れる事でしょう。

その私の作戦というのは……


全員が金属の鎧を着るというものだ。


なんという金にものを言わせた作戦でしょう。と自分でツッコミたくなる作戦だが…それはひとまず置いておきましょう。


このカエルは金属装備を嫌います。そのためしっかりとした装備が整った、中級冒険者にとっては、絶好の獲物になります。

カエルたちは今の私たちを食べることは出来ません。そして私達は一方的に相手に攻撃できる。我ながらなんという完璧な作戦でしょう。


それに、私もアクアも何だかんだ言って筋力パラメーターはまあまああるのです。金属の鎧ぐらいであれば多少着慣れてなくても大丈夫でしょう。


そんなことを思いながら私たちは早速、2匹のジャイアントトードと対峙していた。


「まずは私に任せてください!」


そう言って私はいつもの詠唱を始めた。そして


「エクスプロージョン!!」


辺り一帯に爆音が響き、それに続いて大きな爆風が肌を撫でる。


私は冒険者カードを見ながら2人に


「やりました。今ので2匹のカエルを倒しましたよ」


そう言って地面に倒れ込む。


「おおー!でかしたぞ。これで残るはあと3匹!アクア私たちで残りも倒しきるぞ!」


「しょうがないわねぇ。女神の本気見せてあげるわ!」


そう言って2人は今の爆音で目を覚ましたカエルにかけて行った。


「これは今回は上手く行きそうですね。」


私はぼそっと呟くが。いまはそれをフラグだと指摘してくれる人は居なかった。



4匹目までは順調だった。



今回はいつものように食べられたりはしない事で安心感があったものの、逆に食べられないという事は動きを止める手段が無いという事で。

なかなか攻撃の当たらないダクネスはもちろんの事、パンチ系攻撃しか出来ないアクアでは1匹仕留めるだけでも一苦労だった。


……というかアクアは1匹もしとめてないのですが。


それでも長い時間を掛け、ようやく4匹目をダクネスが切り伏せた時。


そいつは姿を現した。


一見普通のジャイアントトードだが、そいつは一味違った。


この世界のモンスターには、変異種というものがいる。それは凄い変化があるものもいれば、ちょっとした変化しかないものもいる。

そして、このジャイアントトードはと言うと……



金属を好んで食べるという性質をもっているものだった。



もちろん最初にそのカエルを見た時は、そんな事は知るよしもない。今までの経験からカエルが今自分を襲ってこないとわかっていたアクアは、さっきからカエルに何回も殴りかかってちょっかいを出していた。……本人は至って本気なのでしょうが。


そんなアクアはそのカエルに近づき、さっきまでと同じ様にカエルにパンチを繰り返していた。すると、


アクアは鎧を着ているにも関わらず、いきなり頭からパクッといかれた。


私達は呆然としていた。


「い、今、アクア、食われましたよね……?」


私は顔だけを上げダクネスに聞く


「あ、ああ。今ちょうど食われてる最中だな」


私とダクネスは顔を見合わせ……


「「ア、アクアぁー!!」」


そう叫んで、アクアを助けに走って行く。

もちろん私は寝ころがったままですが。


そして私はダクネスがアクアを助けている様を温かく見守っていた。




何とか変異種のジャイアントトードを倒した私達は泣きじゃくるアクアを連れ屋敷に戻ってきた。


「うっ……うぐっ……。ぐすっ……。何で、何でよう……!」


そう言って泣きながらアクアは風呂へと向かって行く。私も今回はアクアに同情します……


ダクネスはというと、ギルドにクエスト完了の報告と引取りの手続きをしに行った。

私は鎧を脱いでソファーにだらーっと座り込み、今回の失敗の原因を探っていた。


「今回の作戦は我ながらに完璧だも思ったんですが……」


そう呟いて今日の事を思い出す。


途中までは順調でした。

アクアは置いといて、攻撃されないダクネスが時間をかけて1匹1匹倒していき、そのまま行けばなんの問題もなかったのです。

しかし、とても遭遇率の低い変異種に、しかも鎧を着て対策をしたこの日に限って遭遇するとはどういうことなのでしょう。こんなの、とてつもなく運が悪いとしか思えません。


……ん?運が悪い?


そこで私はピンと来てしまった。カズマは幸運値が異様に高いことを。

そして、アクアの幸運値が異様に低い事を。



……これから3人だけでクエストを受けるのはやめましょう。

そう思って、私はゆっくりと瞼を下ろした。




カズマからの手紙が届いてから3日が経った。

カズマはというと……未だに城から帰って来ていない。さすがの私達も、イライラが溜まってきていた。


「いい加減何をしているのですかカズマは。さすがに長すぎますよ!」


私は帰って来ないカズマに向けて愚痴をこぼす。当然、カズマには届きはしない。


「まったくだ。本当に何をしているんだアイツは!まさか手紙に書いてあったことは本気だとでも言うのか!」


ダクネスもイライラしながらカズマ宛の手紙を書いている。

最近のダクネスと来たら、一日中ずっとイライラしたままだ。


やはり、いつものカズマの舐め回すような視線がなくて、性欲が溜まっているのでしょうか。

なんていやらしい子でしょう。


そう思いながらも、私も最近カズマの顔が見れなくて悶々としていた。


私もそろそろヤバいですね。カズマパワーが足りません。早くカズマに会いたいです。


そんなことを考えながらアクアの方を見てみる。


アクアはと言うと今までと変わらずソファーでゴロゴロしていた。しかし、その顔はずっと不機嫌な表情を浮かべている。


「カズマが帰ってこないなら、屋敷は私の物でいいわよね。ダクネスもめぐみんもお家があるし。あんなニートの事なんて、もうほおっておきましょう。あんなのはもう帰って来なくてもいいと思うの」


アクアがぶっきらぼうにそんなことを言ってくる。しかしその顔はやはり不機嫌なままだ。


「はいはい、わかりましたよ。もしもの事があれば屋敷はアクアのものでいいですよ。ね、ダクネス」


「あ、ああそうだな。早く帰って来ないと本当にアクアのものになるぞと書いてやろう」


そう言ってペンを走らせる。


「でもアクア、カズマが帰らなくてもいいというのはダメですよ、カズマがいないくなるのは、何だかんだ言ってアクアも困るでしょう?」


先日のクエストのことを思い出したのか、アクアはううっと唸っていた。

私はダクネスの隣に近づき、手紙を覗き込みながら言った。


「ダクネス。カズマにはすぐに帰って来いと言ってやってください。私が待ってますよと」


「ああ、わかった。ええっと。『カズマが帰ってこなくて、めぐみんが毎日屋敷をウロウロして、寂しくて今にも死にそうだから早く帰って来い』っと」


「ちょっと!何を書いてるんですか!ちょっと貸してくださいっ!『カズマがいなくて、性欲をもて余していてララティーナおかしくなっちゃうの。だから早く帰って来て』っと」


「おおおい、私は性欲をもて余したりしてないぞっ!そんなことは書くな!」


ダクネスが反論してくるが


「何を言ってるんですか。今だってモジモジしてるじゃないですか!」


「モ、モジモジなんかしてないぞ!」


そう言ってから、私は手紙とペンを返し、溜息をついた。


「とりあえず、カズマにすぐに戻ってくるようきっちりと書いておいてくださいね」


ダクネスは頷くと、もう一度手紙を書き始めた。


本当に早く帰ってきてくださいよ。寂しいじゃないですか。


そんなことを思い、私はもう一度深い溜息をついた。




2通目の手紙を送ってからも、カズマは一向に帰ってくる気配を見せななかった。

そして、私たちの周りの空気は日に日にどんどん悪くなっていく。

今日は、私はアクアを連れて日課を済ましていた。


「さすがはめぐみんの爆裂魔法だわ。いつ見ても大迫力ね」


アクアはそう言って私をおぶってくれる。ここ数日の間はアクアとダクネスの2人に交互に付き合って貰っていた。


それはとても助かるのですが……


「やはり、カズマじゃないと採点が甘々ですね……」


私はアクアに聞こえないような小さの声でボソッと呟いた。


あと、やっぱりカズマにおんぶされるのが一番安心します……早くカズマと爆裂デートがしたいです。そして、カズマにおぶって貰いたいです。


そんなことを思っている間に、私とアクアはウィズの店にの前に着いていた。アクアが店のドアをゆっくりと開ける。


「おや?これはこれは。最近成金小僧が屋敷にいなくて毎日まだかまだかとウロウロしている紅魔の娘ではないか。へいいらっしゃい!」


「はいはい、そうですよ。こんにちは」


私はそう言って受け流し、カウンターに居るウィズのところに向かって行く。


「ちょっと!私はどうしたのよ!私も来てあげたお客さんなんだから、ちゃんといらっしゃいって言わなきゃダメじゃない!お客さんは神様でしょう!」


「毎回毎回ウチの商品をダメにしといて何が神様だ!そんな神様がいるのなら天界よりも地獄の方がお似合いである!おおっと失敬。貴様は本当に神であったな。早く地獄帰るが吉っ!」


「きいいーっ!ちょっとあんた!地獄へ帰れとか女神に言ってはいけないことを言ったわね!私は女神なんだからあんな地獄なんていう薄汚い場所じゃなくて、美しくも神々しい天界に帰るのよ!あんたこそここで浄化して地獄に送ってやってもいいんだからね!」


「これはこれは、我輩をタダで故郷へと送ってくれるときたか!たまには気の利くことを言えるではないか、礼を言わねばな。フハハハハハ!」


「むきいいいーっ!」


そう言っていつもの様に喧嘩を始めた。しかし、アクアにはいつものキレが見られない。バニルに言い負かされている。

私はと言うとウィズにドレインタッチで魔力を分けてもらっていた


一通り喧嘩を終えたアクアは、元気が無さそうに私と一緒にテーブルでだらーとしていた。そして『放蕩ニートはまだなのー?』と小さな声で呟き、はぁと溜息をつく。

お茶を入れていたウィズがそれを見て。


「アクア様。今日は元気がないですね。どうしたのですか?」


そう言って首を傾げてくる。アクアは黙ったままお茶を啜っているので、私が代わりに口を開いた。


「数日前からカズマが王都から帰ってこなくてですね、俺は城に住むことにしたからと言い出しまして。それでアクアは毎日暇そうにしていて元気がないのですよ。」


それを聞いたウィズは少し驚きながら


「まあ、そうなんですか。カズマさんったらこんなにも思ってくれている人達がいるのに城で暮らすと言い出すなんて」


「わ、私はカズマがいなくてもなんとも思ってないんだけどね!ただ、めぐみんとダクネスが心配して、見ていられないから早く帰って来て欲しいだけよ」


そう言ったアクアを、ウィズはニコニコしながら見ていた。


「そうなんですね。めぐみんさん、カズマさんが帰って来たらちゃんと伝えてくださいね。アクア様がカズマさんの事を待っていたと」


「だからなんで私がカズマを心配してることになってるのよ!アイリスにうつつを抜かしてる放蕩ニートなんて帰ってこなくていいわよ!」


そう言ったアクアはそっぽを向いてからまた、はぁと溜息をついた。それをウィズが楽しそうにニコニコして見ている。


なんか拗ねてる子供を見守っているお母さんみたいですね。


そんなことを思いながらお茶を啜っていると、棚の方で商品の整理をしていたバニルが


「貴様ら!用がないならとっとと帰れ!ウィズも毎回毎回お茶を出してくれるな!こヤツらが帰らぬだろうがっ!」


そう言って私たちに怒鳴ってくる。


確かにこれでは店の邪魔をしているだけですね。いつも人がいないのでついついお喋りしに来てしまいます。そう思って私はアクアに


「そうですね。このままだと邪魔になってしまいます。アクア、夕飯の材料を買って帰りましょう。カズマがお金を好きに使っていいと言っていたのですから、今日は霜降り赤ガニでも食べましょう」


そう言って私はバニルを威嚇するアクアを連れてウィズの店をあとにした。






霜降り赤ガニとお酒を買った私たちは、屋敷に着くと夕飯の準備を始めた。今日は私の当番の日ですが、霜降り赤ガニを並べるだけなので、私は手早く準備し、ダクネスを部屋に呼びに行った。アクアも手伝ってくれて、食器を並べている。


私はダクネスの部屋の前に着くと


「ダクネス。夕食の準備が出来ましたよ。今日はカズマのお金で霜降り赤ガニを買ってきました」


そう言って、扉を開けて……


……ベットの上で性欲の発散をしているダクネスと目が合った。


私は何ごともなかったかのようにそうっと扉を閉める。


「めめめ、めぐみん!い、今のは違うんだ!ほんとに違うんだ!!だから何事も無かったように扉を閉めないでくれ!!頼むからそんな目で見ないでくれ!」


必死に言い訳をするダクネスに、私は呆れながら


「何が違うんですか。どうせ、カズマがいなくて性欲が溜まり、そうやって自慰行為で発散していたんでしょう」


そう言って溜息をつき、手を洗って早く来てくださいと言って、私は食卓の方へと歩いていった。


ここ最近の私は何回溜息をついているのでしょうか。カズマがいないだけでまさかこんなことになるなんて……本当にカズマは何をしてるんですか!



そんなことを思いながら再び広間に戻り、テーブルでゼル帝を撫でようとして手をつつかれているアクアの隣に座る。そして遅れて来たダクネスも席に座った。

ふと、私は前々から思っていた、テーブルの上の違和感についてアクアに尋ねる。


「アクア。そういえばここ最近、毎日食器が1枚多いですが……どうしたのですか?」


私がアクアに尋ねる。まあ、大体予想はついていますが。


「それは帰って来ない放蕩ニートの分よ。もしかしたら食べてる間に帰ってくるかもしれないでしょう?」


「それはどうだろうか。あいつはもう帰ってこないつもりだろうからな。2回も手紙を送り、今日もキレ気味に書いた手紙を送ったが帰ってこないのだから、今日ももう帰って来ないだろう」


ダクネスは少しの申し訳なさそうにアクアに言う。しかし、アクアは


「もしかしたら帰って来るかもしれないじゃない。もし帰ってこなかったとしてもダクネスが食べればいいし、用意だけはしといたの」


そう言ってからいただきますと言って霜降り赤を食べ始めた。


私たちそんなアクアを見ていたらこれ以上何も言えなくなり、黙々とカニを食べ始めた。



最近の夕食はとても静かだ。いつもなら、アクアが馬鹿なことを言ってカズマがつっこみ、ダクネスが変なことを言ってカズマがつっこみ、私がとても楽しい話をして、カズマがとても面白そうにうんうんと頷いてきたり……


え?私も馬鹿なことを言って突っ込まれてるって?そんなわけないじゃないですか。私は紅魔族一の天才魔道士ですよ?この2人のようなことは言いません。

……本当ですよ?


そんなことを思ってる間もカニを割るパキッという音と酒の栓を抜くぽんっという音だけが響き渡る。……静かです。


そんな沈黙を破ったのはダクネスだった。


「あいつは、カズマは本当にこのまま帰って来ないつもりなのだろうか。もし帰って来ないのなら……私たちはこの先どうすればいいのだろう」


そんなことを言われると、私もすごく心配になってくるのですが。あの人はアイリスに『お兄ちゃん大好き。ずっと離れません』みたいな事を言われたら何もかも捨ててお城に住んでしまう、そんなダメ人間です。するともしかしたらそんなこともありえるのかも……


でもそれって、私よりもアイリスを選んだということですよね。そんなことになったら私はどうすれば良いのでしょう……


こんなことを考えていると本当にそう思えてきてしまうので、私は頭を振ってこの考えを頭から追い出し、思っていた事とは違うことをダクネスに言った。


「どうせカズマのことですから、お城で好き勝手にやって、クレアやレイン達に追い返されたりして帰ってきますよ。そうしたら思いっきり怒ってやりましょう」


「それもそうだな。その時はカズマが泣いて謝るまで追い詰めてやろう」


そう言って、少しだけ顔を明るくした。

アクアはというと、怒った顔で


「もし、今日帰っれこらかっらら、カズマが外から入っれこれらい様、窓に木板をうちつけてやるんらから。そして、『アクア様許しれくらさい』っれ言うまれ絶対に屋敷に入れらいらら!」


そう言ってお酒をグイッと煽る。

というかアクアちょっと飲み過ぎではないですか?

ダクネスもそう思ったのかアクアに


「おいアクア。ちょっと飲みすぎではないか?それじゃあ酔いつぶれてしまうぞ」


「らいじょうぶよ、ラクネスゥ。酔っらろしれもげろくまほうかければいいじゃらい」


アクア、めちゃくちゃ酔ってますね。

そう思いながらも誰も何も言わない。


いつもならカズマが『何言ってんだ!お前べろんべろんじゃねか!お前いつも女神女神言ってるがこの姿の一体どこが女神だって言うんだ!言ってみろ!』とか言ってアクアと言い合いになって、それを見たダクネスが『まあまあ』と止めに入って私が微笑みながら見守って……


そんな光景はもしかしてもう見られないのでしょうか……

もうカズマは私たちの所に戻って来ないのでしょうか……


そんなことを考えていると、私の頬に何がポロリと落ちてきた。


私は泣いていた。


「お、おい、めぐみん。どどどうした?な、なんで泣いてるんだ?」


泣いている私を見てダクネスがおどおどしながら尋ねてくる。私はなんとか


「い、いえ。何でもありません」


私は涙を零しながらも、心配かけまいと必死に言った。


……なんで泣いているんでしょう私は。こんな時こそ私がしっかりしなくてはいけないのに。


そう思うも一向に涙は止まらない。


カズマがいないだけなのに。ただ、一人の仲間がいないだけなのに。どうして涙が出るんだろう……


確かに私はよく仲間思いだと言われます。カズマにもお前が一番仲間思いだといわれました。

多分それもありますね。私はずっとこの4人と楽しく暮らしたいです。でも、ダクネスがいなくなった時でも私は泣いたりなんか……

そう思ったとき、私の答えはすぐに出てきた。




──ああ、わかりました。私はそれだけカズマが好きだったんですね。もう会えないかもと思うだけで涙が出てしまうほどに……私はカズマのことが──




しばらく泣いたあと、私は


「すみません、取り乱してしまって。もう大丈夫です。」


そう言ってダクネスに微笑みかける。

アクアはと言うと、酔いつぶれてヘラヘラとしていた。


ダクネスは心配そうに私を見て言って来た。


「そ、そうか。良かった。何か辛いことでもあったのか?もし何かあったら話くらい聞いてやるぞ」


「ありがとうございます。でも、もう大丈夫です。ちょっと溜まっていたものが爆発してしまっだけですから。私はお風呂に入って気持ちを落ち着かせてきますね。アクアのことをお願いします」


そう言って立ち上がり、未だ心配そうに見てくるダクネスにもう一度微笑み返して私はお風呂へと向かった。


後ろでは、酔ったアクアが、結局今日も帰って来なかったカズマの分のカニをダクネスに無理やり食べさせていた。


……最近毎日ダクネスに食べさせてますよね。






私は髪を結び、タオルをまいて、ゆっくりとお風呂に浸かる。


やはりここのお風呂は安心しますね。


そんなことを思い私は目を閉じ、縁に腕を組み顔を乗せながらお湯に浸かる。


そういえば、ゆんゆんに再開した後ぐらいにに、カズマと一緒にお風呂に入ったことがありましたね。あの時も何だかんだいって安心している自分がいた気がします……


「……やっぱり、早くカズマに会いたいです……」


そっと呟いた一言に、私は今更ながら少し恥ずかしくなる。


というか、ダクネスが鈍感で良かったです。もし私がカズマに会えなくて泣いていたなんて知られたらなんて、想像するだけで恥ずかしいです。


そしてまたもや、はぁと溜息をつき


……早くカズマに会いたいです。いつまでアイリスにたらし込まれているのですか。早く戻って来てください。


本日何度目になるか分からないことを思い、私はちゃぷんと風呂のお湯を鳴らした。




次の日の昼のこと。


今日でカズマがいなくなってから1週間が経った。そんな中、ダクネスのお世辞にも美味いとは言えない普通の料理を食べていた時のこと。


外で木板を打ち付ける作業が終わったのか、屋敷に戻ってきていたアクアの叫び声が聞こえてきた。


「ドラゴン泥棒ー!」


ドラゴンってゼル帝のことですか?あんなひよこを盗もうとする物好きなんているはずがないでしょうに。


そんなことを思いながらご飯を食べ続けている私の耳に。


「帰ったぞー!ダクネス、めぐみん、いるならここを開けてくれー!アクアのバカが鍵かけやがったんだ!」


外から聞き覚えのあるあの人の声が聞こえてきて、私はガタンとイスから立ち上がった。


もう聞き慣れたあの人の声。引きこもりで、タラシで、ダメ人間で。機転が利いて、仲間思いで、優しくて。そして、私の大好きなあの人の声が……!


ダクネスも聞こえたのか、驚いた顔してから、すぐに顔をニヤけさせた。


きっと私の顔も同じような表情になっているのでしょう。


「おい、めぐみん。今のはカズマの声だよな?」


「はい。聞き間違えるはずがありません。今のはカズマの声です。」


そう言って私達は二階の窓の方へ走り出した。


ないとは思いますが、これでバニルが『残念。我輩でした!』とか言ってきたら、さすがの私もブチ切れますよ。


そんなことを思いながら高鳴る鼓動を抑えつつ、私は階段を駆け上がり窓の所へと走って行く。ダクネスも隣を走っていた。


私達は窓を開けて顔を覗かせると、そこには正真正銘のカズマがいた。

そう、私の大好きなあのカズマが。


そんなカズマにキッとした表情をしダクネスが


「よくもまあ、今更ノコノコと顔を出せたものだなカズマ。城での1周間の暮らしは楽しかったか?」


そうやって嫌味たらしく言った。私も


「ふふふ、随分と舐められたものですね私達も……!あれだけ格好付けておいて、私たちを先に帰らせた後、そのまま一人だけ城に居座るとか……!あんな空気を作っておいて、さすがの私も予想外でしたよ!」


そう言って、杖を振り回しながらここ一週間のイライラをぶつける。


すると、カズマは頭にはてなマークを浮かべて不思議そうに首を傾げていた。


どうしたのでしょう?


「おい待て。お前らが先に帰ってから、俺が1週間も城にいただとか。そりゃ一体どういうこった。俺は昨日一晩泊まっただけだろう。それがなんで……。……あれ?」


それを聞いて私はさらにカズマに言ってかかった。


「おい、すっとぼけるとはいい度胸じゃないか。爆裂魔法で人はどれだけ飛べるのかという実験をしてやろうじゃないか!」


カズマがいない間、私がどれだけ寂しい想いをしたかっ……!ダクネスもアクアも心配していたというのにこの男はっ……!


そう思って隣を見ると、ダクネスはふと首を傾げていた。


「……カズマ、お前は城で何をやらかしてきた。王家でも滅多に使われない、禁忌とされている記憶消去のポーションを飲まされたな?服用した量により、記憶がスッポリ抜け落ちる。あれは、運が悪いと、副作用でバカになるはずだがその辺は心配なさそうだな」


記憶消去のポーションですか。そんなものがあるのですね。カズマは一体何をやらかしたのでしょう?あと、副作用でバカになるというのは……


「私からすれば、この男はもうバカなことを口走っていると思いますが……しかし、記憶消去のポーションですか?……確かに、ちょっと先程から態度がおかしいのですが……記憶を失ったフリでもして誤魔化しているんじゃないでしょうね?……でも、もし本当に記憶を失っているのなら、そんな状態のカズマに制裁を加えるのも、何だか良心が痛むのですが……」


私は本当にそんなものが使われているのかと少し不安に思ったが、カズマの様子を見て、演技ではないと感じ、溜息を吐いた。


カズマもしばらく考え込んだ後


「俺の記憶には、お前らを見送った、すぐ後の事ぐらいしかないんだが。確かあの後アイリスの部屋に呼ばれ、そこで……」


そう言ってまたも黙り込む。


やはり、カズマは記憶を消されたのでしょう。そう思っていると、カズマが深刻そうな表情で


「おい、良く分からんが、俺は持ち前の運の強さと巻き込まれ体質から、何か重大な国家機密を知ってしまった気がする。そして、俺という重要人物をどう処理するかを、何日も掛けて緊急会議でも行っていたんだろう。その間、俺が帰らない事をお前らが心配しない様、適当な手紙をでっち上げられたと思われる。……で、会議の結果俺を殺すには惜しいとの判断になり、こうして記憶を消されて帰された、と。そんな予想を立てて見たんだが、どうだ?」


そんなことを言ってきた。


「むう……。あながち的外れでもない……のか?しかし、他にこの男に、わざわざ記憶消去のポーションなんて物を飲ませる理由も……」


ダクネスが腕を組みながらうんうん唸っている。


しかし、そう簡単に、そんな大事になるものなのでしょうか……?


「ど、どうなんでしょうか。この男の事だから、アイリスに甘えられて雰囲気に流され、そのまま残っていただけな気もしますが……。ですが、そんな事で記憶を消される理由にもなりませんし。うーん……」


そう言って私も悩み出す。本当にそうなのでしょうか?


そんなふうに悩んでいた私たちにカズマが一言決め手となることを言ってきた。


「クレアっていただろう。俺にはなんだか、あいつが全ての元凶という気がするんだよ。あいつとはアイリスの事で意気投合していたはずなんだ。それがなぜだか、俺はあいつに復習しなきゃ行けない気がする」


その言葉を聞き、ダクネスの顔が険しくなった。


「……なるほどな。確かにシンフォニア家の当主であれば記憶消去のポーションだって使う権限がある。しかも、彼女は国の中枢を務める人間でもある。しかも、確かにお前はクレア殿と友好を深めていたはずだ。……ふむ、なんだか信憑性が出てきたな」


確かに、この話を聞くとなんかそんな気がしてきますね。でも、なら。


「まあ、こうしてちゃんと帰って来てくれただけで良しとして上げましょう。その代わり、ここしばらくは爆裂散歩に付き合って貰えなかったんですから、明日からは」


私が『明日からは、爆裂散歩に付き合って貰いますよ。最近、カズマとじゃないと満足できませんでしたから。』と言おうとした時


「何を言ってるの2人とも?バカなの?口から先に生まれた様なクソニートの言う事を真に受けるとか大丈夫なの?このロリコンニートは、きっと、お兄ちゃん大好きとか言われたらそれだけで流されて残るとか言い出す男よ?そのまま執事やメイドに身の回りの世話してもらう生活が居心地良すぎて、もう私達なんてどうでもいいやー、ここでのんびりと暮らそうとかって、きっとそんな感じだったに違いなわ」


アクアがカズマに言ってかかった。


確かに私も少しそんな感じはしていますが……

でもアクアがそういうのも仕方ないですね。この1週間、アクアは珍しく毎日つまらなさそうにしてましたし。『放蕩ニートまだー?』とよく言っていたりもしていました。きっと帰って来てくれて嬉しいけど、私達をほったらかして行ったのが頭にきてるのでしょう。


そんな中、カズマがアクアに言い返す。


「お、おい、失礼な事言うな。そんな事あるわけ……が……。……あれえー?」


もしかして、本当にアクアの言う通りなのでしょうか。アクアってたまにめちゃくちゃ鋭いこと言ってきますからね。

そんなカズマの返事を聞いたアクアは勝ち誇るように


「ほらみなさい!暫くの間は、この屋敷への出入りを禁じます。どうしても入れて欲しくなったなら、アクア様ごめんなさいと土下座して、これから1日3回、この私を崇め奉る祈りを捧げること。そうしたら入れてあげてもいいからね。それが出来ないのならあっちへっ行って!ほら早く、あっちへ行って!まったく、これ以上ウチのダクネスとめぐみんをたぶらかさないてくれます?」


そう言って窓をぴしゃんと閉めた。


私はたぶらかされてなんて……いないと思いたいです……

私はあまり自信が持てなかった。

確かに最近、カズマに甘すぎる自分がいる気がします。でも、せっかく戻って来てくれたのですし……


私は、でもアクアは何を言っても入れてはくれなさそうだなと思いそれなら代わりになにか出来ないかと考えていると、ふと私の財布に手が当たった。そうです。この方法で行きましょう。私はダクネスを手招きして作戦を伝えた。


それから私は、窓に近付いて、つい先程アクア打ち終わったと思われる木板を見て唖然としていたカズマに向かって私の財布を落とす。そして私はくるりと後ろ向きその場を去ろうとした。

ダクネスはというとカズマの部屋の方へそそくさと駆けて行き……


そうして戻ってきたダクネスの手には私の伝えた通り、包みに包まれた弓とロープ付きの矢を下に向かって落としていた。


これで夜中になれば二階の部屋の窓から中に入れるでしょう。


私はそう思って後ろを振り返らず、昼食の続きを食べに下へと降りて行った。






私達はアクアの覚悟を甘く見ていた。

昨日は酔いながらだったので、軽い冗談で作業をしていると思っていたのですが。


カズマが屋敷を離れていった後、アクアは『二階の窓にも板を打ち付けるから手伝って頂戴』と言って、2階にある全ての窓にも木板を打ち付けていった。これでは私達の作戦が無駄になってしまうと思い、さすがに自分たちの部屋は窓が開かないと不便だからと言うと、そこだけは木板を打ちつけられずに済んだ。こうなると、カズマは私かダクネスの部屋から入ってくることになりそうです。


まあ、力のあるダクネスの部屋から入れば楽に引き上げて貰えますし、多分ダクネスの部屋に来るでしょう。


そう思いながらも、もしかしたら私の部屋から登って来てくれるかもという淡い期待もせずにはいられなかった。が、今はカズマが屋敷に侵入してカズマとアクアが仲直りするのを最優先にしなくては。


と、そんなことを思っていると、こういう時は用心深いアクア。


「今日の夜はカズマが入ってこないよう、2人の部屋の見回りに行くからね。今日だけじゃなくてしばらくの間、カズマが入ってこないよう見張っといてね」


そんなことを私とダクネスに言ってくる。

なぜこんな時だけこの子は物凄く賢くなるのでしょう。


こうして私は夜に見張りをすることになったため、見張りに備えて夜まで昼寝をすることにし、ベッドの上に寝転がった。




── 私はアルカンレティアの噴水の前で、カズマのことを待っていた。服はいつもと違い、オシャレな白いワンピースを着ている。私は自分に似合っているか少し不安になる。

すると、いきなり目の前が明るく光ったかと思うと……そこにはカズマが立っていた。


カ、カズマ!?今テレポートで出てきましたよね!?いつの間にテレポーとなんて習得していたのですかっ!


そんなことを思いながらも、私の目はカズマに釘漬けになっていた。


カ、カッコイイっ……!


カズマはと言うと、上は白いTシャツに、カーキーのオープンカラーシャツを着て、下にはジーンズを履いている。


なんというオシャレでしょうか。カズマも普段からオシャレに気を使えばもっとカッコよくなるのに。


カズマはそんな私の気持ちなど知らずに私の方に寄ってきて


「よう、めぐみん。そ、その、ワンピース似合ってるぞ」


カズマは少し照れながらそんなことを……


えっ!えええっ!な、なんですかっ!今日のカズマはめちゃくちやカッコいいですっ!というか普段似合っているなんて全然言ってくれないのにどうして!?



私が動揺してるとカズマは私の手を取り


「ほ、ほら行くぞ。今日はデートなんだろ。こんな楽しい時間、1分1秒でも無駄にしたらもったいないだろ」


そう言って私の手を引き、人混みの中へと入っていく。


デ、デート!?そうですか。今、私たちはデートをしているのですか。なるほど。だからさっきからカズマがこんなにもカッコよく見えるのですね。

というかいきなり手を掴んで引っ張って行くとかなんですかっ!ヤバすぎますっ!


私は胸をドキドキさせながらカズマにされるがままについて行く。



「あのー、今日はやけに街が静かですね。いつもならアクシズ教徒が目に入るなりすぐに勧誘してくるというのに。」


私が辺りをきょろきょろしながらカズマに言う。すると、驚いたような顔をしてカズマが言ってきた。


「何言ってんだ。アクシズ教徒の人達は魔王討伐でちょっっとだけ活躍したアクアをチヤホヤしに行ってるよ。今日も朝見ただろ。あいつらがいるアクセルの街はそれはもう凄い光景だったろうが」


なんの事だかさっぱりですが、そもそもなんでアクアがチヤホヤされてるんですか?しかもアクシズ教徒総出でって……そんなの絶対見たくないです。

ってあれ?魔王討伐?私たちは魔王を倒したんでしたっけ?あれえー?


私は頭が混乱してきらたので、今はデートに集中しろと自分に言い聞かせ、細かいことは考えまいと頭を振って少し落ち着く。


そんなことよりも今はデートです!こんなカッコいいカズマはそうそう見られません!今のカズマは銀髪盗賊団をやっている時ぐらいカッコいいです!!


こうして私たちは食べ歩きをしたり綺麗な湖を見てみたり、エルフとドワーフの喧嘩を眺めたり、街の外で撃った爆裂魔法で100点満点を貰ったり、一緒に温泉に入ったり。


そんなことをしているうちに辺りはすっかり暗くなって……


今私達は街を見下ろせる丘の上で肩を並べて座っていた。街の灯りや月の光ががキラキラと水面に反射して、それはそれはとても綺麗な夜景が広がっている。


そんな景色を見ながら、私はカズマの肩に頭を預けていると、カズマがこっちを向いて話しかけてきた。


「なあ、めぐみん。」


「なんですか。」


「そのー、ちょっとこっち向いてくれるか?」


カズマが目を少し逸らしながらそんなことを言ってくる。


「いいですが、どうしたのですか?」


そう言って私は頭を持ち上げカズマの方を見た。カズマはしばらく目を逸らしてあーうーとうなっていたが意を決っしたのか




私の目を真っ直ぐじっと見つめてきた。


私の胸がとくんとくんとカズマに聞こえるんじゃないかと思う程、大きな音を立てる。


私はカズマの目をしっかりと見つめ直す。


それだけで私の胸の鼓動はどんどん早く、大きくなる。


頬が熱くなる。


熱でもあるんじゃないかと思うぐらい私の頬が熱くなる。


顔が紅くなる。


そして私の目もきっと真紅の輝きを放っているのだろう。


カズマはそんな私の目を見つめながら



「めぐみん。俺はめぐみんのことご好きだ。お前といると安心する。いつも俺のことを信じて支えてくれる。俺はそんなめぐみんが大好きだ。」


私はその言葉を聞いて心臓が爆発しそうになる。紅魔族は改造人間だ。改造した人は心臓を強くはしてくれなかったのだろうか。胸が苦しい。


私はそんなことを思いながらもカズマの言葉の続きを待つ。そして、カズマは恥ずかしそうに、でも、私のことを真っ直ぐと見て。


「めぐみん……」


「何ですか?」


私はカズマを見つめ返し続きを待つ。

そんな私にカズマは……



「めぐみん。俺と結婚してくれ!」




私はカズマの胸に飛びついた。

カズマはそれを優しく受け止めてくれる。しばらく抱き合ったあと、私は上を向いて涙を零しながら


「……はい。」



そう言って私はカズマと見つめ合い。

顔と顔を近づけていき ──




ふと目が覚めると、私はベッドの上で寝転がっていた。私はなんだか心地いい気分に満たされている。


私は夢を見ていたようだ。

しかし、どんな夢を見ていたのかは思い出せない。


何かとってもいい夢だった気がしますが。


そんなことを思っていると、ふと、私は目の辺りが熱くなっているのに気がついた。

私は目の辺りをこすってみて……


私の目からは涙が零れていた。


「あ、あれ?私はなんで泣いているのでしょう?」


なぜ泣いているのかわからないのに、なかなか涙が止まらない。少し嗚咽を漏らしながら、涙が止まるのを待つ。


しばらくして、ようやく涙が止まり落ち着いてきたので、今の状況を確認してみる。


私はベッドの上で仰向けに寝転がっていてた。

おきあがって窓の外を見ると外はもう真っ暗になっていた。


確か、カズマが入ってこないようアクアに見張っておいてくれと頼まれて、それまで一眠りしようと思いベッドに入って……

そうして多分今まで寝ていたのだろう。


しかしそうなると、私はどうやら夢のせいで泣いていたようです。泣いてしまう夢とは一体どのような夢だったのでしょう?でも悪い夢を見ていたわけではない気がします。今、私はとっても幸せな気分をしているのですから。

そしてなんでか、無性にカズマに会いたくてたまらないです。早く会って抱き締めたいです。


そんな衝動にかられ、私はもう一度外を見た。

今は草木も眠る丑三つ時。以前、カズマが一番力が出てくると言っていた時間。それを踏まえると、もうそろそろカズマが侵入してくる頃だと思うのですが……


でもきっとカズマはダクネスの部屋から上がってくるでしょう。なら、すぐに会うためにダクネスの部屋の前をウロウロでもしときましょうか。

そんなこなとを思って私はダクネスの部屋の前に向かおうと扉に手をかけたその時。


コンコン。


誰かが窓を叩く音がした。

私は咄嗟に窓の近くへと駆け寄り、窓を叩いていた人物と目が合って。

私はなんとも言えない嬉しさに包まれてた。

そして私は窓を叩いていた男 ── カズマに向けてフッと笑った。

それから、私は窓の鍵を開けようと鍵をいじりだす。と、その時

がちゃりと音を立て扉を開けてきたアクアが


「見回りですよー!めぐみん、ちゃんと起きてる?あの男の事だから、きっとこのぐらいの時間帯にめぐみんかダクネスの部屋から侵入を試みようとすると思うの!しばらくは昼夜逆転の生活になるけど我慢してね?」


そう言って部屋の中に入ってきた。私は冷や汗を流す。


どうしてこんな時だけ頭が回るのでしょう。普段からこれだけ頭が回ればカズマだってアクアのことをもっと評価してくれるはずなのですが。


私はそう思いながら、私は慌ててカーテンを閉める。


「めぐみんったら今なんか失礼なことを思ってなかった?」


「思ってませんよ」


アクアがぼそっと言ってきたのをわたしも小声で流す。

私はこほんと咳をし、気を取り直して


「とりあえず、私は起きていますよアクア。大丈夫、こちらは問題ないです。アクアも少し休んだらどうですか?それに、ちょっとぐらい侵入されたって良いじゃないですか。カズマも薬を飲まされて記憶を失っていたみたいですし、そろそろ許してあげても……」


私はダメ元で聞いて見ますが


「ダメよめぐみん、ニートを甘やかしちゃ!アレね、めぐみんは好きになった男がダメ男でも甘やかしちゃう様な、男に甲斐甲斐しく尽くして苦労するタイプね!そして好きになったダメ男が何度も浮気とかしても、なんだかんだで好きな相手だから許しちゃう、そんなタイプよ!私のくもりなきまなこで見たところ、間違いないわ!」


アクアがそんなことを……って!


「なななな、何言ってるんですか!そ、そんな事は無いですよ……!」


っしまった!アクアが的を射たようなことを言ってきたのでつい狼狽えてしまいました……!


それを見たアクアはふーん?と、言い


「めぐみんめぐみん、ひょっとして……」


「何ですか!?な、何ですか!?」


どうごまかそうかと戸惑い、冷や汗がだらだらと出てくる。そんな私に


「めぐみん、あなた……!ひょっとして、あのダストとかいうダメ男の事を……!」


「違います」


私はそんなアクアに即答した。


誰があんなのを好きになるんですか。確かにゆんゆんがよく一緒にいますが……さすがにあれとくっ付くのなら私は全力で阻止しますよ。


私がそんなことを思って一安心していると


「フハハハハハハ!フハハハハハハハ!出あえ出あえトイレの女神よ!今宵は満月、我々悪魔の魔力が高まりに高まる高貴な夜だ!この地獄の公爵である大悪魔が、貴様に引導を渡しに来たぞ!」


遠くから、ウィズの店のアルバイトの声が屋敷の中に響き渡った。

それを聞いたアクアは私との会話など忘れ、玄関の方へと一目散に走って行った。そのすきに私は


「早く、今の内ですカズマ!アクアは血相変えて玄関先に飛び出して行きました、ほら掴まってください!」


私が手を差し出すと、カズマは片手でそれをぎゅっと掴み、もう片方の手で窓の縁に手をかけて体を持ち上げてきた。手を掴まれただけで私の胸はドキドキいっている。

そして私はカズマの手を引きながら私より筋力ステータスの低い中、精一杯登ってこようとするカズマを、抱え込むようにして部屋へと引き込んだ。



── 月の光が降り注ぐ中。私はなんとも言えない嬉しさに包まれていた。

私はそんな溢れ出る気持ちを込めて、その原因である男をぎゅっと抱きしめる。

匂いをかいでみると、1週間振りの、私を安心させる匂いが鼻いっぱいに広がってくる。


もう離しません。もうどこにも行かないでください。


そんなことを思いながら、私の腕の中で荒い息を吐いているカズマを見た。




カズマを抱き寄せながら、部屋の窓をぴしゃっと閉める。

私は今、カズマと片手を繋いだまま抱き合っていた。


「はあ……はあ……!めぐみん、め、めぐみん、はあ……はあ……!」


「ちょっ……!カ、カズマ、息が!息がヤバいです、抱き合ったまま私の名前を呼びながら、ハアハア言っているのは絵的にマズいですから!」


息を荒らげて私の名前を呼んでくるカズマに少し動揺しながらも、私は幸せな気持ちで満たされていた。


しばらくはこのままでいたいです。

そう思いながら、私はカズマを抱きしめる。


カズマの鼓動が聞こえてくる。とても早くて大きく、芯のある強い鼓動。それがだんだん収まるにつれて私の鼓動は早く、大きくなってしまう。


こうして抱き合っているだけで、今まで感じていた不安や悩みが一気に消え去る。


しばらくすると、カズマが私から離れようと身を起こしてきた。

私は離れまいとカズマの背中に回した手で、カズマの背中をキュッと掴む。


カズマが少し戸惑っているのが伝わってくる。


玄関の方からはアクアと、バニル、それと騒ぎを聞きつけたダクネスが楽しげな声を上げて戦闘を繰り広げていた。そんな中、私は


「おかえりなさい。お城での生活にも悪くはなかったですが、やっぱりこうして皆がいて、バガバカしく騒がしいこの屋敷じゃないと寂しいですよ。もうどこにも行かないでくださいよ?」


そう言ってカズマの背中に回した手で背中をポンポンと叩いてみる。

すると、カズマは一瞬ビクッとしたが、その後は力を抜いて私に体を預けてきた。

そんなカズマの感触を私はそおっと感じる。


カズマの呼吸が整ってきた。そしてもう一度カズマは私から離れようと身を起こしてくるが……


私は背中を掴んだまま離さなかった。


「お、おいめぐみん、もう何処にも行かないつって。帰って来たんだからもう離して貰って大丈夫だって」


私はそう言ってくるカズマに今思っていることをそのまま包み隠さず伝える。


「私より力のあるダクネスの部屋から引っ張りあげてもらうとかすれば、もっと楽に侵入できたのに、わざわざ苦労して私の部屋から入って来てくれたんです。ちょっとぐらいくっついていても良いじゃないですか」


そう言って私はクスクスと笑う。

今度は私の鼓動が落ち着いてくる。それに釣られるように、カズマの鼓動が激しくなる。


そして、カズマが私の事を抱きしめ返そうと……


と、そこで私はアクアの不機嫌そうな顔やウィズからのお願いが脳裏によぎり……


抱きしめ返そうとしてきたカズマに私は優しくこう言った。


「早くアクアと仲直りしてくださいね?カズマが居ない間、ずっと『放蕩ニートはまだー?まだー?』って、毎日随分と暇そうに、ちょっと寂しそうにしてましたから」


カズマは抱きしめようとしていた手を止める。

そして私は続けた。


「『これは帰って来ない放蕩ニートの分』とか言って毎日カズマの分のご飯も皆のご飯と一緒に作ってましたから。で、余った分をダクネスが無理やり食べさせられてました」


それは昨日の夜に聞いて確信した事だった。アクアが毎日食器を余分に用意していたのはカズマの分だったのだ。

アクアもカズマの帰りをずっと待っていたんだなあと改めて思う。

そんな私に、カズマがぼそっと言ってきた。


「……ちょっとあのアホとスカッとケリを付けてくる。帰ってきたら、この続きを」


「しませんよ?しませんからね?」


私はそう言いってカズマとイチャイチャしたい気持ちを抑え。仲間とのケリをつけてくると言ったカズマの事を。


「では、行ってらっしゃい!」


そう言って私は、嬉しい気持ちで胸をいっぱいにしながら、アクアの元へと送り出した。




……その後、カズマはと言うとアクアとの戦闘の末、屋敷を追い出されていた。




カズマがアクアに追い出された夜来る日の朝。

ふと目が覚めた私は窓の外をみる。そこにはなぜか、警察を引連れたカズマが立っていた。


これは嫌な予感がしますねえ、。


いち早く危険を察知した私は素早く服を着替え玄関から外に出る。



数分後。



「カズマさーん!カズマさーん!!」


アクアが叫ぶ。


「わあああああーっ!カ、カズマさーん!カズマさーん!!」


アクアが必死に叫ぶ。


「カズマさーん!私、以前から思ってたんだけど、カズマさんって凄くその、そこはかとなく良い男だと思うの!そして、私達は長い付き合いなんだし話し合う事ってとってもとっても大事だなって……!」


そんな事をアクアが2階の窓からカズマに向かって言い出した。どうしてかというと……


「おまわりさん。あいつです」


そう言ってカズマはアクアのことを指差しながら警察に『屋敷が不当に占拠されている』と伝えていた。


それを聞き、警察は何かを話し合った後、いきなり屋敷の中に突入していった。


あのう、ダクネスがまだ中にいるのですが……


「カズマさーん!カズマさーん!!わああああああカズマ様ー!!」


アクアがカズマの名前を連呼し助けを求めるが、カズマは一向に助けようとしない。

私はと言うと、一早く危険を察知し、それからずっと外にいた。カズマが変な視線で私を見てくるが、そんなことは気にしない。


ダクネスはと言うと、警察立ちに捕まり事情聴取を受けていた。

そしてもう一度アクアの方を見ると。


「わあああああああああー!カズマ様ー!カズマ様ー!許してくださいカズマ様ー!ごめんなさい、私が悪かったので許してくださいカズマ様ー!謝りますからカズマ様ー!」


今だ、泣きながら謝り続けているが今にも連行されようとしていた。

カズマは本当に容赦ないですね……

そんなことを思って遠くから眺めていると、

カズマはそんなアクアに近づき、なにやら話しをした後、大声で


「しょうがねえなあぁああああああ!」


そう言って勝ち誇るようにドヤっていた。






警察の騒動から数時間後、カズマはようやく屋敷の中に入れてもらい、ソファーの上で寝転がっていた。


アクアが様付けしながらカズマにお茶を入れ、それをお湯だと言ってアクアに叱ってから返す。そんなやり取りをアクアがそれはもう楽しそうに……


「丸く収まったみたいで良かったですね。私としては、なんだかんだで皆でこうして広間で寛いでいるのが一番安心しますよ」


そう言ってソファーに座ったまま、アクアからお茶を貰って飲みながら、のんびりと言った。因みに、私のにはちゃんとしたお茶が入っている。


アクアとカズマとダクネスのやり取りを私はしばらくの間ぼーっと眺めたり、おかしくなって笑ったりしていた時、


「あっ、いてててて……」


カズマがいきなりアバラの辺りを押さえて呻きだした。

それを見たアクアが、あっと声を出しながら、


「昨日のヤツね。ごめんねカズマ様、今治してあげるわ。今日は特別に最強の癒し魔法でね。『セイクリッド・ハイネスヒール』!」


そう言ってカズマの怪我を治す。どうやら昨日、カズマを取り押さえる際にやってしまったのだろう。


「…………………あっ」


短い沈黙の後、カズマが何かを思い出したかのようにそう呟く。


「どうしたの?」


アクアがカズマ間を問いつめている。そんな中、カズマは少し挙動不審になりながらもアクアに言わせていた様付けをやめようと言ってくる。

なんでも距離感が出て嫌なんだとか。


そのことを聞き、私は嬉しくなって笑みを浮かべた。


そんな一連の流れの間も、アクアはじいっとカズマの顔を至近距離で見つめている。


「……な、何だ?」


「…………別に。私はもう、カズマの事は疑わないって言ったばかりですから」


そんなことを言ったアクアを見て私たちもカズマの方に視線をやる。するとカズマは子供たちの手紙の話やらなんやらを言った後に


「よ、よし、お前ら冒険者ギルドにでも行くか!そして討伐依頼をこなそう。アクセルのまちを、ひいてはこの世界を守るために!」


いきなりそんなことを言い出しさらに怪しく感じる。


さてはカズマ、何か隠してますね。


アクアも不審に思ったのか、勢いよく立ち上がったカズマを至近距離からじっと見つめている。


しばらく経ってから、それに観念したかのように

カズマはそれはそれは綺麗な土下座をして私たちに頭を下げてきた。


アイリスにお兄ちゃん大好きと言われて残ることにした事。

実は本気で城に居座るつもりだった事。

他にもいろいろなことを白状し……


私はと言うと、2人に混ざってカズマをこれまでかと罵倒していた。


昨日の私の気持ちを返してください!!

ここ一週間の私達の心配を返してください!!と。

そんなことを言いながらも、こんなカズマを許せてしまう自分が一番憎たらしかった。



屋敷に響く叫び声が、いつもの日常が戻ってきたことを知らせてくれる。私はカズマを罵倒しながらも、嬉しさのあまり笑みを隠せずにはいられなかった。


~完~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

このすばss③ あの事件の裏側に真相を!@11巻 Cero @zecero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ