人の歩む道
それから数週間がたっただろうか、あの出来事から少しずつ日常を取り戻しつつあった俺と晶は、マンションの入り口付近で引っ越し業者のトラックが止まっているのを見かける。
何となく次々と運び出されていく荷物を見送っていると、最後にマンションから出てきた人物――神奈慶一と目が合った。
こちらが驚いた表情をしている事に気づいたであろう彼は立ち止まる。
すこし疲労の色は見えるが柔らかく微笑えみ、俺たちに向かって深々と一礼をすると静かに車に乗り込みその場から去っていった。
「なぁ、あれはなんだったんだろうな」
「覚えてるって事は実際にあったんだろ。正直、思い出したくはないけどな」
「そうか。……じゃああいつは前を向いて生きてるって事だよな」
「そうだな。俺たちも前を向いて生きれればいいな」
「おうよ。……そうだ、今日は肉じゃが作って行くから」
「お、サンキュー」
その生命を捧げよ <了>
その命を捧げよ @Yasushi0mono
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