永遠や永久など存在せず

のりまき

親愛なる友人へ

そこは白い箱のような場所だった。真っ白で果てしなく続く空間のようにも思えたが、ちゃんと部屋の隅が存在した。縦と横に100歩ずつくらいの大きさで、部屋の横の壁の真ん中には年季の入ったかけ時計がかかっている。その下には小学五年生くらいの子が白い毛布にくるまり体操座りで座っていた。

 カタ、カタ、カタ、カタ、カタ…

 秒針の音が鳴り響くだけ。その子はずっとうずくまって、顔をあげようとしない。わたしは何も声をかけずに隣に座った。その瞬間、まるで前に一度あったことがあるような、懐かしい気持ちになった。




なつ。セミの声、ゆれるかげろう。まっしろなへや、まんなかにあるつくえ、目のまえには知らない女の人。


Q お名前と学年、まえに通っていた小学校の名前を教えてください。

A …桜田ハク、三年生。浜野市立三岳小学校から来ました。

Q 家族はいますか?

A お母さんが、います。

Q お母さんとの楽しかった思い出を教えてください

A お母さんといる時間はすべて楽しいです。一緒に公園へ行ったり、料理をしたりすることが大好きです。お母さんの笑顔をみていると、わたしも楽しく幸せな気持ちになります。でもときどき、お母さんは急にすごく落ち込んで泣き出してしまいます。お母さんが泣いていると、悲しんでいると、わたしも悲しくなります。だから大丈夫と声をかけてあげるんです、お母さんにはわたししかいないのですから。すると、お母さんはわたしのほっぺを叩いてきます。髪の毛を持って地面へ叩きつけて体を蹴りつけてきます。何度も何度も何度も、そうやってきます。その時のお母さんはとても笑顔です。心から楽しんでいるように思えます。だから、わたしも楽しくなります。お母さんの幸せがわたしの幸せですから。わたしの体がどんなに痛かろうと醜かろうと、お母さんが幸せなら、それで充分です。

Q これから離れて暮らすお母さんにひとことどうぞ。

A だからわたしとお母さんの間にはなんの問題もないのに、こんなところへ行かなければならない理由がわたしにはよくわかりません。家に帰らせてください。お母さんとふたりで、また幸せに暮らしたいです。






 試しにLINEを開いてみた。通知は前開いたときの10件から変わっていなかった。誰かと話しているわけでもないからメッセージがこないのは当たり前だ。でも、誰かをずっと待っている。


 暑いなと思って扇風機を強まで上げる。それでも暑いからソファから起き上がり、窓を開けた。涼しい風を期待したが、む〜んと湿った熱気が入ってきた。どこからかスズムシやセミの声が聞こえ、不意に夏を感じる。わたしはしばらく窓を眺めていたい衝動にかられ、わたしは部屋の電気を消して窓の前に座った。


月がとてもきれいだった。満月、とはいえないけれど丸くて、マンションや建物の上に浮かぶそれは、無機質のような冷たさを持っているように感じた。そういえば小さい頃もよくこうして月を眺めていたものだ。

 あのときは海がすぐそばにあったから、海の上に浮かぶ月を見るのがすきだった。海の波が、不規則にゆれ、どれを取っても違う形であることに美しさを覚えた。ひとつひとつが今この瞬間にしか存在できない儚さを心を揺さぶられる。


 暑くなってきたから窓を締めて冷房をつけた。またLINEを開いてみたけど誰からも何も、きていなかった。


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永遠や永久など存在せず のりまき @nori_maki

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