あれは3年前のことだった

プル・メープル

ボクとお姉さん

あれは三年前のことだった。


ボクの住んでいたアパートの隣の部屋には、きれいなお姉さんが住んでいた。ボクとも仲良くしてくれていて、その日もお姉さんと遊んでいた。


負けたら罰ゲームのルールを設けて遊んでいたけれど、ボクが負けてしまった。


そんなボクにお姉さんは言った。


「シュークリーム食べたくなっちゃった、買ってきてくれる?」


罰ゲームのルールを提案したのはボクだったし、大好きなお姉さんのためだと思ったら苦じゃなかった。


ボクはウキウキ気分でシュークリームを買って帰ってきた。


でも、お姉さんはもうそこにはいなかった。


何度インターホンを鳴らしても、何度扉を叩いても、返事は返ってこない。


ボクがバンバンと叩く音が迷惑だったんだろう。

ほかの部屋から迷惑そうな顔をしてでてきたおじさんが言った言葉に、ボクは絶望した。


「坊主ん家の隣の姉ちゃんなら、引っ越したぞ」


にわかには信じられなかった。


さっきまで遊んでいたはずなのに、どうして突然いなくなってしまったのか。


「これを渡してくれって頼まれたんだ」


おじさんはボクに手紙を差し出した。そこにはお姉さんの名前が書かれていた。


ボクは手紙をひったくるように受け取ると、すぐに内容を確認した。


『今日はボクくんに話したいことがあります。


突然いなくなってごめんなさい。


でも、こうするしかなかったの。


実は私ね、悪の組織の幹部だったのよ。


急に召集命令が出てしまったから。


そういう訳で、ここから先は悪の組織らしい話し方をさせてもらうわね。


悪の組織として、私はお前たちの世界を支配する。


平和も令和もへったくれもない。


世界は私たちのものになるのだ!ふははは!


そのための私の壮大な世界征服計画を教えてやろう!


その1、洗剤を買い占めて高値で売る。


その2、洗剤で儲かった金で総理を買収する。


その3、政治を操り、消費税を120%にする。


その4、反抗してきた国民たちを見せしめにして殺す。


その5、みな脅えて逆らわなくなる。


その6、世界征服完了。


どうだ?完璧な計画だろう?怖いだろう?


私の仕事は、この世界を破壊することだからな!


いくらボクくんでも容赦はしない。


もしも止めたいと思うなら、勇者となって私に歯向かうといい!


待っているぞ』


裏を見てみると、手紙にはまだ続きがあった。


『追伸、シュークリームはボクくんが責任をもって食べてください』


ボクは買ってきたシュークリームにかぶりついてみる。


「………………!?か、辛いっ!」


『辛いでしょ?お店の人に頼んでおいたのよ。これが罰ゲームです♪』


最後の最後までお姉さんはお姉さんだった。


優しくて、面白いお姉さん。


でも、彼女はもうここにはいない。


その日、ボクは決めた。


勇者になってお姉さんを元の道に引き戻すことを!



そしてそれから3年後の今に至る。


ボクは旅をし、勇者らしい強さをみにつけた。


たった3年で強くなれるのか?


そう聞かれたらボクはこう答えるだろう。


キセキ小説のチカラだ』と。


だが、そんなことはどうでもいい。


この扉の先にいるであろうお姉さんを助ける。


それがボクの……いや、俺の使命なのだから。


俺が扉に近づくと、それは自動で開いた。


まるで歓迎していると言っているかのようだ。


扉のむこうは暗い闇。


剣を構えながらも、俺はゆっくりと進んだ。


数歩進んだところで足を止める。


前から足音が聞こえたからだ。


「久しぶりね、ボクくん」


それは紛れもなく、あのお姉さんだった。


胸元のぱっくりと空いた大胆な衣装を身につけて、あの頃の清楚なお姉さんはどこへ行ってしまったのだろうか。


「私を止めるには、私を倒すしかない。それは分かっているわよね?」


俺はもちろんだと頷いた。


「なら、私も容赦しないわよ」


お姉さんはそう言うと、体に黒いオーラを纏った。


「お前をぶっ倒す!それが私の最後の仕事!」


「最後の仕事……?どういう意――――」


俺が言い終わるまで待たずにお姉さんは切りかかってきた。


容赦のない一撃はかなり重い。


押し返すので精一杯だ。


「まだまだボクくんはボクくんね!弱い、弱すぎるわ!」


お姉さんの攻撃スピードは衰えない。


だんだんと防ぐのも辛くなってきた。


俺は最後の力を振り絞って、お姉さんの一撃を大きくはね返した。


「ひゃっ!?」


その反動でお姉さんの手からは剣が離れ、お姉さんは武器を失ってしまった。


「……いいわ、トドメを刺しなさい」


お姉さんの目からは諦めの色が見えた。


俺は剣を振り上げてお姉さんの首へ――――。


出来なかった。


楽しい思い出が剣を止めさせた。


それを見たお姉さんはニヤリと笑って、悠々と立ち上がった。


「やっぱりね、ボクくんに私は切れない。けどね……」


お姉さんは悪魔のような表情を見せた後、ボクの胸に鋭いものを押し付けた。


「私はあなたを殺せる」


その瞬間、鋭い何かが心臓に向かって突き進んでいく感覚がした。


自然と体から力が抜ける。


「あなたは私を切れなかった。初めからあなたは勝てなかったのよ。そう、敗因は私。この勝負、お前の負けだ」


その声を最後に、ボクの人生は幕を下ろした。



お姉さんは任務を達成したということで、組織の中でさらに上の位につくことが出来た。


ただ指示をするだけのつまらない仕事。


だから、お姉さんはいつもコレクションの砂時計を眺めている。


星型の砂が入っている砂時計。


それは、自分が殺した人間の数だけ、砂粒が増える不思議な砂時計。


その中には砂がどっさりと入っていた。


「さてと、今から星を数えてみようかな?」


そう言ってお姉さんは砂時計を軽く振って笑った。

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