ヒーローじっちゃん

瀬岩ノワラ

第1話

 ボクのじっちゃんはなんか変だ。


 全身タイツみたいな赤いスーツをぴっちり着て、頭には覆面にヘルメットを取り付けたようなごてごてしい赤いマスクを被っている。


 じっちゃんはヒーローのスーツアクターをやっている。


 家の近くにあるアーケード付きの商店街。その中央広場でいつも日曜日にヒーローショーはやっている。


 ボクもショーは見に行く。けど、ヒーローが目的じゃない。じっちゃんを迎えに行くためだ。



「じっちゃん」


 控室代わりの商店街のいつもの空き店舗に入るとじっちゃんはスーツを脱いでいるところだった。


「おう、カズキ。今日のじっちゃんどうだったかの? じっちゃん気合い入れてたしな。カッコよかったじゃろ?」


「変だった」


 じっちゃんが口に含んだペットボトルの水を吹き出した。


「変か。 華麗なキック、じっちゃん決めておったのになぁ」


「足が曲がってなんかカニみたいだった」


「あれはがに股キックというてな。じっちゃんの必殺技じゃ」


「みんな、カニキックって呼んでるから、じじカニキック」


「うむ、純粋に残酷じゃの」




 使い古したシャツとズボンの姿になったじっちゃんとボクは商店街の外を手をつないで歩く。


 春の穏やかな陽気を気持ち良さそうに浴びるじっちゃんにボクは少しだけ訊いてみた。


「じっちゃんは何でヒーローなんかやってるの?」


 なんの気なしに尋ねた質問にじっちゃんはポカンとこっちの顔を見て、それから少し楽しそうに答えを言った。


「じっちゃんはな、完璧なヒーローを、今でも目指してるんじゃ」


「完璧なヒーロー?」


「そうじゃ。地を駆け、空を飛んだじっちゃんが初めて見たヒーローに」


「へー」


「山を割り、大地を砕き、海を走ってみせたあのヒーローに」


「ほぇー」


「手には鉤爪を、大きな口からは炎を吐いたあのヒーローに」


「え」


「どうかしたかの?」


「それって怪物かなんかじゃないの?」


「んん?」


「気づかないの?」


 怪物とヒーローを間違えているじっちゃん。


 やっぱじっちゃんは変な人だ。

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