chapter 3 -beginning of my story- 05

その宝剣は、指輪のそれと同様に、赤く大きな宝石を柄元に抱いた小剣であった。

煌びやかな意匠とは裏腹に

そのラウンド・ブリリアントカットの宝石は、赤い光を放っていた。

柄には革製の鞘が紐で結ばれている。


砂埃を払いながら、下がった壁を越えて現れた部屋に入る。

「スゲェ……。」

「何だコレ……。」

俺たちは息をのんだ。


この部屋は、明らかにクエストの目標地点とは違うものだろう。

明らかに指輪がフラグとなって、現れたものだろう。

胸躍る展開のはずなのに、仕掛けの大きさと疲労で少し混乱している。


「この小剣は持って行っていいのかな……。」

「そりゃ指輪を見つけたのは昇だし、さっきの指輪がキーになってるとしたら他のプレイヤーは開けられないんだから、大丈夫でしょ。」

俺は不安になったが、悠が言うことももっともだ。


思えば、あの地点に埋まっているアイテムを他の誰が発見できただろう。

俺が発見できたのも偶然だった。

このクエストを受注できたのも偶然だ。


「じゃあ……。」

と宝剣の柄に手を伸ばす。

台座に刺さった剣は、思ったよりも軽く抜けた。

重さもほとんど感じないほどであったが、刃の部分は白い鉄でしっかりとしたこしらえになっている。


白銀の刀身が鋭い光を放つ。

「この剣は多分、相当な業物だぞ…。軽減スキルのおかげか全く重さも感じないし。」

それでも初期装備のショートソードの重さに比べるべくもない。

最初は重量に狼狽していたが、今度はその軽さに驚く。


その刀身の美しさたるや、もはや芸術品の域だ。

このかび臭い洞窟から、早く日の光にあててみたいものだ。


そう思ったとき、ふと目に入った。

「これは悠が持つべきものだな。」


「あれ?そんなのあった…って、うぉぉ!?」

それは紛れもなく、魔法使いの持ち物だ。

目に入ったのは、杖のようだった。

魔法の杖といった様相のそれは、宝剣同様、重厚で高貴な雰囲気を帯びていた。


赤い宝玉を抱いた白木の杖。

木製だが、しっかりとした拵えになっていた。


「白い杖か…。このアバターには合わないかもしれないけど…カッコいいなー…。」

悠も手に取ってじっくりと自身と杖を観察する。

魔女風のアバターを課金購入した悠は、黒を基調とした魔女風のいで立ちで統一していた。

今度は、白い魔女にするといい。


「…また課金するのか?」

と悠を見るが、やはりそのつもりらしい。

「この杖なら、課金アバターにも負けないインパクトがあるよね。これは買いだな。」


確かに、課金アバターに初期装備だと、アバターだけが物凄く目立ってしまう。

この装備なら、俺も課金して見た目にこだわってみるのも良いかもしれない。

とさえ思ってしまうほどの美しい剣と杖であった。


φ


洞窟の壁の奥から、剣と杖を手に入れた俺たちは、村に帰るために入口へと歩を進めた。

祠の指輪を回収するために、手を伸ばす。

「あれ?二つあるぞ。」


俺がはめ込んだのは、???の指輪だけだ。

しかし、それとは別の窪みにもう一つ指輪がはめ込まれていた。

手に取ってみる。


「これも相当なマジックアイテムなんじゃないかなぁ…。似たような模様入ってるし、仮にイベントアイテムだったとしても、納品すれば報酬がもらえそう。」

「じゃあ、今度は悠が持って行けよ。せっかくだし。」

ということで、増えた???の指輪は悠に渡した。


その指輪も、俺の指輪同様に白に緑、さらに赤い宝石の指輪だった。

俺たちがここで入手した装備と同じような色調だ。

いわくつきの品という雰囲気だが、俺たちはこの装備を早く戦闘で試してみたくなっていた。


洞窟の入り口に向かって歩みを進めていく。

かび臭いにおいは、もうあまり気にならなくなっていた。


ほの暗い洞窟に、入り口の光が強くなる。

入口が見え始めた。


「……もうドラゴンは流石に去っていったか?」

不安である。

ドラゴンの声はまさに咆哮というべきものだったが、それを聞いただけで身を竦めてすくめてしまう。

ただの声ではなく、雄叫びというべきだろうか。


身体が動かなくなるほどの恐怖を覚えたのは初めてだった。

金縛りにあうとはまさにこのことだった。

身は震え、一瞬、足に力が入らなかった。


ドラゴンがまだこの辺に居れば、この洞窟から外に出るのは得策ではない。

あの声を聞けばまともに動けないどころか、山が崩れてしまうほどだ。

さっきは運よく逃げ込むことができたが、今度こそ危ないかもしれない。

さらに見つかってしまえば、この洞窟も安全な場所ではなくなってしまうだろう。


「どうする?」

「とりあえず出てみるか?で、居たらここに即引き返すしかないだろう。」

「じゃあ、すぐ戻れるように準備を…。」


と言って悠は、ポーションを用意した。

そのまま用意したポーションを使い、MPを回復していく。

しばらくその姿を見て、思い出す。


「そうか。」

悠のMPが切れていた理由。

テレポーテーションの魔法があったっけ。

確かに、こういう時に使うべきだな。


文字通り瞬間移動テレポーテーションなら退避も遁走とんそうもお手の物って感じだ。

テレポーテーションの効果範囲は、使用者の視界に入った場所という事になる。

つまり悠に見える場所なら、どんな距離でも移動できるということだ。

距離に応じて消費MPの量も変わってくるようだが、その場から離れられれば、どの方向に逃げてもかまわないということだ。


しかし、今回は禁止エリア内での活動中。

あらぬ方向へ転移してしまったら、それこそ完全なマップ外に出てしまうことになるかもしれない。

「テレポーテーションを使う方向は、考えておいたほうが良いかもな。」

「とりあえず、プレイエリア内に行けるようにテレポーテーションしてみようと思う。あの騎士なら何とか出来るかな…?」


禁止エリア付近では必ず出会った見張り。

彼ならドラゴンとも対等に渡り合えるだろうか。

それはわからない。

だが、彼は明らかに俺たちよりも高レベルなプレイヤーだ。


神盾しんじゅん騎士団。

騎士団というからには、恐らく構成員が何人かいるはずだ。

高レベルのプレイヤーたちが集まれば、助けになるだろう。

「そうだな、騎士団というからには助けてくれるだろう。」


悠が最後のポーションを使い、MPを回復させた。

「ふぅ…、チャージングスキルは絶対に覚えないとな。」

早速白い杖を用意する。


「よし、ゆっくりと洞窟の外に出るぞ。」

俺もさっきの剣を装備した。

心なしか体が軽くなったような気がした。


この剣を握ると、さっきまでの不安が少し和らぎ、力が湧いてくるような気がした。

この剣を振るってみたい、という気持ちになるような気がした。


入口の光。

その光の差し込む方へ、ゆっくりと歩みを進めていく。

ドラゴンが居れば、即転移。

居なければ、様子をうかがいながら境界線へ。


そうして二人は洞窟を後にしたのである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ノビー(昇)

Lv   :10

職業  :戦士

装備  :鉄の帽子

     ガントレット

     鉄の鎧

     ???の剣(未鑑定)

     鉄の盾

スキル :薙ぎ払い

     ソードステップ

     受け流し

     ボルテージ

     インサイト

     サポートダッシュ

     サポートキャリー

     バルクアップ

アイテム:???の指輪(未鑑定)

     スタートポーション×29

     短刀

     鉄の剣

     ブーメラン

     緑の雫×24

     コボルトの毛×15

     コボルトの小盾

     コボルトの剣×2

     コボルトの槍

     コボルトの弓

所持金 :120G

――――――――――――――――――――――――――――

名前  :ゆうゆう(悠)

Lv   :11

職業  :魔法使い

装備  :とんがり帽(魔女)

     布のローブ

     ???の杖(未鑑定)

     火の書01

     氷の書01

     癒しの書01

スキル :ファイア

     チリング

     ヒール

     テレポーテーション

アイテム:スタートポーション×20

     木の杖

     ???の指輪(未鑑定)

     緑の雫×26

     コボルトの毛×10

     コボルトの槍

     コボルトの小盾

     コボルトの弓×2

所持金 :110G

――――――――――――――――――――――――――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Defeat the Game Master 紅しょうが(仮 @benishouga0717

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ