第3話
「アクザーグ、もう許さないぞっ!」
勇ましい声でヒーローが叫ぶ。
観客の誰もが中身は近所に住むただの陽気なじっちゃんだなんて思っていないだろう。
「ショウテマン、今日が貴様の終わりだ」
怪人役が片手の武器を振り回しながら叫ぶ。あの人は近所の剣道道場の先生がやっていたはずだ。
商店街のステージの上でアクションが炸裂する。怪人が振り回す剣をショウテマン、じっちゃんが軽々と躱していつものカニキックを決めていた。
ボクと同じくらいか下の年齢の子たちが手を叩いている。
日曜日、今日のヒーローショーも無事に終えることができた。
「じっちゃん、おつかれ。帰ろ?」
「ん、ああ、ちょっと待っておれ」
スーツから着替え終わっていたじっちゃんが急いでペットボトルの水を口にする。
飲み終えたじっちゃんが帰ろうかと手を差し出してきたのでボクはその手を握った。
「じっちゃんっていつまでヒーロー続けるの?」
いつもの帰り道でなんの気なしに訊いた。じっちゃんはすぐ答えた。
「もちろん一生じゃ」
「骨とか折れても?」
「そうならないようにするだけじゃ」
「それじゃあ無理じゃん。怪我したらできないってことだよね」
「なら、じっちゃんは松葉杖ついてでもヒーロー続けてやろうかの」
思わずボクは大声を出していた。
「そんなヒーローかっこ悪いからヤダ!」
言ってからじっちゃんが笑ってることに気づいてボクはしまったと思った。
「なんじゃ、いつも文句ばっか言っとるからカズはヒーローが嫌いなのかと思っとったが、逆なんじゃな」
「ヒーローとか知らないし」
「毎週ショーを見に来とるじゃろ」
「ヒーローなんてみんなおっさんだし」
「じっちゃんのこと迎えに来てくれるじゃろ」
「それとこれは別っ! じっちゃんは家族だからいいの!」
「分かった分かった」
最後はなんだかあしらわれたような気がした。
「本当にヒーローなんて」
「なら、家に帰ったらじっちゃんが昔話をしてやろう。じっちゃんが見てたヒーローの話も聞きたいじゃろ?」
「……」
ボクは無言でうなずいた。
快晴で綺麗に赤く焼けた夕日を見ながらボクらは帰り道を歩く。
もうすぐ家が見えるというところでじっちゃんが足を止めた。
「あ、カズ。じっちゃん忘れ物じゃ。先に家に帰っていてほしいのじゃ」
言われてみればいつも持ってきているペットボトルの水筒がない。置きっぱなしにしてしまったらしかった。
しかし商店街は近いのですぐに戻って来られるだろう。
結んでいた手を離してボクは取りに戻るじっちゃんを見送ってから家に帰った。
日が完全に沈んで少し経った頃、お母さんが電話に出て普段とは違う様子でボクに声を掛けた。
ボクは言葉を失った。
じっちゃんが車に轢かれたらしい。
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