人格パズルは真面目に取り組んでください

ちびまるフォイ

ただしい比率を守ってこその人間らしさ

目の前には組まれていないジグソーパズルだけがあった。

部屋には入口も出口もない。


「なんだここ……」


そのうち助けが来るだろうと楽観的に考え、

目の前においてあるパズルで暇をつぶすことにした。


パズルはどのピースも真っ白。


「ああ、たしか難しいパズルでこういう柄のないやつがあったな。

 きっとこのパズルを解いたら脱出とかそういうパターンだろ」


おもむろにピースを手に取り角から埋めていく。

難しいと思っていたが、やってみると意外と簡単。


ピースの形の特徴を意識すればなんてことはない。


「しかし……なんの柄もないと、なんか作った感じしないな。

 やっていてまるで面白くない。ガチの人しか楽しめな……ん?」


ピースを裏返すとなにか書かれていた。



『 道徳心 』



「……なんだろう?」


全部組み終わった後ひっくり返せば模様になってました!というものではなく

ピース1つ1つに文字が刻まれていた。


そのピースの中で見切れているピースだけを集める。

ちゃんと合わせなくても何が書かれているかはわかった。


『じんかくパズル』


とだけ書かれていた。


なんとなく文字の意味がわかった気がする。


「最初からどこか現実感はなかったけどやっと腑に落ちたぞ。

 きっとここは誰かの心の中とか頭の中なんだろう。

 そして、このピースが人格を形成しているとかそんなんだ。夢にしてはいいじゃないか」


それがあっているか間違っているのかわからない。


でもこの状況を自分なりに納得しておかないと、

こんな真っ白なパズルをやり続ければ心が病んでしまう。


「このピースは倫理観、ね」


「こっちのピースは優しさ、か」


「これは……いやらしさ? こんなのもあるのか!」


いちいちピースをひっくり返しながら合わせていくので、

最初に比べてペースは大幅ダウンしてしまう。


それでも無地のピースを事務的に作り続けるよりはよかった。



「ふぅ、結構時間たったけどまだまだできないなぁ」



人格パズルはまだ1/3程度しか進んでいない。


無地なのでどれを選んでどれを選んでないかがわかりにくい。

いちいちピースの柄をひっくり返して確かめても途中で忘れてしまう。


「はあ……疲れた……なんでこんな一生懸命にやってんだろ……」


パズル作業に飽きを感じ始めるとますます嫌気がさしてきた。


「この人格パズルが俺や、友達や、家族の誰かとかにせよ

 なんで俺がこんな思いをしてパズルを組み上げなくちゃいけないんだ……」


完成させれば終わりなのだとしたら、そもそもピースにしなくてもいい。

誰が作ったって完成形は同じじゃないか。


時間がかかるか、かからないかくらいの差しかない。


「……いや待てよ。そもそもこれは完成しないほうが面白いかも」


ふと、脳裏によぎったのは友達の顔だった。



友達は常に自分よりも良いものを持っている。

就活だってうまくいって、恋人だっている。


妬むわけではないが、完璧すぎていい気持ちはしない。


むしろ、多少抜けている部分がある方が人間として親しみが湧く。


「すこし、ピースでも抜いてやるかな。

 なんでもかんでも俺より勝っているなんて許せないし」


が、すでにハマっているピースを指にかけてもはずれない。

まるで瞬間接着剤で固定されたかのよう。


「くそ! 一度定まった人格はもう戻せないのかよ!」


もっと考えながら作ればよかったと後悔した。

でもまだ2/3はいじれる余地が残っている。


残ったピースは強引に間につっこんではめ込んだ。


今にも噛み合わない部分が外れそうだが、

それこそ接着剤のようにくっついているのでハズれない。


「ふふふ。いいぞいいぞ。どんどん人間らしくなってきた」


ぴたりはまらないピースをいくつも合わせることで、

そのピースに隣接するピースもめちゃくちゃになってしまう。


いちいち合うかどうかのチェックをしなくなったことで、

ますますパズルの隙間はピースで埋められていく。


そして――


「ようし、全部埋めたぞ!」


半分以上は力技でピースをパズルに当てはめて完成させた。

ところどころスッカスカなのは強引さの影響。


すると天から声が聞こえてきた。



『ついにパズルを作り終えたんですね』



「ああ、もうバッチリ。ちょっと無理してはめたから

 使い切れない人格はあるがこれくらいの抜けてるほうが

 人間らしい人格になるってことだ」



『これが人格パズルだということも知っていたんですね』



「もちろん。それでこの人格はどこの誰のものなんだ?」



『それはあなたです』



「なんだ俺かよ。それを最初に言っていればもっとちゃんと作ったのに。

 おもしろ人間を作ろうとして、あえてピース抜いちゃったよ。

 必要最低限のピースはいれたからいいけどさぁ」



すると、間を置いてから天の声が聞こえた。





『いえ、あなたの人格は残されたピースだけです。

 あなたが組んでいた部分が失われる人格部分です』

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