生還

 皆が廊下に出ると暗い廊下の奥で、消えていたはずのエレベーターの明かりが来たときと同じように再びついていた。

 『帰ることができる』と直感する。


 思わず逸る気持ちを抑えられないままそちらに向かう。


 その時、背後から聞こえてくる足音に気づく。

 その足音は一定リズムを刻みながら、どんどん近づいてくる。

 そして『それ』はまるで醜悪しゅうあくな獣の咆哮ほうこうのように、すべてをあざ笑うかのような、この世のものではない甲高い不協和音を響かせながらすぐ背後まで迫ってくる。


 振り向くこと無く必死でエレベーターへ向かう。

 だが足が鉛のように重く思うように動かせない。

 不快な叫び声はすぐ傍にあり、服、髪、腕……あらゆるところに、まるで引きずり込むかのように掴みかかろうとしてくる。

 恐怖でどうにかなってしまいそうな思考を奮い立たせながら、無我夢中で足を動かす。


 一歩、一歩と光に近づき、やっとのことで雪崩れ込むように俺達がエレベーターに乗り込むと自然に扉は閉まり、エレベーターが動き出した。

 先ほどまでの喧騒は一瞬にして止み、ただただエレベーターは機械的に下降していく。

 そして静かにマンションの1階へと到着した。

 扉が開いたそこには、明るい昼下がりの日差しと、人が居て、車が走っている。

 そんないつもと変わらない風景がそこにはあった。

 それぞれ、泣きそうな目で見つめ合い、その場でへたりこんでしまった。



 中華はどうしたかって?

 もうその日は何かをするって気分じゃなかったし、皆怪我をしていたからコンビニ飯で簡単に済ませて寝たのさ。

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