1. ある晴れた日の朝のこと

雨が、降らなかった。


ついさっきまであったはずの朝露も溶けて失くなっているけれど、この濁った空気を多少なりと澄んだものにしてくれているのだろうか。


時刻は午前8時。高みの見物中の太陽だけが空気を読まず上機嫌で、行き交う人の顔は皆曇っている。僕も例外ではない。

愚痴や不満が飛び交う中、虚空を飛ぶ雀の叫びが酷く耳に障る。

僕は古びた校門を抜け、開放感なんてまるでない階段を延々と上り、6階にある自分の教室に入る。この時間だとクラスメイトの姿は相変わらずまばらだし、僕はここでは空気のような存在なので、どんなに勢いよくドアを開けようと振り向く奴はいない。

まぁ、そんなことはした事がないのだけれど。

カバンを置き、定位置である教室の窓側の隅で今日もぼうっと過ごすことにする。



僕が雲の動きを眺めるのも飽きてきた頃、丁度始業の鐘が鳴る数分前。彼らのざわめきが最大になったあたりで、彼女、秋森美雨はいつも登校してくる。


彼女がこの3-Bの領域内に入った刹那、領民達は静まり返る。


そしてすぐに何事もなかったかのように元に戻る。

彼女が来たことが、なかったことのようにこの世界は廻っていく。


僕達がこのマジョリティ達に馴染めていないのは事実だけれど、両者は似ているようで少しばかり違う。


簡単に言えば僕は空気で、彼女は異物だ。

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