最終日
「逃げずにやってきたのは褒めてやる!」
自称ガチャライバルの"克翼の黒騎士レイヴン"(笑)は、俺を指さしながら大声で告げた。
「いや、昨日からずっとここに居ただろ。お前も一緒に果実食べてたじゃねぇか、テッド君」
そう、一晩一緒に居て、実は本名が"テッド"だと聞いた。夜中に火を囲んでると急にそういうことカミングアウトし出しちゃう奴とか、いるよね?
「お、俺の真名を呼ぶんじゃない!!」
真名とか言い出したよ。この世界にそんな設定あったのか? 真名で呼ばれたら操られてしまうとか? 自分でバラしたくせに……。
「と、とにかく! 今回はより強い勇者を呼び出した者が勝者だ! 俺からいくぜ!!」
勝手にルールを決定し、勝手に進行していくテッド君。どうやら真名を呼ばれても何も問題ないようだ、残念。
そういえば前回はリリアが仕切っていたはずだが……、リリアに視線を向けると、ほくほく顔で眺めているだけだった。こいつ、やっぱり前回はただ空腹だっただけだな……。昨夜はしっかりと果実を食べたので満足気だ。うーん、殴りたい。
「我が力となりし者よ……」
テッド君はコインを指に挟んだまま高々と掲げる。俺がリリアに殺意を抱いているうちに、テッド君はさっさと話を進めてしまうらしい。
「前回とはポーズもセリフも違うのね」
「……」
俺のツッコミで一瞬詰まるテッド君。
「し、漆黒の底から現れ、我が力となれ!」
"我が力"って2回目ですね。大事なところだから2回言ったのかな。
「げ、現出!!」
今回はコインを投げず、ちゃんと投入口にしっかりと投入した。前回落としたもんね。
ガチャ
排出されたカプセルから光が噴き出し──
「はっ!」
と同時に何者かが飛び出してきた。華麗に三点着地を決めたその人物は、僅かに視線を上げた。
「何者かに呼ばれたか?」
屈んだ格好のまま、その男は独り言のように呟く。
「また"濃い"のが来た……」
うーん? なんかコイツ見たことある気がする……。
「あ……」
思い出した。コイツ"成長チート"があるとか言ってた勇者だ。くわしくは13日目を参照で。
「ギュルワァァァァァ!!!」
そんな俺の思考を遮るように、唐突に5体のモンスターが襲い掛かってきた。
「え!? ついさっきまでモンスターの気配すらなかったよね? いつの間に出てきた!?」
キィィィィィンッ!! カッ!! 成長チート勇者のドヤ顔が大写しで視界に割り込む!
「"
「え、今の何!? リアルでカットイン演出とかどうやってやるの!?」
「惨殺剣……」
俺の戸惑いに拍車をかけるべく、成長チート勇者はどこからともなく日本刀を取り出し……、おい、えらく長いぞ? 大丈夫か?
「……月輪」
「ちょっ!!」
そして奴は恐ろしく長い日本刀を水平に振り抜いた。 俺は俺史上最速でそれを回避した。さ、避けられたのは奇跡だ……。
「お前たちはもう、俺の"
日本刀を逆手に持ち替えポーズを決める奴の背後、5体のモンスターがシルエット化したかと思えば、それら全ては真っ二つに切断され爆散した。
「モンスターの出現まで込みの"登場演出"かよ!!」
危うく登場演出で命を取られるところだった。「成長チート」で伸ばした部分はまさかの"演出面"とは……。カットインといい、登場演出といい、彼のスキル振りが心配でならない……。
「さぁ! お前の番だぜ!!」
「ほえ?」
テッド君が俺を指さしながら宣言する。こら、人を指さすんじゃありません。
「あー、そういえばガチャバトルだっけ?」
演出に気を取られて、すっかり忘れていた。いや、俺がやる気"ゼロ"なので覚えておく気が"ゼロ"なだけかもしれん。
「はいはいっと」
俺はとりあえずコインを突っ込み、ガチャレバーを回した。
ガチャ
「まぁ、そんなに私に会いたかったのかしらん♪」
「ぶほっ!!」
ま、またか、またしてもエリィ……。
「え、ちょっと信じたくないんだけど……」
俺、実はエリィを求めてるの!? 無意識に呼び出してるの!?
「あら? 今日はモンスターが相手じゃないの?」
俺が自身の内面とか無意識とか、そういったモノへ疑問を向けているうちに、エリィは自分の相手が"成長チート勇者"であると悟ったらしい。
「フッ、こんなオカマが相手とは……。この俺、"覇王レックス"の敵ではないな」
成長チート勇者改め、"覇王レックス(笑)"君は、腕組みした状態で岩場に持たれながら言う。覇王レックスて……、レックスもラテン語で"王"なのに……。
「ふふ、可愛らしいわね。そんな辛そうな姿勢で持たれてないで、こっちでお話なさいな」
エリィは軽く笑みを浮かべている。確かにレックス君、持たれている岩場が低すぎて少し辛そうだ。ちょっと足プルプルしかけてない?
「よほど俺の"
レックス君はゆらりと岩場から離れ、エリィを睨みつけて凄む。
「お、おぉ?」
なんだか息苦しくなってきたぞ……? よく分からんが、とりあえずレックス君がすごい圧力を発しているらしい。実は本当にすごい奴だったりするのか!?
「若い子のオイタを諫めてあげるのも、年長者の役目よね♪」
そう言いつつ、エリィも闘気的なモノをすごい勢いで発した。
「ヒィッ……」
テッド君が小さく悲鳴を上げている。わかる。俺も逃げたい。エリィとレックス君の周囲には目に見えない何かが渦巻き、二人の間の空間が歪んで見えるような錯覚すら覚える。
「……」
両者を見ているだけの俺たちも、変な汗が滲み……、
ゴクリ
誰かの息を飲んだ音に反応するように、エリィとレックス君の姿が消え──
「うおぉぉっ!!」
その余波で俺たちは吹き飛ばされた。
周囲のあちこちで小さい爆発が連発し、空が爆ぜ、土が舞う。二人の姿は一斉確認できないが、激しい攻防が行われていることだけは認識できた。
「ウヒィィィィィッ!!」
テッド君が情けない声を出しながらゴロゴロと転がる。俺も逃げたいけど、どこが安全地帯なのか分からん!
「グルォウゥッ!!」
「なっ!」
戦闘音を聞きつけたのか、モンスターがこちらに向かって──
「ゴバァ」
来る前にひき肉に変わった。
「うひゃぁぁ……」
その後も、モンスターが次々とこちらに接近してくるが、二人の戦闘の余波で漏れなくミンチになる。俺はその様子を茫然と見守った。
「あー、そうか……」
どうやら、彼らはちゃんと俺たちを避けて戦っているようだ。"下手に身動きしないこと"が安全地帯だな、これは。
俺が察したのと同じく、全員がそれを理解したらしく、ただジッと嵐が過ぎ去るのを待つ。
変化は突然に顕われた。
「縛鎖!!」
突然、彼らの姿が見えるようになった。レックス君が出したらしい首輪が、エリィの首に嵌っている。いや、"まだ"嵌っていない。エリィも腕を挟み込み、首輪が完全に装着されることを防いでいる。
レックス君が無手の左手を翳し、握るように力を籠める。それに応じて、首輪が更にエリィを締め上げる。
「ふんぬぅぅぅぅぅぅ!!」
野太く、漢気溢れる声を挙げるエリィ。腕の筋肉が異常に膨張し、締め上げられていた首輪を力任せに押し広げていく。
「ぐっ!」
苦悶の声を漏らしつつも、更にレックス君が力を籠める。二人の力が拮抗し、首輪がギリギリと悲鳴を上げる。
ここまでエリィと渡り合うとは。レックス君、ちゃんと強かったんだ……。
「ああぁぁ、あぁ、あ……」
俺のすぐ横から、変な声が聞こえてきた。まさかリリアがまたしても猛獣化してるのか? しかし食べ物は現れてないし、"猛獣化2するようなネタは無かったと思うが……。
振り返る俺の視線は、意外な人物を捉えた。
「え? お前?」
声の主は従者だった。未だに馬のように四つ這いの状態でエリィの姿を見上げ、口からは声にもならない音を漏らしている。
「ふは」
従者は口角を歪につり上げる。
「もしや、ついにリリアの暴挙に耐え切れなくなって……」
「わたくし、このモノには何もしておりませんわ!」
馬にしといてよく言う。
「ふは、は」
馬になりきっていたはずの従者が立ち上がる。笑顔と言うにはあまりに歪な……、おぞましい表情を見せている。
「お前……、馬じゃなかったの?」
「俺が召喚された時は、従者君、ちゃんと立ってたよね!? 馬になったの3日目くらいだよね!?」
リリアが見せる驚愕の表情に、俺が驚愕する。こいつ、食い物以外は心底どうでもいいのか? と言いつつ、俺も従者の名前を未だに知らないけども。
「え? 従者じゃありませんわよ?」
「は?」
「その辺に行き倒れていたのですわ」
「それってどういう──」
「ふぅはーっはっはっはっはっは!!」
従者の高笑いが響いた。
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