アンナの自宅にて 2

「あ、きたきた」

 

乱暴に叩かれるドアに、アンナは思わず笑みをこぼした。


「ぅオイっ! 何でアイツらこねぇんだよ!!」


 扉を開ければ案の定、苛立ったロイが怒鳴り込んできた。アンナはそんなロイを見てからも、やはりクスクスと笑ってしまう。


「あっはは、おかえり! やっぱり来ると思ってたよ。ルーイたちも、あなたが出て行ってから割とすぐここへ来たんだけど……」


 彼らはロイが勝手にサウストに向かったことを聞かされると、やはりアンナの予想通り、ひとしきり愚痴をこぼしてから、開き直ったようにアンナの家でくつろいだのだった。

 ロイに対するささやかな反抗のつもりだろう。アンナの手料理をたらふく食べて、風呂にも浸かって、ふかふかの布団で夜から朝にかけた質のいい睡眠もとった。そして――、


「わざわざ俺が使わなさそうなルート使ってついさっきサウストに向かっただと!?」


「ごめんごめん! そんな事しなくても、ってちゃんと言ったのよ? でも聞かなくてさ。ひっどいよねぇ」 


 アンナはそう言いながらも、漏れ出す笑いを隠すことができない。


「くそ……性根腐ってやがる……アイツら見つけたらタダじゃおかねぇぞ……」

「ふふ、あなたならすぐ追いつくわよ。それに……」

 アンナはロイの襟元に手を伸ばす。

「素敵な指輪も手に入ったことだし」


 彼の首に下げられた二つの指輪を取り出すと、アンナはうっとりしてその指輪を眺めた。本当に美しい指輪だった。しかしどう見ても安物には見えない。しっかりとダイヤモンドまで付いている。一体どうやって手に入れたのだろう?


「あぁ。ま、すげぇ面倒ごとに巻き込まれたけどな」

「えっ、なぁに面倒ごとって」

 アンナは急に不安になって疑わしい目線でロイを問い詰めた。

「ち、ちげぇよ。盗ってねぇっつの。逆だ、逆」「逆?」


「俺が強盗を捕まえたんだよ。この指輪はその礼で、その店の奴らが俺に作ってくれたんだよ。ちゃんと警察と一緒に行動してたんだぜ? そんで強盗どもをボコボコにしてやったんだ。嘘じゃねぇよ。人助けだよ、人助け」


 警察と一緒に行動するあたりが信じられないが、わざわざそんな嘘をつく必要があるとも思えない。詳しい流れは分からないが、彼も彼なりに、指輪の意味をきちんと考えてくれたのかもしれないと、アンナは思った。


「そう。……ふふ、なんだかあなたらしいわね。そんな方法で指輪を手に入れるなんて」

「どういう意味だよ、ソレ。……あ、そうだ」


 ロイはアンナの手からティアラの指輪を取って、その裏を見せた。


「コレ、なんて書いてあるんだ?」

 

 アンナはそれを見て、ほんのすこしの間、言葉に詰まった。

 目を瞑って、それから優しく微笑む。


『あなたと、共に』


 開け放たれたままの玄関扉から差し込む温かい日差しに、指輪のダイヤはキラキラと輝いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宝石強盗と結婚指輪 おおやま あおい @marumo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ