10日目

「世界をお救いくだせ、えへ、えへっへっへ」

 リリアが壊れた。空腹と、あと空腹と空腹のせいで壊れた。というか、奴は昨日魚を1匹食べてるじゃないか……。いや、目の前に魚が泳いでいるのに獲れない、というストレス込みか?


 リリアは座り込み、げっそりとした顔のまま虚空を見つめてうわ言を言い続けている。涎も垂らし衣服もかなり着崩れている。とにかく絵面がヤバイ。これが小説で良かった……。


 今日こそは、俺も食べ物にありつきたい。さすがに空腹が限界だ……。

 俺は半ば無心になり、ガチャレバーに手をかける。



 ガチャ



 ガチャ装置から飛び出したカプセルが光を放ち……、一人の人影が浮かび上がる。

 見たことのあるピンクのショートヘア。そして以前より少し立派になったローブを羽織った少女、サリアがそこに居た。

「げっ!」

 以前、闇落ちして大量の"異形"を呼び出した張本人様のご登場である。

「いきなり第一声で"げっ"はひどくない?」

「あれ? 普通だ」

「尚更ひどさを重ねてきた!?」

 よかった、闇堕ちモードではない様子。いや、それもそうか。そういえば、ジュン君を助けて闇堕ちを防いだんだった。


「ジュン様から頼まれたから助けてあげるだけなんだからね!! ジュン様に感謝なさい!!」

 あまりにツンデレのテンプレすぎるセリフを吐きつつも、どうやら手助けしてくれるらしい。以前召喚した時は毎回逆切れされて、挙句の果てには闇堕ちしてた。やっぱりジュン君素敵!!


「……、というか、そこのヤバイ感じの人は、人間……、なんだよね?」

「え、えへ、えへへへぇぇぁ……」

 あー、うん、とてもお見せできる状態ではありません。

「えっと、まぁ、一応?」

 ということで、モンスター退治も必要なのですが、喫緊の課題としては"食料問題"が……。


「え……、モンスター討伐じゃなくて、食べ物がほしいって?」

 サリアはあからさまに表情を曇らせる。

「わ、私は、時すら操る大魔導士だから、その……」

 あー、これはアレですわ。料理できない系ですわ。

「とにかく食べられれば何でもいいんで……、なんか持ってないですか?」

 まぁ、できないなら、それはそれで。なんでもいいから食べられれば──

「な、なによ!! 私だって料理くらいできるわよ!!」

「え、あ、いや──」

 俺の発言がどこかの急所に当ったのか、急にキレ出すサリア。

「み、見てなさい!! 私だってモンスターくらい調理してやるわよ!!」



「お、おご……」

 か、体が動かない。サリアが"料理"と称する物体を食した瞬間から、金縛りのように体が動かなくなった。

「ハフッ、ハフッ」

 ひたすら"料理と称されたナニカ"を食べ続ける姫。奴は何故平気なんだ……? 従者ですら虫の息だ……。

「あ、あれ? おかしいわね……」

 サリアが戸惑いの声を出しているが、俺は今それどころじゃない。

「う、うが……」

 体の中を何かが這いまわる感覚。俺の胸の内側に、何か、何かが、突き破って──




 ビギャァァァァァッ!!!




「はっ!」

「ぶつぶつ(……時魔法……巻き戻し……)」

 いつの間にか寝ていた? 何かものすごい悪夢を見たような気が……、なんだっけ?

「あ、あは、えへ、ごちそう、いっぱいぃぃ……、えへぁぁ」

 リリアは相変わらずの廃人具合だ。


「こ、こうしましょう! ここに植物の種があるわ!!」

 ポーチから種を取り出すサリア。あ、そういえばサリアを召喚したのだったか……。あれ? おかしいな。サリアを見ていると体が震えてくるぞ……?

「これをここに植えて……」

 彼女の行使する時魔法により急速に成長する植物。そしてたわわに実る果実。

「おぉ~、すごい!」

「うひょひょひょひょひょひょひょ!!」

 リリアは4足で飛び上がり、軽々と木に登ったかと思えば口で直接果実を毟り取った。動きが完全に人外だな。

 おっと、いかんいかん、大量に実った果実はまだまだたくさん残っているが、リリアのあのペースではあっという間に無くなりそうだ。


「ふははははははは!! 見つけたぞ!!」

「フシャァァァァ!!」

「たくさんあるんだから、俺にもくれよ!!」

 俺が果実を取ろうとすると、樹上から歯を剥いて威嚇してくるリリア。俺に取らせないつもりか!!

「石投げちゃる」

「シャァァァァ!!」

「お、おい! こら! 無視するんじゃない!!」

 俺が投げた石をリリアはひらりと回避する。手足を器用に使い樹上をスルスルと移動していく。そして見せるドヤ顔。

「フッ、俺は"お前"に当てるために"投石"したんじゃない……」

 リリアが回避したその後ろ、木に実った果実に石が命中し、果実が落下してくる。

「"果実"を取るための"投石"だ」

 俺は果実をキャッチし、リリアに見せつけるように言い放つ。

「キキィィィィィ!!!」

「避けるか!? それとも食らうか!? お前に選ばせてやる!!」

「俺を無視してかっこいいセリフを決めてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

「ん?」

 俺の後ろで、袖なし男が吠えていた。

「やっとこっちを見たな! ガチャバトルで勝負だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 あー……、この袖なし男は……、誰だっけ?

「忘れたとは言わせねぇぞ! この"克翼の黒騎士レイヴン"様をなぁ!!」

 あー、痛いキャラがガチャバトルとか痛いこと言ってた奴か。

「おうおいんあいああ、あふぃふぁあ(もうコインないから、明日な)」

「食いながらしゃべるんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「えーっと、私、還って……、いいよね?」

 召喚された直後とは違い、なぜかサリアは申し訳なさそうに還って行った。


【世界のモンスター率99.99999%】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る