五
まだ太陽は昇っていない。でも彼はもう目が覚めた。妙に冴えていたが、少々気持ちが悪かった。
寒かったからか? あるいは、ともうひとつの理由が思い浮かぶ。それを確かめる為に、左手をポケットに突っ込む。
紙の感触。便箋が入っていた。軽い絶望が彼を襲う。
「夢だったか……」
幻であっても、夢であってほしくなかったのに。
もう、どこまでが現実か自信が持てない。
すぐ横で政重が寝ている。時刻はまだ朝の四時だった。
一連の出来事、もしくは夢のことを考えていた。
自分があの手紙に書いた内容。
もしかして、自分は。
そして、彼女も。
お互いに——。
ああ。
一体、あれからどれだけの季節が巡ったのだろう?
気づくのが遅かった。
でも、どうしようもない。
だけど。
これで。
終わり。
だから。
きっと。
夢は。
もう見ない。
忘れないようにするだけ。
大切なものだから鍵を掛けてしまおう。
すぐ横で政重が少し動いた。
「何だ毅、起きていたのか」横になったままで政重が言う。
「おはよう」
「今何時だ?」
「四時過ぎ」
「早いな。——六時ぐらいにここを出ないか?」
「そうしよう」
黙って政重は身体を起こした。
「なあ毅、ここに前来た時に、美知代に逢ったか?」
「わからない」
「そうか、やっぱり夢か……。そうだ。お前、何か手紙みたいなものを持っているか?」
何も言わずにポケットから手紙を取り出した。
「これはここに置いていくよ」
鞄のポケットからボールペンを取り出してその手紙の空白に言葉を記した。
「これで、OK」
彼はボールペンを仕舞う。その時に、美知代からもらったキーホルダを入れていた事に気がついた。
「なあ、これ」キーホルダを鞄から取り出す。「鞄に入っていた」
「宝物だな」
「ああ」
そして目を合わせて微笑む。
これで、もうここに用事はない。これは確信を持って言える。
思い残すことは、もう無いだろう。
——さよなら、ありがとう、美知代。
もしかしたら、僕は——。
さよなら思い出 - Where did come the letter from? 雪夜彗星 @sncomet
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