最後のページ

 

 この日記も、もうすぐページがなくなる―――ということはこのページをめくっている君ならわかることか。


 すまない。この日記は小説ではないし、絶対にのに。

 今まで培われてきたさがわざが、自分の手をこうさせるのだ。これだからノンフィクションを描くのは難しい。エッセイ等を書ける人のことは、本当に心から尊敬する。


 さて。


 友人と友人の妻に感化されてここまで日記を書いてきたが、そろそろこの日記も、自分がこの世界で全うすべき命もそろそろおしまいだ。

 さしずめ、「君がこれを読んでる時は、私はこの世にいないでしょう」というやつだ。自分もそれをやろうと思う。


 友の後を追おうとは思わないが、友のように死にたいとは心の底から思う。自分は自分の物語の中に自ら「吸い込まれ」ようと思う。

 自分の物語が、こう呼んでいるのだ。


「そんな殺伐な世界じゃあなくて、こっちにおいでよ。貴方が生み出した場所に、貴方が来るの。私たちも貴方を愛しているわ、貴方も私たちを愛しているでしょう? 愛し合っている人たちが同じ世界にいることの、何が可笑しいの? ほぉら、はやく」


 友人も、きっとこんなふうに手を引かれたのだろう。門限だから、早く帰りなさいな、とでも言わんばかりに。母親に手を引かれるように、自然に。

 

 だから自分も、自らの第二の世界に帰ろうじゃないか。作家として、表現者を志す者としては、道徳的で倫理に基づいた行動だと、自分は心から思っている。


 ここまで付き合ってくれた、ひねくれ者の書いた日記を読んでくれた君に最大の祝福と感謝を贈ろう。この日記を読んでいる君は、最愛の物語に「吸い込まれる」か現実世界を生きていくか。よく熟考してから決めてもらいたい。


 君は本当にと思ってないかだけが心残りだ。

 否。もしかしたら、逆にもう「吸い込まれた」後なのかもしれないな。


 兎にも角にも、このノンフィクションに「吸い込まれ」ないように遠い異世界から祈っている。

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吸い込まれる 橙野 唄兎 @utausagi

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