それだけでのことでも。

鴉羽

第1話

 ねえ、秘密の話なんだけど

 昼下がりの大学の休憩スペース、人は多すぎず少なすぎずで過ごしやすい時間が流れていた。

 そんな中、学校内に来ていた移動販売車で買ったタピオカミルクティーを飲みながら、スマートフォンを弄っていたユウカは俺に話を振ってきた。

 それに対して自分は本から目を離さずに唐突だなと言葉を返す。

 ユウカとは大学で出会いこれで1年くらいの付き合いになるが、いつもこんな感じで唐突に何か話しを始めたり行動をする癖がある。

 俺はというと楽しいことは好きだが、初動が遅い癖があるのでユウカみたいな動き出しが軽やかな奴といると暇をしなくて楽しいので振り回される俺と振り回すのが好きなユウカで相性は悪くないかなと感じている。

 ユウカも似たように考えていたのかどうかは定かではないが自然と一緒にいる時間が伸びてきていることを思うに同じようなことを考えてくれていると思う。

 それで、唐突に秘密の話しときたのだ。やや具体性に欠ける話し始めだったが逆にそれが俺の興味心を誘った。

 本から目を離して彼女の顔を見る。少し開かれた窓から風が入り彼女の茶色に染められた髪を撫でた。肩まで届かないくらいボブヘアーは彼女のアクティブな性格を感じさせるようで似合っていた。目元はややツリ目で可愛さもあるが同時にかっこよさを感じさせる。彼女はまだスマートフォンから目を離さずうーん、まあまあかなぁというような顔でタピオカを飲み終えようとしていた。

 中々話出さないので適当に話を振ってみる。

「今回のタピオカは如何ですかお嬢さま?」

「まあまあだねー。土曜日にハルと一緒に行ったところの足元にも及びませんな」

 ビンゴ、やはりイマイチでしたか。ユウカは顔に割と出やすくころころ変わる表情は見ててつい顔がほころぶ。そんな今のユウカの表情はいまいち曇っているのはイマイチなタピオカミルクティーのせいだけではないような気はしていたが心のどこかで気付かないようにしていたのはあとで気付いたことだった。

「まぁ学校に来る販売車なんてほどほどのクオリティだろうさ。それで? 秘密の話ってなんだよ」

「本当はあまり言う気はなかったんだけどね」

 ユウカはふう、と一つ呼吸を整える。

 それに合わせて胸がトクンと鳴ることを感じる。

 何か嫌だ。聞きたくないと感じる。

「実は私、未来から来たんだ……って言ったら笑う?」

 真剣な顔でこちらの眼を見つめてくる。

 しかし流石に、それは。

「……マジで言ってるのか」

 そう捻りだすのが精一杯だったが、ユウカは淡々と言葉を紡ぐ。

「私、こういう時あんまり冗談言わないよ」

「知ってる、だからこそだよ」

 唐突のことに眩暈を感じる。

「正確な年数は言えないんだけどさ、 そろそろ帰らなきゃいけなくなって」

「この年代には観光か? それとも研修か」

 ユウカは俺の返答がどこか意外でしたと言う様なきょとんとした顔で言葉を返す。

「学校のプログラムの一環だけど、流石にその返しは意外なんだけど」

 またもやビンゴ。まあそりゃそうだ、未来からきたなんて荒唐無稽なフレーズに対しての返しではないのは重々承知している。

「まあだよな。ユウカが秘密暴露するなら俺も一つ言ってもいいかな、もうすぐいなくなるならなおさらだ」

「え、何その急展開待って待ってまって―――」

 相手の反応を待たずに間髪入れずに言葉を繋げる。

「俺も今未来から来てるんだよね」

「……え? もうよくわからないんだけど」

 眼をグルグルさせながら頭を抱えているユウカを横目にはははと笑う。

「俺はあと1年くらい居るつもりなんだけどな。まさかこんなことってあるんだなぁ」

 遠い目をしながらしみじみと呟く。

 それとは対照にユウカはテーブルに手をドンと叩きつけながらまくしたてる。

「私、すっごい緊張したんからね! 絶対信じてくれないだろうけど流石に黙って消えるのもなーとかいろいろ悩んで悩んで、でもいろいろ考えてるうちに帰る日は迫ってくるし、アンタはアンタでのほほんとして毒気抜かれるしもうサラッというしかないかなって!」

「まあ悩むよな。俺がお前の立場でも悩むだろうし」

「だよねぇ! こっちに来る前に散々肩入れしすぎるな別れが辛くなるぞとか言われてたけど、そうそう人といきなり仲良くなることなんてとか思ってたもん!」

 そんなこんなで、お互いに言える範囲内ではあるが未来人トークに話を咲かせた。


 ***


 気が付けば夕方のいい時間になっていた。

 騒がしかったひと時が終わり、俺とユウカの現代での会っていられる時間が迫る。

「じゃあねハル。いつになるかわからないけど」

 椅子から立ち上がり、少し微笑みながら俺に告げる。寂しそうだがいつもの晴れ晴れとしたいい顔つきに戻っていた。

 あぁまたな、とだけ告げる。まさか取り残される側になるとは思っていなかったので正直寂しい気持ちがどんどん積もっていく。

 それでもさっき話したときに俺とユウカの生きていた年代はかなり近いことが分かった。

 それだけで粘っていける。それだけで頑張れる。それだけで前を向いていける。

 また必ず会えると知っているから。

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それだけでのことでも。 鴉羽 @pekodox

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