2. 僕の知りうる彼女について

空気の読めない太陽はやはり皆に好かれていないらしく、良かれと思い放っているであろう光はカーテンに遮られてしまっていた。

それだけでこの小さな箱が、俗世間から切り離され、異世界に飛ばされたような気になってしまうのだから不思議である。


4限の授業は、やる気も生徒への関心もない教師が淡々と日本昔ばなし(といっても数百年前の事だ)を語り続け、その子守唄と春の陽気とが相まって、殆どの奴が眠りに落ちていた。ある者は船を漕ぎ、ある者は手に持ったままのペンで紙に現代アートを描き、またある者は別世界の物語を読んでいた。普段居眠りをしない僕も今日ばかりは起きているのがやっとなのだが、そんな者たちに背を向けて、彼女は一人、姿勢良く静かに過去へ目を向けていた。



3年B組1番、秋森美雨。

学年トップクラスの成績と、誰もが振り返ってしまう美貌と、それらを凌駕する数多の噂で彼女は成り立っていた。

曰く、放課後の教室で1人大声で数学の解法を語っていただとか、パピコを半分だけ食べてもう片方はまるまる道端に捨てただとか、恋愛対象は小学生だとか、だからいつも読んでいる本は青い鳥文庫だとか。

そんな馬鹿げたものばかりなのだけれど、所詮高校という狭い社会においては、一風変わった噂ひとつあれば世界での立ち位置は簡単に決まるし変わるのだ。


このような話たちは一見テキトーにでっち上げられたものに思えるがしかし、彼女が不可解な行動をしていたという噂については、全てに共通するとある条件があった。


「雨が降っている」こと。


彼女の名前もそれを助長し、彼女は雨女として学年、いや学校全体に認知されていた。


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美しい雨と、美しい彼女の話 のらうさぎ @nora_bbit14

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