エピローグ

 一週間ほど入院してから、ジミーは何事もなかったかのように学校に行き、それなりに家族やクラスメイトから心配され、それから段々と元の日常に戻っていった。シドはああ言ったが、自分が一度死んでまた生き返り、しかも不死身であるなんて、ジミーにはまるで実感が沸かなかった。

 退院してすぐに、ジミーはシドの家に行き、アンに心配され、それから紅茶とケーキをご馳走になってシドの部屋でギターを弾いた。

 それから毎日、また前のようにシドの家に通っている。

 もう季節は春に近付いているというのに、屋敷は窓が少なく光が届かないため薄暗く、冷え冷えとしていた。シドの四階の端の部屋は、やはりずっとカーテンが閉め切られ、暖炉の火だけが赤々と燃えている。

 ジミーのギターは、退院してシドの家に行った日から、シドのような音が出るようになっていた。柔らかくてくぐもって優しいのに、物悲しい音。それはジミーが望んだ音だったが、今のジミーにはとても不気味に感じられた。あの音が出るようになったのは、ジミーが不死身になったからだろうか。……だとしたら、シドもやはり不死身なのだろうか。じゃあ一体、シドはいつ死んで、誰に生き返らせてもらったというのだろう。そしてそれならば、ジミーもまた、シドのように死んだものを生き返らせることができるのだろうか——そこで、母親のことが頭に浮かび、ジミーは慌ててその恐ろしい考えを頭から振り払い、ぼんやりと目の前を飛び交う蝶の群れを眺めようとしたが、恐ろしい思考はジミーの頭の中で一気に加速する。

 シドと海岸で空を漂うクラゲを追いかけた日のことを思い出す。もう遠い昔の記憶のようだ。あの日、無邪気にクラゲが生き返ったことに感動していた自分を、ジミーはとても懐かしく思った。今では、あのクラゲもジミーもこうして生きているというのに、この世のものではないように思える。

 ジミーは暖炉の火に手をかざす。ゾッとするくらい白くなったその手は、その炎を透かしてしまうようにも思えた。

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レコードの逆回転 柚子 @za_ni_Yu

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