なみだ屋さん

恵瑠

第1話

 これはね、なみだ屋さんから聞いたヒミツの話なの。

 なみだ屋さんって普段は見えないじゃない?

 でもねこの間、あたしが空を見ながら煙草をふかしていたら、大きくため息をつくとんがり帽子の小人を見つけたの。

 あんまり深いため息だったから、つい声をかけたんだけど、それがなみだ屋さんだったわけ。

 なみだ屋さんは、人間が泣きたいときに、なみだを運ぶのが仕事なんだって、胸を張って言ってたわ。

 でも、なみだ屋さんってば、しょんぼりしてて。

 どうしたの?って聞いたら。

「最近の人間って、泣かないんだ」と言って、またため息をつくの。

 私にしてみたら、ふーん。だから? って感じなんだけど、なみだ屋さんにしてみるとすごく深刻なことみたい。

「みんなが我慢するからさ、なみだのタンクがいっぱいになって、ぼくらの仕事が終わらないんだよ」

 へぇ、なみだのタンクなんかあるんだ。で?

「ちょっと前までは なみだを買ってもらってたけど、今はどれだけでもいいからって、無料で配っているんだ。そうでもしないと無くならないからさ。でも、それでもダメなんだ。みんな、我慢して、我慢して、我慢してるみたい」

 そう言って、なみだ屋さんは、私をじいっと見つめてきた。

 ちなみに、なみだには。


 ずっずっずのなみだ

 ぽろぽろりんのなみだ

 うわーんのなみだ


 の3種類があるそうだ。


 へぇ、知らなかった! 私がそう言うと、なみだ屋さんが私に言ったの。

「ねぇ、君も、だよね? 我慢しないでさ 泣いてくれない?」

 そう言われたとたん、私の鼻の奥がつんとなった。

「一番すっきりするのはね、『うわーんのなみだ』だよ。だから君には、うわーんの涙をあげるね」

 なみだ屋さんはそう言って、私の目を小さすぎて見えない何かで チクリと刺した。

 すぐに私の目からなみだがこぼれ、それを見て、なみだ屋さんはにこりと笑ってそのまま消えてしまった。

 なんで? なんでこんなことするの? 泣きたくなんて、泣きたくなんてなかったのに!

 そう思う私の目からはとめどなくなみだが溢れ、私の口からは 「うわーーーーん」と声が洩れた。暗闇の中で、私は一人声を上げ、泣き続けた。


 どれくらい泣いていたんだろう? 

 気が付いたら、空が白くなり始めていた。私の頬はカピカピで、唇もカサカサになっていた。

 でも、抱えていた苦しいもの、つかえていた何かが無くなって、私の中が新しくなっていた。きれいな私になっていた。

 

 ねぇ、なみだ屋さん?

 私があれだけなみだを流したのだから、なみだのタンク、少しは減ったでしょ? そうだなぁ。どうしても! のときはまた来てくれてもいいよ?

 私がいっぱい泣いてあげる!

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なみだ屋さん 恵瑠 @eruneko0629

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