5.クロマ、働く

「...クロマ」


声を出したのはベルゼブブだった。心配するような声を掛けられてもクロマの引き裂かれるような胸の内の痛みは消えることはない。

むしろ同情をされているみたいで、惨めだった。


「お前は責任を持って俺が「すまないが、お返し申し上げる」

「「え?」」


ベルゼブブの声に被せて声を放ったのはトーキだった。

受け取ったはずの金をベルゼブブに差し出している。

頭がついていかない二人は揃って素っ頓狂な声を上げた。


「い、いや...今受け取って...」

「受け取っていません。中身を確認しただけです。その上で、すまないがお返し申し上げると言ったんだが」

「すまないがってそういうことォ!?」


面食らっているベルゼブブを尻目に、クロマがおずおずと口を開く。


「ち、父上」

「なんだ。...何を泣いてる」

「...だって、援助、いらないのですか」

「は?貴様、そこの蝿もどきの所に行きたいのか?」

「滅相もございません」

「おいこら、誰が蝿もどきだこらァ」


未だ状況が飲み込めず驚いている様子のクロマ、交渉に失敗し肩を落とすベルゼブブ。

そんな中、トーキは二人の様子を見て眼鏡を光らせた。


「まぁ、そろそろこのポンコツも次の段階へ移行させようかと思っていたところです」

「え」


クロマは再び谷底に突き落とされたように顔を青ざめさせた。

その様子にトーキは、まぁ落ち着けとばかりに言葉を続ける。


「主導権を渡すわけにはいきませんが、ベルゼブブ様の元で働かせるのは良い経験かと」

「それだァ!」

「な...!」

「大丈夫、労基法は守るからァ!」

「なんだそれは!正気ですか父上!」


思わぬ展開に頬が緩むベルゼブブ。それをクロマが鬱陶しげに睨み付けながら問うた。


「正気だ。ベルゼブブ様の元で色々学んで来い。拒否権はないぞ。」

「よろしくゥ」


へらへらと笑うベルゼブブに無性に腹が立つが、トーキの言う事には逆らえないクロマだった。

渋々といった様子で了承し、ベルゼブブの元で働くことが決定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔族のクロマさんは残虐の限りを尽くしたい わいやー @wire6622

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ