このすばss② この騒がしい砂浜に爆焔を!

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この騒がしい砂浜に爆焔を!

ここはアクセルの街のギルドの中。そこにはクエスト掲示版の前で、ある事を企みながらクエストを選んでいる男がいた。

その男はあるクエストの紙を手に取り、3人のパーティーメンバーの元へ、にやにやしながら戻って行った。





「おい聞いてくれ!良さそうなクエストを見つけたぞ!」


俺はそう言って1枚の紙を3人に見せた。


「どうしたのですかいきなり。ここ最近、ずっと家にひきこもっていたカズマがどういう風の吹き回しですか?」

「その通りだ。いつも私たちがクエストに誘っても断固拒否するのにどしたのだ」


めぐみんとダクネスがそんなことを言ってくるが、今はそんな事は気にしない。


「今日の俺はやる気に満ち溢れていてな。人に害をなすモンスターを討伐して世の中に貢献したい気持ちでいっぱいなんだよ。」


そんなことを言う俺に、3人は疑いの目を向けてくる。まあ、それもそうか。こんな嘘はすぐバレるな。

俺はどうやってこいつらを説得しようかと悩んでいると


「ははーん。さてはカズマ、報酬に目が眩んだのね?」


アクアが見当違いなことを言ってくる。俺にはもっと大事な理由がある。そう、男のロマンというやつだ。

しかし、そう思っているのなら都合がいいので黙っておく。


「確かに報酬はいいですね。で、どんなクエストなんですか?」


めぐみんが少し納得したというような顔で紙を覗いてくる。そこには


『最近、海に大量発生しているタコ型モンスターの討伐。』


と書いてある。それを一緒に見ていたダクネスが


「なるほど。確かに悪くない。ああ、数で押し切られ抵抗虚しくタコの触手で身体中まさぐられるなんて……いい!想像するだけで武者震いが!」


どうしようもないことを言っているダクネスは放っておこう。


「どうやらこのモンスターのせいで最近海に入れなくなってるみたいでな。1体1体はそんなに強くはないらしいから、こいつらを討伐して海に入れるようにしてやろうぜ。あと、こいつらを全部討伐すれば無料で海で遊んでいいみたいだぞ。」


俺がそう言うと、アクアは嬉しそうに


「いいわね!そいつらをサクサクッと討伐して海で遊びましょうよ!」


と言ってきた。こいつはなんだかんだ言って水の女神だから海も好きなんだろうか。

しかし、これもまた今は都合がいい。それは何故か。今は夏の真っ只中。そして海と言えば…


そう!水着を着た美少女達を海で眺めたいからだ!そして願わくば一緒に遊びたい!


これは男なら誰もが思うこと。海に入れるようになれば、海に来た可愛い女の子の水着が拝めるようになり、そして討伐報酬も入る。何という幸せなクエストだろう!

そんなことを考えていると、3人の中で話がまとまったのか


「そうですね。カズマが珍しくやる気を出していることですし、久しぶりに冒険に出かけましょうか」

「ついでに海で遊ぶのも悪くないな。ああ、タコ型モンスター、楽しみだなあ」

「そうと決まれば早速準備しましょう!水着用意しなくちゃ!」


そうやって海へ行くことが決まったのだが、正直、このメンバーだけでこのクエストを受けるのは不安が残る。

そこで俺はひとつの案を思いついた。


「お前ら、もう1人呼びたいやつがいるんだが呼んでもいいか?」


そう言うと、3人は首を傾げた。



次の日、俺たちは海に来ていた。


「うっひょー!海だあぁ!」

「おいカズマ、はしゃぎすぎだぞ。今回はクエストで来たのを忘れるな」


そう言いながらも、ダクネスはソワソワしている。そんな中


「カズマの言っていた呼びたい人ってやはりこの子のことだったのですね!!言ってくれれば反対していたのに!」

「どうして反対するのよお!私だって友達と海に行って遊んでもいいじゃない!」


そう、俺はクエストのための助っ人としてゆんゆんを呼んでいた。ゆんゆんがいればクエストも楽勝だ。


「わかっているのですか。今回は遊びに来たわけではありませんよ。クエストを受けに来たのです。」


めぐみんが余計なことを。


「ええ!?そうなの!カズマさんそんなこと言ってたっけ?で、でも、全部倒したら一緒に海で遊べるのよね?」


それを聞いて、めぐみんが俺を睨んできた。


俺はゆんゆんを誘う際

『みんなで海に遊びに行くけど来るか?少しモンスターが出るらしいからそれを倒さなきゃいけないが』

と言って誘っていた。クエストを受けたとはいっていなかったのだ。なので俺はめぐみんから目を逸らす。

そんな俺にゆんゆんが


「カ、カズマさん。今日ってクエストを受けに来たんですか?」

「あー、それはおまけだおまけ。というか、海で遊ぶにはモンスターを討伐しなきゃいけないわけだし、ついでだよ」


そうやって適当に誤魔化していると、めぐみんは呆れたように肩をすくめて言ってきた。


「やはり、いきなりカズマがやる気を出すなんておかしいと思っていたらそういうことでしたか。」


そう言ってくるめぐみんに、俺は開き直ってきっぱりと言った。


「そうだよ。金もあるのに俺がわざわざクエストを受ける訳ないだろ」

「流石はカズマさん、いつも通りのクズっぷりね」


好き勝手言ってくるアクアを無視し、俺はもう一度海の方を見た。

目の前は砂浜になっていて、いかにも海水浴場のような場所だ。波の音が心地いい。そして少し先には海の家のような小屋があった。あそこで着替えたり飯を売ってたりするのだろう。

しかし、こんなに静かだが本当にモンスターが出るのだろうか。


「とりあえず、まずは調査だ。ちょっと浜辺の近くまで行ってみようぜ」


そう言って俺達は浜辺まで来て、辺りを一通り見て回った。しかし、モンスターは1体たりともいなかった。

あれ?今ここにはタコ型モンスターが大量発生してたんじゃなかったのか?


そう思いながら隣を見てみると、ダクネスも同じように思ったのか、不思議そうに首を傾げていた。


「ねえ、モンスターなんでどこにもいないんですけど。これじゃあ討伐なんて出来ないんですけど。」

「どうしたのでしょう。誰かがもう倒してしまったのでしょうか」


確かにその可能性は高い。1匹1匹はあんまり強くないって言ってたしなあ。しかしそれだと、浜辺に人が一人もいないのが気になる。


「とりあえず、少し様子を見てみるか。もしかしたら隠れてるだけかもしれないしな。」

「だったらちょっとくらい遊んでもても大丈夫よね?私、着替えてくるわ!」


そう言って、返事を待たずにアクアは浜辺にある小屋にかけて行った。

あいつはもう放っておこう。どうせ水着でも今の服でも役に立たたないのは変わらないだろう。


しばらくすると、水着に着替えたアクアが戻ってきた。

アクアはフリルの付いた水色の水着を着ていてそれはもう、モデル顔負けのスタイルをしていた。


……こいつ、普段から黙ってればいいのに。そしたら信者もどんどん増えると思うんだが。

そんなことを思いながらアクア見ていると


「なになに?カズマさんったらこの私の水着姿を見てみとれちゃったの?しょうがないわねえ。ちょっと見るぐらいなら許してあげるわよ。感謝しなさい」

「何言ってんだ。俺はお前のことだけはどうしても異性として見れないんだよ。お前のことは手のかかるペットとしてしか見てないから」

「ペットって何よヒキニート!!気高く美しい女神をペット呼ばわりしたことを謝って!、早く謝って!」


そう言ってアクアが俺を揺さぶってくる。それを見ていたゆんゆんが


「カズマさん。さすがに女の子をペット呼ばわりはだめですよ。乙女心をちゃんと分かってあげてください」


と渋い顔をして言ってきた。

アクアに乙女心なんでこれっぽっちもないだろがな。


その後もしばらく待ってみたが、やはりモンスターは現れなかった。


「やはり誰かがもう倒してしまったのでしょうか」

「そうだな。これだけ待っても出てこないならその可能性が高いだろう」

「そ、それなら私たちも水着に着替えて遊びませんか?」


ゆんゆんが興奮気味に言ってくる。この子はみんなで海に来て遊ぶなんてことが初めてなんだろう。


「そうですね。大量のモンスターに爆裂魔法を打ち込みたかったですが……しかたないですね。私たちも着替えて遊びますか」

「私も触手プレイが出来ないのは少し残念だが…海で遊ぶなんて久しぶりだ。今日は楽しもうではないか」


そう言ってダクネスは小屋の方に歩いていった。こいつ、触手プレイとか何言ってんだ。


ゆんゆんはというと、にやにやして『めぐみんと海遊び』と嬉しそうに呟きながら小屋の方に向かおうとしていたが…

めぐみんの突然の発言を聞き、ピタリと立ち止まった。


「今日はゆんゆんに構ってあげる暇はませんよ。私は今日はカズマと2人きりで遊びますから。ゆんゆんはアクアとダクネスと遊んでもらってください」


そう言われてゆんゆんがええっ!と言って驚いている。

おっと、ゆんゆんったら可哀想に……


ってええっ!!!このロリっ子いきなり何言ってんだ!!ちょ、ちょっと待て。というか落ち着け俺。


「おおお、おいめぐみん。そ、その確かに俺もそうしたいのは山々だが、今日はみんなで来たわけだし…みんなで仲良く遊ぼうじゃないか。」


俺が慌ててそう言うと、めぐみんは


「カズマがそう言うのでしたらそうしますか。確かにせっかくみんなで来たのですしね。その代わり、カズマ、今度はデートしに2人きりでここに来ましょう」


そう言って俺に向かってにこりと微笑んでから、ゆんゆんに『さあ行きますよ』と言って小屋の方に行ってしまった。


ゆんゆんも俺とめぐみんを交互に見てオロオロしたあと『めぐみん待ってぇ』と言いながらめぐみんの後を追って行った。


今俺、めぐみんにデートに誘われたのか!?だ、だよな。やったあ。じゃない!

またもやめぐみんの方から誘われてしまった。祭りの時と言い、今回と言い俺は男としてこれでいいのだろうか……

まあ、気にしたら負けだ。今度は俺から誘えば問題ないはずだ。うん。


……因みにアクアはと言うと既に海の中でバチャバチャと遊んでいる。元気なやっちゃ。



しばらくして、3人が戻ってきた。俺も3人が着替えてる間に着替えておいた。

すると、ダクネスが


「カ、カズマ、私の水着はその、どうだろうか…」


と聞いてきた。ダクネスは黄色のビキニを着ているのだが、胸の辺りの布の面積が小さいすぎて今にもはみ出しそうだ。そう、まるで。


「とりあえずエロい。ものすごくエロい。エロ本にでも出てきそうな感じだな」

「お、おい!エロいエロい言うな!私はちゃんと褒めてもらいたかったんだが……で、でもカズマはほんとに容赦ないなあぁ」


そうやって頬を染め、もじもじしながら言ってくる。こいつも黙ってればいいのに。

そんなことを思っていると、今度はめぐみんが恥ずかしいそうに


「わ、私の水着はどうですか…」


と言ってきた。

めぐみんは大人っぽいデザインの黒色ベースに、赤いリボンの着いたビキニを着ていた。こいつがビキニ着てもなぁ。

俺は隣のゆんゆんをちらりと見てそう思ったが 、声には出さない。可愛いし。


因みにゆんゆんはピンク色の白いフリルの着いた水着を着ている。胸もちゃんとあり、色気がある。


俺はめぐみんに


「おう。似合ってるんじゃないか。」


と言っておいた。すると、めぐみんは少し不快な顔をして


「一瞬ゆんゆんの方をちらっと見たのが気になりますが、褒めてくれてありがとうございます。まあ、なんだかんだ言って少しは成長してますね」


と言って来たので


「めぐみんの胸のことか?」


俺がそう聞くと


「違いますよ!!胸はどんどん成長してますが違います!今までカズマがまともに褒めるなんて出来なかったので成長したと言ったんです!!でも結局、全く成長してなかったですね。ガッカリです」


何だ、そういうことか。


「でもめぐみん。前一緒に温泉入った時と全然変わってない気が…」


そこまで言ったゆんゆんにめぐみんが飛びかかった。ゆんゆんも言うことはちゃんと言うよなあ。

そう思いながら俺はふとダクネスを見ると


「めぐみんは褒めたのに私のことは褒めてくれなかった…」


とぶつぶつ呟いていた。

ちゃんと褒めただろ。エロいって。


まあ、そんなことはどうでもいい。


「よし!じゃあとりあえず遊ぶか!まずはビーチバレーでもしようぜ」


そう言って俺たちは浜辺で遊び始めた。




ダクネスがスイカ割りで、目隠ししていないのに1回も当てれていないのをからかいながら見ていた時、海の方から駄女神の泣き声が響いてきた。


「カ、カズマさああぁん!カズマさあぁーん!何かサメみたいなのがすごい速さでこっちに泳いで来てるんですけどおおおぉ!」


涙目でこっちに泳いでくるアクアの後ろを、千里眼を使って見てギョッとした。

アクアの後ろの水面にサメの背びれのようなものを出した何かが大量にこちらに向かってきていた。


「おいアクアっ!早く戻ってこい!おい、お前らも砂の城作るのやめて戦闘準備しろ!なんかサメみたいなのが大量に向かってきてるぞ!」


砂の城をつくっていためぐみんとゆんゆんに俺が慌てて言うと、渋々手を止めためぐみんが


「サメなのであれば、水上には上がって来れません。アクアももう浜辺につきそうですし、大丈夫でしょう。流石に陸に上がれるなサメなんていませんよ。もしそんなのが居たら今日一日中、水着で過ごしてやりますよ。」


そんなフラグとしか思えないことを言いだした。

これ絶対上がってくるやつだな。


でも、さすがはめぐみん。こんなことを言いながらも一応しっかりと杖をとってきた。

ゆんゆんも同じくワンドをしっかりと手に握っている。そしてダクネスはと言うと…

手ぶらのまま立っていた。


「おい、ダクネス。お前剣はどうした」

「私が剣をもっていても当たらないのだから意味が無いだろう?」


どうしてそんなこと聞くのだ?というような顔でそんなことを言ってくる。

こいつ、開き直ってやがる。


「と、とりあえず迎え撃つぞ」


俺も剣と弓装備し、弓をかまえ、陸に上がったアクアの後ろで全くスピードを落とさず泳いでくるサメだと思われるものに向かって矢を放つ。


「狙撃、狙撃、狙撃、狙撃!」


連続して撃った矢は全てサメのような背びれに刺さり、沈んでいく。

一体一体はあまり強くなさそうだ。これなら何とかなるだろう。


そう思っていると、海から上がってきたアクアが俺の隣に来て様子を見ながらぽつりと言ってきた。


「サメってあの程度の攻撃で倒せるものなのかしら」


「「「「………。」」」」


…確かにその通りだ。だが、その程度で倒せるとなるとサメより弱いということになる。


「この程度の攻撃でやられるならそんなに心配しなくても大丈夫だろ。見た感じ50体ぐらいはいるだろうがゆんゆんがいれば安心だ。ゆんゆんも魔法で攻撃してくれ!」

「分かりました。ライトオブセイバー!」


そう言ってゆんゆんがオーバーキルになりそうな技を放つ。


その光の刃はモンスターの群れを切り裂き、その多くを海に沈め……

たと思ったが、何事も無かったかのようにどんどん泳いでくる。


「あれ!?な、なんで効かないの!?」


ゆんゆんが驚きの声を上げている。


「いつも私のことをネタ魔道士と言ってくるくせに、自分もネタ魔導師にジョブチェンジしたのですか?」

「ち、違うわよ!あのモンスター、魔法が効いてないのよ!」

「それは少しまずいのではないか。この中で武器を使えるのはカズマだけだぞ。それにあいつら、もう相当陸に近いはずだがスピードが落ちていない」


ダクネスの言う通り、そいつらは陸に近付いてきているのにスピードが落ちない。この様子だと、こいつらは陸に上がってくるだろう。


……というか武器が使えるの俺だけってダクネスはどうしたよ。


「やっぱあれ、サメじゃないのよ!こんなとこまで泳いでこれるわけないじゃない!あのモンスター、陸に上がってくるに決まってるわ!」


アクアも少し慌てて言ってくる。

アクアにしてはいい推理だ。

と関心している間にもそいつらは浜辺に上がってこようとして……


― 陸に出てきたのは、大きめの、絵に描いたようなタコに不自然にサメの背びれが生えたモンスターだった。


「こいつらがクエストのモンスターだったのかよ!てか、どう見てもこの背びれいらねーだろ!馬鹿にしてんのか!」

「全くその通りですね。」

「これはサメじゃないな」

「タコですね」

「それも下手な人が描いたタコの絵みたいじゃない」

そんなことを口々に言ってる間にも、そいつらは続々と浜辺に上がってきて…

全て上がってくると、なんと100匹以上のタコ型モンスターがこっちに向かってきていた。海の中に隠れて見えなかったのか。

一応、まだ俺たちからは距離はあるが……


「おい、この数は流石にキツくないか。魔法が効かないんだろ?となると本当にまずいんじゃないか?」

「確かにこれはまずい。このままでは数で押し切られ抵抗も虚しく触手プレイを……望むところだ!」

「お前は黙ってろ」


俺がどうするか悩んでいる間にもモンスター達はどんどん近付いてくる。


「ね、ねぇ、どうするの!?このままじゃこっち来ちゃうわよぉ!ねえどうすんのよおおおぉ!」

「私は魔法が効かないとなるとどうしようもありません!ここは逃げましょう!」


確かにこの数はどうしようもないな。爆裂魔法なら倒せるだろうが、ここで使ったら浜辺や小屋ごと吹き飛ばしてしまうだろう。このままにしておいたら被害が出るかもしれないが…


「そうだな。よし、お前ら逃げるぞ!」


そう言うと、俺たちは後ろを向いて逃げ出した。



― 1人を除いて ―



「……どうやらここは私の出番のようですね!いいでしょう!我が奥義、見るがいい!!」


そんなことを言い出し詠唱を始めためぐみん。

俺は慌てて振り返り


「お、おい!やめろ!!ここで爆裂魔法使ったら浜辺が……!!」

「エクスプロージョン!!!」


俺の制止を聞きもせず、放たれた爆裂魔法は辺り一面に爆音を響かせながら、タコ型モンスターの大群はもちろんのこと、大量の砂と海水を巻き上げ、砂浜に大きな水溜まりを作りあげた。さらに、近くにあったあの小屋をも消し飛ばしてしまった。


「はぁぁ。こんなにスッキリした爆裂魔法を撃てたのは久しぶりデス。やりましたよカズマ。我が爆裂魔法でモンスター達をを消し炭にしてやりました。あ、すいません。おんぶお願いします。」


そう言ってその場に倒れ込んだめぐみん。

俺たちはと言うと、口をぽかんと空けたまま、砂浜にできた大きな水溜まりを見ていた。


しばらくして、気を取り戻し俺たちはめぐみんに言ってかかる。


「おい!!お前何やってくれてんだ!倒せたのはいいがお前、この水溜りと吹き飛ばした小屋どうするつもりだ!」

「あんたてば何やってんのよおぉ!!ねぇ、馬鹿なの!大馬鹿なのぉ!!」

「めぐみん!これって怒られちゃうやつよね!あと私の服!私の羽衣は大丈夫なんでしょうね!!」

「ああ、私のタコ型モンスターが…!触手プレイが…!!」


1人だけ変なことを言ってる奴がいるが。


しばらく文句を言った後、アクア達は急いで自分達の服が大丈夫か見に行った。そして俺はめぐみんのところに行き


「なんであそこで爆裂魔法撃つんだよ。小屋吹き飛んだじゃねぇか!」


「いいじゃないですか!私のおかげでクエスト達成ですよ!これだけの数を倒したのですから追加報酬もあるかもしれません!」

「馬鹿か!どう考えても弁償額の方が大きいに決まってんだろ!」


俺はめぐみんをおんぶしながらそう言った。それを聞いためぐみんはビクッとしたが、すぐさま


「……気持ちよかったので問題ないです」

「大ありだ!」


しかし、あのまま放置するのもまずかったので、あまり責められない。


「はぁ。しょうがねぇなあ。弁償は俺がしてやるよ」

「流石はカズマです。ありがとうございます。やっぱり何だかんだ言って助けてくれるんですね」


そう言って俺の首にしがみついてくる。


「……カズマ、カズマ」

「なんだ?」

「ちょっと1回下ろして貰えますか?」


そう言ってきたので、俺はめぐみんをおろしドレインタッチで魔力を分けてやる。

めぐみんはよろよろしながら俺の前に来て…




― 背伸びをして俺の口にキスをしてきた。




「ななな何してんだいきなり!」


びっくりしてつい声が上ずってしまった。


「これはお礼です。」


そう言ってニコッと笑いかけてきた。

俺はというと、恥ずかしさと嬉しさと驚きで、めちゃくちゃ動揺していた。

めぐみんはそんな俺の心の中など知らずに


「……やっぱりおんぶして貰えませんか」


と言ってきた。ちょ、ちょっと待ってくれ。心をおちつけさせる時間をくれ。

俺は恥ずかしさをまぎわらすためにも


「もう魔力分けてやったから歩けるだろ」


と投げやりに言っていた。しかし、めぐみんは


「カズマの質の悪い魔力じゃだるさが抜けないんですよ。それに、今はカズマにおんぶしてもらいたいんです。」


そんな恥ずかしいことを言ってきて……

おい、質の悪い魔力とか言いやがって喧嘩売ってんのか。気にしてんだぞ。

でも俺におんぶしてもらいたいとか言って。俺が恥ずかしいじゃねえか。


「わかったわかった」


俺は紅くなった顔を見られたくないので素早くめぐみんをおんぶした。


「ありがとうございます。あれ、カズマ、顔紅くないですか?もしかして恥ずかしかったのですか?」


そう言ってくすくすと笑いながら俺の顔を覗こうとしてくる。それに合わせて、俺は顔を逸らした。


「恥ずかしくなんか!……い、いや、恥ずかしいから覗こうとしないでくれ」


俺がそう言うと、めぐみんはまたくすくす笑ってくる。こいつめ。

こいつが恥ずがるような事言ってやる!そう思って俺は……



「……好きだよ」



と、ぽつりと言った。


めぐみんが俺の背中でビクッと震える。


そして、ぎゅっと首にしがみついてきた。


きっと恥ずかしくなったのだろう。

多分今、俺たちは2人とも顔が真っ赤になっているはずだ。



「……私も大好きですよ。カズマ」



めぐみんはそう言ってさらに首にしがみついてきた。

嬉しい。嬉しいんだが……


「め、めぐみん。苦しい…」

「すいません。つい」


首が絞まって苦しかった。


甘酸っぱく心地いい空気が流れる。もう少しこのままでいたい


そう思ってると……


さすがというべきか、空気の読めないKY女神が小屋の跡地から手を振り大声で叫んできた。


「めーぐみーん!めぐみんの服、ボロボロになっちゃってるわよぉ!これはもう着れないと思うのぉ!」


その声を聞いた俺はめぐみんにむかって


「これだと屋敷に帰るまでその恥ずかしい背伸びした格好のままだな」


そう言ってやると、俺の背中の中でめぐみんがビクッと震えた。

…今度のは多分、絶望から来たものだろう。


そう思って後ろをを見ると、案の定、めぐみんが顔を真っ赤にして、俺の背中に顔をうずめてきた。

明日にはアクセルの街中にめぐみんの背伸びてビキニを着ていたことが街中に広がるだろう。…ご愁傷様です。

そんなことを思いながら俺はアクアに向かって叫んだ。


「アクアー!全身砂まみれだから風呂にでも寄って帰るぞー!他のやつにも言ってやってくれぇー!」

「わかったわぁー!」


……そういえば結局1回も海に入ってないな……

まあいっか。



こうして俺たちの真夏の冒険は終わりを迎えた。





海の騒動の次の日、俺たちはギルドに呼び出されていた。


「今回のクエストの報酬は全て弁償に回されます。追加報酬もありますが、それも返済に回します。そしてこの小切手に書いてある分は返済をお願いします。」


……はい。

わかってはいたけどこれは痛い。


でも、俺が格好つけて払うと言ったのだから仕方がないか。

そう思いながら小切手を受け取る。


そして、めぐみんはと言うと、昨日の帰りにめぐみんの水着姿を見た冒険者達に絡まれ、からかわれていた。


「どうして私たちの冒険は毎回失敗ばかりなのだろうな。何をしてもこうなる。一体どうなっているのだ」


ダクネスがそう言いながらも楽しそうに微笑んでいた。


「まったくだよ。俺は運がいいはずなんだけどなあ。俺はもう、しばらくクエストに行かん。家でゴロゴロするからな」

「その通りよ。私の羽衣がもう少しで燃えてなくなるところだったじゃない。こんな目に遭うくらいなら私もしばらくクエストは遠慮するわ。でもお金はないからカズマさん、その間お金貸してちょうだい。」


アクアが俺に同調してくる。流石、俺と同じ側の人間だ。

お金は貸さないが。


「まぁ、今回は海で遊べなかったけど、また来年リベンジするか」


俺は伸びをしながらそう言った。そしてその時こそ美少女達の水着を眺めるんだ。

あ、あとめぐみんがデートで行こうって言ってたな。

そんなことを考えていると、受付のルナさんが申し訳なさそうに


「あ、あのう。そのことなんですが、あそこのビーチの管理者の方から、カズマさんのパーティーはあのビーチの立ち入りを禁止すると言っていまして…」


……は?今なんて?立ち入りを禁止するって言ったか?


「まぁあれだけの破壊行為をしてしまったならしかたがないな」


ダクネスがそんなことを言っている。

おい!それはダメだ!そんなことされたら俺のロマンがっ!デートが!!



俺が肩を落としてガックリしていると、冒険者達から解放されためぐみんが俺の隣に来て


「水着の美少女ならもう見たのですからいいじゃないですか。デートは残念ですけど」


こいつ、そこまで分かってたのか。恐るべし紅魔族。


俺はそんなめぐみんの水着姿を思い出しながら…


「美少女の水着ねえ…」


と呟きながら、はあーとため息をついた。それを見ためぐみんは


「おい、私の水着姿のどこに文句があるのか聞こうじゃないか!」


「そりゃぁ、む…」

「ちょっと表に出て貰おうか!売られた喧嘩は買いますよ!」


そう言って俺の腕を引っ張ってきた。


俺が動かまいと踏ん張っていると、同じくその場にいたゆんゆんが、ルナさんに


「あ、あのう。私もあのビーチへの立ち入りを禁止されてるんですか?」


とおそるおそる聞いた。だが、ルナさんは


「いえ、ゆんゆんさんは巻き込まれただけと聞いているので大丈夫ですよ」


そう言われてゆんゆんはほっとした表情を浮かべる。

おい。俺もまきこまれただけなんだが。

でもまぁ…

俺はめぐみんの手を引き離し、ほかの3人に言った


「けど何だかんだ言って楽しかったし、この夏はもう遠出はいいだろう。残りは家でゴロゴロしてようぜ」

「そうだな。今日は打ち上げということで酒でも飲むか」

「さすがダクネス!たまにはいいこと言うわね!そうと決まればお酒買って帰りましょう!」

「それなら私も飲みたいです!」

「めぐみんにはまだ早いぞ」


そんなことを言っている俺たちをゆんゆんが羨ましそうに眺めていた。一緒に打ち上げに混じりたいのだろうか。

そう思っていると、めぐみんが俺の袖をくいくいと引っ張って


「カズマ、あそこで羨ましそ〜うに見ているぼっちも誘っていいですか?」


と言ってきた。やっぱり気になってたか。


「おう、呼んできてやれ」


そう言ってやるとめぐみん嬉しそうにはゆんゆんのところに行き絡み始めた。

そんな光景をしばらく眺めてから……



「よし!それじゃあ帰るか!」



そう言って俺はギルドを出て、屋敷に向かってあるきだした。


~完~






























































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