エピローグ

急にいなくなったと思ったら、こんなところにいらしたの。


ふふ、私の話がそんなに怖かったかしら。

……ってあら、灯りを持っているじゃありませんか。

早く言ってくださったらよかったのに。



え、質問に答えろって?

どうしました、顔が真っ青 ですよ?



……そうですね、貴方が見つけた『それ』は骸骨ですね。

とても綺麗でしょう? 私の恋人なんです。

死んでなんか、いないんですよ?


だって約束しましたもの。 一緒にこの月夜の舞台で、社交ダンスを踊るんだって。


だから私は、『彼』が目覚めるのを待っているの。

約束したあの大広間の、月光が差す舞台に、彼を座らせているの。


ずっと、何年も――



……そう、何十年も待ち続けている。


もう百年は経っているでしょうね、だって今は大正じゃないでしょう?


……私は、いつまで待っていたらいいのかしら。


ねぇ、寂しいの。

どうしようもなく、寂しいの。


こうしている間に、忘れられそうで怖い。

一人は、嫌なの。

何も残せないのが、嫌なの。



……今日出会った貴方も、怖い思いをしたら私を忘れないでくれるかしら?


何度も誰かの記憶に縋ろうとして、手を染めて、一体何人弔ったのでしょうね。


忘れてしまったわ。自分の腕を何回傷つけたか、分からないのと一緒ね。



……分かってる、私おかしくなっちゃったの。


ひび割れた音が止まらない 、壊れたブリキの玩具のように、歪んでしまったの。


でも私は、この手を止められない。


ごめんなさい、貴方は悪くないわ。

悪いのは私。私なの。


お願い、私を一人にしないで。

私をどうか、貴方の記憶に刻んで。


この庭に咲く、ハナミズキの木の下に弔ってあげる。


私が生きていた頃は白かったのに、いつからあの花は赤くなってしまったのかしら。

真っ白だった私は、いつからこの身を血で染めるよう になったのかしら。



もう、私には分からない。

私は、私を止められない。


お願い、逃げないで。

ナイフで楽に刺してあげられないわ。



……私を、その名前で呼ばないで!


もう、それは捨てたの。

あの人が目覚めるまで、私はこの館でずっとずっと待ってるわ。

貴方が好きだと言った、その花の名前で。

そう、私の名前は――



「私はハナミズキ。――私の想いを、受け止めて?」




――Fin――

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白花は朱と散りてなお 有里 ソルト @saltyflower

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