第15話 もしかして見つかった?


「リン、ちょっといいか?」


「なんだ?」


「グレイスから報告があった。ついさっき南の上空を見張っていた哨戒部隊が全滅したようだ。」


哨戒部隊の全滅だと…たしか南方面は4匹で見張らせていたんだよな。一度にやられないようにかなり間隔を開けて飛ぶように命令していたが…モンスターの襲撃にでもあったのか?だがモンスターに襲われたにしても一度に全滅するのは不自然だ…。


「詳細な報告をグレイスがしたいとの事だ。一旦彼女の元へ行こう。私もすぐ行く。」


詳細な報告か…確かに何があったかが気になるな。詳細な情報が欲しい。

俺はひとまずグレイスがいる部屋に向かった。ちなみにアンは工事中の8階層に居たのでワープを許可した。




「マスター。急にお呼びしてすいません。」


「ああ、大丈夫だ。それで何があったんだ?」


「見張りが全滅したことまではご存知ですよね。仲間が最後に残した言葉が少々気がかりでして。」


「仲間が残した言葉か、何て言っていたんだ?」


「ええ、ドラゴンが来た。人が乗っていると言い残したのです。詳細を聞こうとしたのですがその直後に声が途絶えまして…。」


ドラゴンか…それに人が乗っている。てかドラゴンに人って乗れるのか?ワイバーンなら乗れそうだけど…。襲われて焦っている状況ならドラゴンとワイバーンを見間違った可能性も十分ある。実際、両者の区別ってわりと曖昧だし。


「そうか、貴重な情報をありがとう。アン、ドラゴンに人は乗れるのか?」


「乗ることは可能だが…それができるのはこの世界でも有数の実力者だけだぞ?ワイバーンなら幼体の頃から人間に慣らせば乗ることはできるが…。」


なるほど。そうなると哨戒部隊を襲ったのは恐らくワイバーンだな。確率的にドラゴンって事はないだろう。

それと人が乗っていたって言っていたな。上空からこのダンジョンを見つけるのは難しいだろうけど見つかったって事もあり得るな。実際に視界共有を使って空からこのダンジョンを探したら上からでも辛うじて視認できたし…。


「グレイス、哨戒部隊を襲ったのは恐らくドラゴンじゃなくてワイバーンだ。世界有数の実力者なんてそう居るもんじゃない。」


「そうですか、確かにマスターの言う通りですね。」


「でもちょっとこれはマズいことになるかもしれないな。」


「どうしてですか?」


「もしかするとダンジョンが見つかったかもしれない。この前侵入者を始末したからいずれは見つかると思うが、今はまだ見つかるには早すぎる。」


この前の戦いで分かったけどターマイトはあまり戦力にならないことが分かった。恐らくワーカーターマイトも同様だろう。今ダンジョン内で戦力になるのはソルジャーターマイトだけだ。だがソルジャーターマイトの数はまだ200体少々しかいない。

ダンジョンは5階層もあるのに戦力になるモンスターは200体しかいない。これは致命的だ。


「でも決してグレイスの仲間が弱いわけじゃないからな。今はまだ最大の強みの数を生かした戦いができないだけだ。それにまだ上級ターマイトも生まれていない。だから落ち込むなよ。」


ソルジャーの平均Lvもまだ20をちょっと超えたぐらいだ。Lvだけ見てもまだ大きく改善の余地がある。それにグレイスが1日に産む卵の数もまだ少ない。コロニーの増加速度もまだまだ伸びるはずだ。今のグレイスたちは本来の実力の1割も発揮できていない状態といえるだろう。


「気遣っていただいてありがとうございます。頑張って仲間を増やしますね!」


「ああ、その意気だ。」


とはいえ十分な戦力を得るためには最低でもあと1ヵ月は必要だろう。この間に強い冒険者に攻め込まれればダンジョンの先行きが怪しくなる。

一応対策は考えてある。まずは別モンスターの召喚だ。ターマイト以外にも召喚できる虫モンスターが何種類か居る。ランクは高くないがターマイト達との連携次第ではランク以上の強さを発揮できるかもしれない。


「まずは戦力が整うまで凌ぐ必要がある。というわけで新しいモンスターを召喚する。何かいい案はあるか?」


「このモンスターはどうだ?小型で動きも素早い。それに召喚DPも格安だ。」


アンが選んだのはブラットフライというハエの様なモンスターだった。大きさは30cm程度。戦闘ランクはFだ。

俺はモンスターの全体図を改めて眺めた。ブラットって血だよな。って事は吸血を行うモンスターだろうな。それにこのモンスターの形状、一見するとハエのようだが厳密に見ればブユだな。確かブユは皮膚を切り裂いて吸血を行うはずだ。

俺の世界のブユのサイズだと血がにじむ程度だがこのモンスターの牙は3cm弱はあるな。これだけあれば十分な武器になる。首を噛めば致命傷を与えることも可能だ。それに召喚DPが1匹10DPと格安だ。的が小さい上に空まで飛ぶ。群れで襲わせればとても厄介な存在だ。


「なるほど。この大きさで動き回られたら攻撃を当てるのも難しいだろうな。ただこれは俺の予想だが繁殖させるにはきれいな水場が必要不可欠なはずだ。」


「そうなのか?水場は作ることも出来るがテーマ設定をしないと水質の維持が難しいな…。」


「今のDPなら大部屋1つぐらいならテーマ設定もできるな。どこかの階層の大部屋を水場に改築するか?」


「だがテーマ設定まで行うのはいくらなんでも投資しすぎじゃないか?」


「いや、このモンスターも数が重要になる。繁殖させて常に補充できる体制を取りたい。」


とりあえず繁殖出来る体制が整うまでは安いDPに物を言わせて数を揃えよう。

それにしてもターマイトと同ランクで召喚DPは1割って破格だよな。まあ、汎用性の高いターマイトに比べてこのモンスターが出来るのは戦闘ぐらいだからな。それを考えるとこの安さも納得できるかもしれない。


「分かった。召喚するかどうかはお前に任せる。」


「分かった。グレイスはどうだ?」


「私もマスターに一任します。」


「そうか。じゃあとりあえずこのモンスターを100体召喚しよう。」


後は部屋の改築だな。早速候補地を決めよう。そうだな…素早く迎撃に向かわせられるようになるべく上の階層に作りたいが…あまり上層に作ると巣を攻撃されて全滅の危険もあるからな…。何個か巣があるなら何とかなるけど当面は1か所しか水場を作れないからな。


その後3人で話し合い、このモンスターの拠点を4階層に設けることにした。ここならば今の最終防衛ラインの奥だから危機的状況にならない限り巣を叩かれる事はないだろう。

更に今作っている10階層までの大部屋の何個かをこのモンスターの巣に改築することも決定した。ターマイトより小柄な分行動半径も狭いはずだ。あまり長距離を移動させたら疲労で本来の力を発揮できないだろう。それにいくつか巣を作れば1つの巣が全滅しても他の巣からこのモンスターを移すことができる。


こうして会議の後部屋に戻った俺は早速設計図に変更を加えるのだった。

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虫使いのダンジョン経営 七龍光彩 @kousaisitiryuu

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