第2話
ボクのじっちゃんは筋トレをよくする。
今日も公園の鉄棒を使って懸垂をしている。六十歳すぎても百回以上できるというのが自慢らしかった。
「まだ帰らないのー? じっちゃん」
そしてボクもそれによく付き合う。といってもブランコで遊びながらじっちゃんのトレーニングを眺めるだけだ。
「ヒーローには特訓が必要じゃ。毎日の鍛錬が己を作り変えるんじゃ」
「体、壊しちゃうよ?」
「壊れないために身体づくりが欠かせないんじゃ」
目標回数を終えたじっちゃんは地に降り立った。それからボクのほうを見て言った。
「それに、よぼよぼのヒーローなんて嫌じゃろ?」
「シワだらけのヒーローもいないよ?」
「そこは仕方ないことなんじゃ」
家への帰り道、夕焼けの空に照らされた歩道を二人で進みながらじっちゃんはふと口を開く。
「カズは将来、何になりたいのじゃ?」
「ないよ」
「む、それは困ったの。もしや保育園の友だちもそうなのか?」
「ううん、友だちはサッカー選手だったり、お医者さんだったり、……ヒーローになりたいって子もいたよ」
「ヒーローか。じっちゃんと同じだな」
「うん。だから教えといた。ヒーローはただのおじさんが中に入って動かしてるだけなんだって」
じっちゃんが急に咳き込みだした。
「カズ、それはいけんの。ヒーローの中身を教えちゃいかん」
普段の陽気さを抑えた少し真面目な口調でじっちゃんは言った。
「なんで?」
ボクが訊くとじっちゃんは自分で大きく頷いてから答えた。
「ヒーローは夢を見続けなければなることができないのじゃ。だから夢を潰されたらヒーローになれなくなる」
いつもよりも強めの言葉。じっちゃんが大切にしている事を踏みつけてしまった気がしてボクはいつの間にか下を向いていた。
「ごめんなさい。友達にも謝っとく」
「分かればいいのじゃ、それで」
「でも、最初からヒーローの正体をバラされているボクは元からヒーローになれないってことだよね」
「それはすまんのじゃ」
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