続・最終日
「ふぅはーっはっはっはっはっは!!」
従者が立ち上がり、俺を睨みつけながら高笑いする。と同時に、従者の影が広がり、その影から多数のモンスターが這い出してくる!
「思い出したぞ! 憎き初代ガチャ!」
「な、なんて数だ……」
とめどなく這い出し続けるモンスターたちに、テッド君が戦慄するように述べる。うん、確かにすごい数だ。その上、いずれも大型モンスターで質も高そうだ。
「お前に……」
グオォォォォォォッ!!
「……数百……」
ガァァァァァァァァァッ!!
「……待ちわび……」
ギャオォォォォォッ!!!
従者は自身の影から湧くモンスターの群れに完全に飲み込まれている。何やら大声で話しているみたいだが、その内容は全く聞こえない……。あ、モンスターの湧きが止まった。
「ぐっ、はっ、はぁ、はぁ」
大型モンスターの群れを文字通り"掻き分け"て、従者が姿を現した。
「お、お前に呼び出され、そのまま拘束されて数百年……、貴様に復讐する日をどれほど待ちわびたか!!」
呼び出されて拘束……?
「お、お前、まさかランスロットか!?」
「数百年のうちに俺自身擦り切れ、"ランスロット"という名など失われた……」
バッチリ名乗ってるじゃねぇか。
「召喚された世界に繋ぎとめられ、還ることも死ぬことも許されなかった私は、もはや人ではないっ!」
手で顔を覆い、指の合間から俺を睨み付ける元ランスロット。そのポーズは必要なのか? 完全に自己陶酔してないか?
いや、確かに、俺が"従者"と誤認するほどには無言でリリアに付き従っていたり、馬になりきっていたりと、"擦り切れていた"感はあったな……。そうか、刺青だと思っていた首の模様は、"癒着した拘束の首輪"だったのか。「死」に向かう生命すら拘束するとは、あの首輪、そんなにエグイものだったのか……。
「貴様には私の味わった地獄を、いやそれ以上の地獄を味わってもらうぞ」
再び広がるランスロットの影から、大型モンスターが出現する。先ほどの失敗を踏まえてか、今度は後ろ方向に影を広げている。便利な影だな。
「どんな恨みか知らないけど、ただではやらせないわよ」
俺を後ろにかばうように前に出るエリィ。ヤバイ、男前すぎ。
「ぐっ、き、貴様……っ、あなたはっ、そ、そんな目で私を見るな……」
エリィの姿を見たランスロットは額を押さえ、呻くように声を漏らす。
「ぐっ!! わた、私を、お、俺を、ま、惑わせるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
奴の叫びに応えるように、モンスターたちも一斉に咆哮する。
「こ、これはちょっと、さすがにちょっと厳しいかもね……」
エリィのこめかみに一筋の汗が流れる。いくらオカマが強キャラだとしても、あまりに多勢に無勢か。
「くそっ!! こんなことならくだらないことでコインを使うべきじゃなかった!!」
「おまっ! 今ガチャバトルをくだらないって言ったか?」
あ、テッド君いたんだっけ。いや、くだらないのはガチャバトルだけじゃないからね。心配いらないよ?
2枚とってあれば、ジュン君を指名ガチャできる。いや、1枚あるだけでも……っ!!
「ってか、俺コインたくさん持ってるけど?」
「マジデ!?」
テッド君はポケットからジャラりとスタミナコインを取り出した。
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
ヤベェ、テッド君から後光が差して見える。
「俺も毎日コインが手に入るんだが、ガチャ装置をお前らが独占して──」
「これだけあれば!!」
俺はテッド君の手からコインを奪い取り、ガチャ装置へ走る。
「ちょ、おまっ!!」
「うぇっへっへっへっへ」
人の
「いくぜ!! 連続指名ガチャ!!」
ジュン君、サリア、転生勇者のハルト君、
ガチャ
ガチャ
ガチャ
「あれ? エリィ?」
「ジュン様、はい、あ~ん」
「またあなたですか?」
……と、ついでに釣り堀勇者の慎一君。
ガチャ
「え? また呼ばれた!?」
「ふははははははははっ!! オールスターヒーローズだ!! まさに俺式アヴェ○ジャーズ!!」
「まっ、これだけいればいけるかしらねん♪」
エリィが指をパキパキと鳴らす。
「みんな一緒に呼ばれたのは初めてだね!」
ジュン君は背中の剣を抜き放つ。
「ジュ、ジュン様のために、全力で戦います!!」
サリアは、今まで見たことが無いほどに闘志を漲らせている。
「やれやれ、仕方が無いですね」
ハルト君は両手に紫の焔を吹き上げる。
「貴様との勝負は一旦お預けだ。招かれざる客には、早々にご退席願おう」
"覇王レックス(笑)"君は、顔だけエリィに向けつつ言った。あ、エリィ聞いてないんで。
「え? え? 僕も戦うの!?」
「こ、殺せ!!」
釣り堀勇者、慎一君の戸惑う声は、ランスロットの怒声にかき消された。モンスター軍団と勇者たちが激突する。
「うひゃぁぁぁあっ!!」
慎一君が逃げ惑う。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
テッド君が逃げ回る。
閃光のような斬撃が鮮血を迸らせ、爆炎が戦場を焼く。
尋常ではない数の大型モンスターたちは、しかし5人の勇者たちにより両断され、すり潰され、爆散していく。
「おあぁぁぁあぁっ!!」
俺も戦乱から身を隠すのに精一杯だ。だが、一応女子で姫なリリアを庇いつつ、岩陰に逃げ込んだ。
「き、危険すぎる、うわぁっ!」
隠れている間近でも、地面がいきなり爆発し、砂塵が降り注ぐ。
「た、たぶん、非戦闘員は護られてる……、はず」
きっとエリィなら護ってくれる。信じるぞ!!
「……」
一面の焼け野原。死屍累々。いや、もちろんジュン君たちは無事ですよ。ついでに慎一君もね。
永遠とも思える時間、いや、実際には数十分程度だったのかもしれないが。その間、ランスロットはひたすらにモンスターを生み出し続けた。そして、その悉くをジュン君たちにより撃破され、モンスター供給もついに打ち止めとなった。
「お、俺は、私は……」
ランスロットは地に膝を着き、何かを求めるように空を仰ぎ見る。そこへ近づく影。
「何も言わないでいいのよ」
エリィはランスロットの前にしゃがみ込み、そしてやさしく抱き寄せた。
「さぁ、一緒に帰りましょ」
抱き寄せるエリィの手が僅かに光る。ランスロットの首に癒着していた首輪が、乾いた泥のように崩れて落ちた。
「あ、あ、」
首輪による拘束から解かれ、ランスロットは急速に老いを得る。体が崩れ、消えていく。
「あ、あぁぁぁぁぁ……」
同時にエリィも光となって消えていく。二人の燐光は螺旋を描きながら、そして空へと上っていった。
「一件落着かな」
ジュン君が向ける視線の先、遥か彼方のモンスターたちも次々と消えていく。と同時に、新たな緑が急速に芽吹く。
「世界から憎悪が消えています。先ほどの彼が、世界を憎悪で覆い、モンスターを生み出していたのでしょう」
サリアは晴れ間の見えた空を見上げつつ、そう分析した。と、同時に、彼らの体からも燐光が発する。
「どうやらお役目終了みたいだ」
「もう呼ばないでください」
「や、やっと、帰れる……」
ジュン君、サリア、ハルト君、慎一君、そして"覇王レックス(笑)"君も、光と共に消えていった。
「めでたしめでたし……、なのか?」
常に曇天で一面の荒野だったこの世界に、日の光が降り注ぎ、草木が芽吹いた。俺の仕事も終わったかな……、
「っ!!」
背後からの不気味な気配に、俺は飛び退きながら振り向いた。
リリアが真顔で立っていた。
リリアのその向こうにはテッド君が立っている。
リリアはテッド君と俺の間で視線を行き交わせ、俺に視線を固定した。そしてその顔はおぞましい笑顔へと変貌した。
「あ、もうガチャいらないよな──」
「わたくしは本来高貴な身分……」
「俺の仕事も終わったと──」
「しかし残された人類が男女の二人では……」
「いや、もう一人いるよね?」
「……致し方ありませんわよね!?」
リリアは舌なめずりする。その様が妙に生々しく、そして艶かしく……、
「ちょ、ま、まて。猛烈にカマキリのオスな気分になってきた!」
「できるだけ優しくいたしますわぁ!! 存分に! 新たな人類の礎になってくださいましねぇぇ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺もう帰るぅぅぅぅぅ!!」
めでたしめでたし
毎日1回、勇者召喚ガチャ!神レアはクーリングオフ案件!? はとむぎ @dicen
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