第1話【出会い】
随分と遅くなってしまった。まさか、寝てしまうとは思わなかった。友人である成瀬涼なるせりょうの家に遊びに行ったのはいいが、気づいたら寝ていた。起きた時には深夜の2時を回っており、スマホには妹である茜梨あかりからの不在着信が多数。
冷や汗を滲ませながら、急いで家を出て自宅へと走る。ちなみに俺が寝ている時は成瀬は、1階でお茶を飲みながらテレビを見ていた。起こして欲しかったな・・。
(これってもしかして、家入れてくれないパターンかな?)
日に日に温かさが増してきたとはいえ、野宿は勘弁。自宅までもう少しの所で足が止まった。なぜなら、目の前に美少女が居るからだ。
短めなスカートに魔法少女の様なフリフリとした衣装を身に纏った美少女が、電柱にもたれかかって俯いていた。街灯に照らされて、藍色の艶のある髪がより一層艶を増していた。
「あ、気づいた! 良かったぁ〜別の道とか行ったらまた人を探さないといけないから」
「僕は誰でもいいんだけどね」
「誰でもよくないでしょ! もし、怖い人とかだったら・・」
「彼だって怖い人じゃないとは限らないよ。人は見かけによらないとか言うし」
「怖いこと言わないで!」
な、なんなんだ。こっちに気づいたと思ったら、変な生物まで出てきたぞ。もしかして幽霊か? 俺、死んじゃいました?
「あ、あの」
「は、はい! な、なんですか?」
声上ずっちゃったよ! だって、いきなり話しかけてきたから!
「貴方は怖い人じゃないですよね?」
「怖い人、ですか?」
「はい、怖い人です」
「・・・・」
何を言っているんだこの子は。
しかもめっちゃ真剣な顔つきだし。まず怖い人ってなんだ。大柄で屈強そうな男とか? (偏見)
「怖い人ではないですね」
「本当ですか!? 良かったぁ〜! ほらね、言ったでしょ!」
「まさか聞くとは思わなかったよ、僕は」
「だ、だって怖い人だったら嫌だから・・」
美少女は恥ずかしそうにもじもじとしだした。めっちゃ可愛いーーじゃなくて! なんだこの状況。
「えっと、俺急いでるから。先行くね」
これ以上遅れてしまったら茜梨にどやされる以上の事が起きかねない。
「ま、待ってください!」
「・・何かありましたか?」
「え、えっと。あの・・」
「ほら、早く言ってよフィオ」
「わ、わかってるってば」
再びもじもじと恥ずかしそうに身を攀じる。
は!? これはもしかして告白!? 俺のむせかえるようなダンディーなフェロモンが、彼女をそうしたのか!? いやーモテ男は辛いなー。
「ーー貴方の願いは?」
「え?」
「ですから、貴方の願いはなんですか?」
「願い?」
いきなりなんだ・・。
暫しの間沈黙が訪れる。
「え、なんで?」
「私は魔法少女ですから」
え、説明終わり!? 魔法少女? 願い? 何を言っているんだこの子は。中二病とか、そういうのかな。なら、美少女の隣を浮いているアレはなんだ。機械とかそういうのか。
「フィオ、説明が足りないよ。きょとんとした顔してるよ彼」
「あ、ごめんなさい! 私は魔法少女なんです。人の願いを叶えて一人前の魔法少女になる為に日々努力をしているんですよ」
「魔法少女ですか。その格好も魔法少女の衣装なんですか?」
「こ、これは。ノエルが勝手に・・」
スカートの裾を抑え、顔を赤くする。
なんかちょっとエロい。
それから少し時間が経ち。
大体の情報を教えてもらった。
「魔法少女として人間界に召喚されたはいいが、人が居なくて困っていたら俺が居たと」
「うん、そういうこと」
「願いを叶えれば、一人前の魔法少女になれると」
「そうそう!」
「一人前の魔法少女は人間界で言う公務員や医者の様に、将来安泰であると」
「そういうこと!」
「なるほど・・って信じられるかい!!」
ビクッと美少女の身体が反応した。
いきなり魔法少女と名乗る美少女が現れて、はいそうですかと信じれる訳が無い。もしかしたら寝ぼけているのかもと、頬を抓ってみる。
「い、痛い・・」
「ち、ちょっと!? 何やってるんですか!?」
「いや、夢かと思って」
「現実ですよ! ほら」
美少女が手を伸ばして俺の顔を触る。
ひんやりとした手が心地よく、その反面俺の顔は真っ赤に熱を帯びていく。
「〜〜〜〜っ!!」
「〜〜〜〜!!」
二人して顔を真っ赤にしてしまう。
それでも美少女は俺の顔から手を離さない。
ドキドキと胸の鼓動が早くなっていく。美少女の黒い瞳には俺の顔が映り込んでいる。
「あのー」
「「!?」」
変な生き物の声に反応して、美少女の手が顔から離れた。危なかった、あのまま居たら間違って告白するところだった。
「僕のことも紹介してくれないかな? イチャイチャばっかりしないでさ」
「い、イチャイチャなんてしてない!」
「フィオ、顔真っ赤だよ?」
「〜〜〜〜っ!!」
ふわふわと空を泳いで、美少女の前に出てくる。そして、軽く頭を下げる。
「僕の名前はノエル。そして彼女の名はフィオーネ。フィオの使い魔としていつも傍にいるぬいぐるみだと思ってくれればいいかな」
「使い魔?」
「そう、使い魔。フィオは魔法少女としては未熟で魔力も低い。だから僕を通して魔力を供給するんだ。まぁ魔法少女は人に害を与えたら処罰を受けるんだけどね」
「害を与える!?」
「害を与える魔法少女なんて居ないんだけどね。魔法界って怖いし」
人を殺す魔法少女とか残忍な魔法少女が居たら、怖すぎだろ。先程の美少女ーーフィオーネさんが言っていた事に嘘は無かった。短時間だけど、話しててフィオーネさんは嘘をつく性格では無いということは感じとれた。それに変な生き物ーーノエルちゃん? が機械ではないと思うし、少しは信じてもいいかもしれない。
「大体はわかったよ。フィオーネさんとノエルちゃんは俺の願いを叶えるんですね」
「あ、タメ口でいいよ。フィオは君と年齢は変わらないし。僕は可愛いぬいぐるみだから」
随分と可愛いを推すな。
にしても俺と同じ年齢なのか。ってことは18歳以上だな、うん。
「だから、貴方の願いを教えて欲しいの」
「う〜ん、願いか〜」
「なんでもいいの。お金持ちになりたいとか、モテたいとか、なんでもいいですよ」
願いと言われても、これといった物がない。
両親からは欲がない息子だとよく言われていたが、自分でも思う。欲しい物も無いし、モテたいとも思わない。
チラりと横を見ると、コンビニがあった。
「あ、ならお茶買ってきて」
「え、この格好で・・ですか?」
「その格好が良い!」
「く、食い気味ですね・・うぅ〜」
顔を真っ赤になりながら、コンビニへと走っていった。スカートの裾からちらりと見えた可愛い桃色のパンツが見えたので、凝視しておいた。
「フィオって恥ずかしがり屋でしょ?」
「うぉぉ!? 居たのかよ!?」
「うん、フィオのパンツ見てたのしっかりと見てたよ」
「すいませんでしたぁ!!」
「大丈夫大丈夫。フィオっ真面目で自分でしっかりしていると思ってるけど、隙だらけだから。まぁそこがいいんだけどね」
「わかる! 恥ずかしそうにしてる感じが良い。隙だらけな所もなお良い」
「君って随分と変態なんだね」
「褒めても何も出ないぞ?」
「うん、褒めてないよ」
暫くするとお茶を1本手に持って走ってきた。
大した距離ではないが、ハァハァと息を切らしている。
「やったーお茶だーありがとうー」
「は、恥ずかしかった」
恥ずかしくて下を向いてしまったフィオーネ。
おずおずとお茶のペットボトルを渡してきた。
「ど、どうぞ」
「お、おう。ありがとう」
なんか恥ずかしくなってきたぞ、俺も。
お茶を受け取る。その時に、フィオーネと手が触れた。
「〜〜〜〜っ!!」
ぼとっとお茶が床に落ちた。
お茶を拾い上げる。
「ど、どうしたの!? なんかあった!?」
「い、いや。あ、あの。そ、その」
ボンッと一気に顔が赤くなる。
「さっきの事思い出したんじゃないかな? フィオって異性と触れ合った事ないから」
「さっきって、アレ・・か」
俺の顔を触って、熱っぽい視線を向けていたあの時だ。思い出しただけで俺も熱くなってきた。なんとかして話を振らなければ。
「これで、願いは叶えられたね」
「・・これが願いですか?」
「うん、喉乾いてたから」
「だめです! これは願いに入りません!」
「えぇぇーーーーーー!!」
「あ、言い忘れてたよ。魔法少女に叶えてもらう願いは大きければ大きい程魔法少女として有名になるんだよね。だからこれぐらいの願いだと、叶えてないと同等かな」
「それ先言ってくれる!? 普通にパシっただけになっちゃったよ!?」
「フィオも真面目だから本当に買ってきちゃったしね」
今更になって後悔。こんな美少女をパシってしまった。
「あ、じゃあ他の人の願いを叶えればーー」
「それも無理だね。もうフィオと君は契約しちゃってるから、願いを叶えないと契約は外れないから」
「いつの間に!?」
その時ブブッとスマホが連続して鳴った。
スマホを見ると3時になる所だ。そしてスマホの画面にはクマが激怒しているスタンプが連続して送られていた。
茜梨まだ起きてるんだ・・。じゃなくて!
「やべぇ! 茜梨が待ってるから、俺は帰るよ!」
「茜梨? 誰ですか?」
「あぁ、妹なんだ。連絡するの忘れてたからさ」
走り出そうとした時、裾を掴まれた。
「ん? なんかあったか?」
「ーーーしょないです」
「はい?」
「帰る場所ないです」
「え、まじで?」
こくんと小さく頷いた。
「ホテルとかは?」
「お金が無いので行けません」
「えっと、じゃ、じゃあ俺の家来るか? なんてね」
「いいんですか?」
か、可愛いな! 小首を傾げないでくれ!
そんな顔されたら「いいよ」しか言えないだろ。
「良かったらだけどね」
「ありがとうございます!」
俺の手を掴んでブンブンと振る。
その仕草は飼い犬が喜んでいる様子と似ている。なんなら犬のしっぽが見えるわ。見えないけど。
手を掴んでいるのは気づいていないようだ。それぐらい嬉しかったのか、なら誘った甲斐があったな。
「あ、ご、ごめんね」
手を握っていた事に気づいてぱっと手を離す。握られた箇所が少しひんやりした感触が残っていて、少し名残惜しい。
「そういうば、貴方の名前は?」
「倉橋悠斗くらはしゆうとです。よろしく」
「悠斗さんですか・・いい名前ですね!」
「お、おう」
そんな素直に言われる恥ずかしいな。
これが『魔法少女』であるフィオーネとの出会いだった。
魔法少女はトツゼンに!? @MugineKo
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