私はこれで銀行辞めました

阿佐ヶ谷の女王

第1話 そこにコンプライアンスあるのか?

「いいか この投資信託は定期預金みてえなもんなんだからなっ。五年経ったら分配金と一緒に元本も返ってくる。元本保証みてえなもんだ。だからリスクは低いんだって言って売ればいいんだ!!」


唾を飛ばしながら、汚い言葉で捲し立てる。とても一部上場企業とは思えない。ましてや支店長の発言とは思えない。会議の資料を前にして、本当に心の底から、この会社に入社した自分を呪った。品の無さにぞっとする。


(有り得ない・・・) 


今期の目標設定額を確認しながら心の中で思う。本部へのアピールのため、目標設定は本部指示の二割増し。とてもじゃないが、こんな額の投資信託なんて売れる訳が無い。自分の出世のために狂ったような額のノルマを押し付ける、そんな支店長だった。偏差値40台の大学卒だから、営業成績でしか出世していけないのだ。


(滑頭銀行らしい) 滑頭と書いて「なめとう」と読む。田舎の知名度の低い銀行なので、都内では読めない人も多く、「すべる・・・?」と言われてしまう。


思わず溜息が出る。関東圏にある、この地銀に勤める人間のプライドは驚くほどに高い。県内には一部上場の大企業の工場や営業所があるにも拘わらず、自分達が一番で超一流だと思っている。滑頭銀行員同士で結婚した自分達を「滑頭ファミリー」などと言うところからも窺い知れる。自分達を「ロイヤルファミリー」か何かと勘違いしているのかと思ってしまう。


驚くほどにプライドが高いのに、仕事の内容はザル。守るべき事が守れていない。目の前に居る支店長も前任店ではパワハラが酷い事で有名だったらしい。それでも「滑頭ファミリー」だと守られてしまう。そして営業成績が良いと、うやむやになってしまう。


トンデモナイ支店に配属になってしまった。泣きたい気持ちである。

(お客様の方を向いてない・・・)

資産運用の相談業務などと言いつつも、結局は定期みたいなもんだ、リスクは低いなんて安心させるようなセリフを並べ立てて、押し売りするようなもの。


そもそもがリスクのない投資信託なんてない。この商品も日経平均に連動していて、下落率が25%を超えなければ、元本割れしない、と言うだけで、元本が保証されているなんて、商品説明には一言も書いていない。


この低金利の時代に年利5%は確かに大きい。ただ日経平均が大きく下落した時の損失は計りしれないのだ。それを理解して貰った上での販売なのに・・・

頭の悪さに定評があり、ゴリゴリの営業から重戦車と言われ、更にはこの人が転勤した後の支店は不良債権の山となる、そんな評判の支店長。所詮は田舎の三流銀行、こんな会議、金融庁や証券取引委員会が聞いたら、本気で仰け反るか、逮捕権がある人達だから、逮捕されるかも知れない。聞いていると眩暈がしてくる発言のオンパレード。


そして・・・ 下らない会議が終わった後は、「滑頭ファミリーで飲みに行くぞー」と、ここでもファミリー。一緒にするなと言いたい。


(自分の親がこんなんだったら、情けなくて死にたくなる)

それが本音。

この支店長が、事業拡大を望んでいない年老いた経営者に無理やり借入させ、在庫過多にし、販路が無いまま経営破綻。生活費も無くなり、夫婦で首を攣ったと言う話も聞く。その時に


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私はこれで銀行辞めました 阿佐ヶ谷の女王 @yukapyh0726

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