それは青春と似ている
もう随分と長らく、わたしは衝動的にものを書くということが出来なくなった。
いつでもまず先に考える。視点をどうするか、人称をどうするか、展開をどうするか、年齢をどうするか、関係性をどうするか、全体の長さをどうするか、漢字の詰める量、地の文と会話文の比率。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて、そして思う。面白くないな、と。
ひとが書いたものに対しても、同じように気にしてしまう。
展開が早すぎる、誤字が多すぎる、設定が矛盾している、描写が足りない、接続語が足りない、同じ言葉を併用している、ここは深く考えていない、ここの部分はこだわっている。
そうして思う。なんてつまらない読み方をするんだ、と。
わたしは昔、作家になりたかった。
自分の書いたものを世界中のひとに読んでもらいたかった。
桃太郎のように、死んでなお誰もが当たり前のように知っている。そんなはなしをつくりたいと思っていた。
自分の内側からとめどなく溢れ出してくる世界を書き留めるのが楽しかった。
それが、わたしはいつしか、考えて書くようになった。
ひとに読んでもらうにはどうすればいいか、受け入れられる文章とはどんなものか、読みやすいとはどういうことか、丁寧な作品とはどういうものか、中身が詰まっているとはどういう意味か。
そうしてわたしは、いつからか、自分の満足できるものがほしいと思うようになった。
その反面、ひとに読んでもらいたいという気持ちが、薄れてしまった。
わたしは作家になりたいという気持ちをもつことをやめた。
いま、わたしはひとが書くぐちゃぐちゃな文章を読んでいる。
展開もいい加減、設定もいい加減、視点もいい加減、文法もぐちゃぐちゃ。
そしてわたしはそれを、うつくしいと思っている。
「書きたい」という熱意が見える。
「上手くなりたい」という情熱が見える。
「誰かに読んでもらいたい」という、切実な感情が見える。
それはわたしが、いつしか手放してなくしてしまったものだった。
うつくしいと思った。
無骨で、雑で、いい加減で、勢いしかなくて。
漢字も間違ってるし、「す」と「つ」の違いも分かってないし、変なところでちぎれてるし時制はずれてるし視点もずれてるし、書き方なんて全然分かってない。
でも光り輝いている。
面白い。
感動する。
もっとその姿を見たいと思う。
わたしがなくしてしまって、取り戻せなくなってしまったものがそこにある。
わたしは、老いたと思った。
それ、は青春と似ている。
上を見上げて足掻いている姿はまぶしい。
だから、進めなくて困っているのなら、その足もとを支えてあげたいと思った。
わたしなら、それが出来ると確信していた。
わたしはいつでも慢心している。
だから、わたしはいつでも、わたしを誰よりも疑ってかからなければいけない。
わたしの書くものの前に立ってくれるひとがいる。
そのひとのために、わたしはわたしの文章に対して、真摯であらねばならない。
そしてふと思う。
それ、が青春と似ている、と。
のびやかに踊る(掌編集) 夏緒 @yamada8833
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