第4話 新人さんいらっしゃ~い?2

その後。

実は安心感で気絶していたティエラをフレイスがお姫様抱っこで喫茶店に運んだ。というより、気になることがあったので、その時に聞いてみた。


「ティナさんって」

「呼び捨てで構いませんよ、ミキ」

「・・・・わかりました。フレイスとフィーリアってティナと知り合い?」

「ん?あー、そういえば言ってなかったっけ。むかーしむかしにお世話になったんだよねミキとティエラと会ったときに情報交換してたのはティナだし」

「まさか過去の事件の詳細を教えて欲しいと電話してくるとは思いませんでしたよ」

「仕方ないでしょ?あの時は一分一秒を争ったんだし」

「でも、ありがとね。あれがなかったら二人とも助けられてなかったかも」

「それは良かったです」


そんな、打てば響くを体現した会話に、いつの間にかミキはジト目で三人を見るようになった。少しだけ頬を膨らませて。


「えーっと、ミキ?」

「なに?」

「そんな目で見ていると・・・・」

「ミキ、どうかされましたか?」

「ほらぁ・・・・・」


面倒なことになってしまった、と言わんばかりに顔を苦くするフレイス。フィーリアの方はというと苦笑いしていて、「頑張れ」と応援しているようだった。


「フレイス。そんなに嫌そうなのであれば、後で久しぶりに手合わせ願えますか?」

「いやいや、どうせ疑似ジャーム化してヤバイ技使ってくるんでしょ?」

「バレましたか」

「あれだと勝ち目無いからパース!」

「同じように疑似ジャーム化すれば良いじゃないですか」

「いやいや、あれ戻りたくなくなることがあるからむーりー!」

「え、えっとー、疑似ジャーム化?ってなに?それ、ヤバイ気がするんだけど」


ミキにとって知らない単語が出てきた。しかも理性を放棄したジャーム化とあっては、スゴく嫌な予感がした。


「あぁそういえば、まだ言ってませんでしたね。ジャーム化というのは知っての通り理性を永遠に放棄したオーヴァードのことです。この辺りはフレイスやフィーリアから聞いた通りだと思います」

「その辺りはかるーく説明したよね?」

「う、うん。確かにしてた」

「それで、疑似ジャーム化というのは、VRゲームの世界で理性を保ったままジャームのような化け物になる、というものですね。VRゲームの世界で自分自身がプレイアブルのゾンビになる、といった感じですね」

「で、でも、戻りたくなくなる、って」

「それはそうですよ。擬似的とはいえジャーム化しているのですから。殺戮や破壊、解放や飢餓、闘争など、暴走時の力をさらに強めた状態で理性を軽く壊すのですから。病み付きになりますよ」


それを聞いてミキは、「ここはヤバイところじゃないのか」という風に感じた。そんなティナの話は続く。


「といっても、ここに来る人達は大抵そのVRゲームの中で疑似ジャーム化することでストレス発散している、というのもありますよ。緊急時には、冷凍保存されている死刑となった重犯罪者に活性化したレネゲイドウィルスを与えて犯罪者をジャーム化させることにより、自身はジャーム化を免れ、その暴走しかけたレネゲイドウィルスによってジャーム化した犯罪者を死刑に処する事が可能ですよ」


本当にヤバイところに来てしまったようだ。だからといってここから離れる気は更々無いが。


「確かにそれは一石二鳥だね・・・・・。まぁ、死刑になるような人に人権なんて無いし」

「とりあえず、後でやってみませんか?きっと、病み付きになりますよ」


そんな話をしていると喫茶店に着いた。中は肌寒くない程度に軽く空調が効いており、さっきまでの状況と比べてもオアシスだった。

室内には白髪と赤髪と茶髪の少女が水色の髪の少女と向かい合うようにテーブル席に座っていた。入り口からは水色の髪の少女の顔しか見えなかったが、彼女達の雰囲気からして面接でもしているのだろうか?


「自由に座ってくださいね。フレイス。彼女はそこに寝かせてあげてください」

そう言って、その埋まっているテーブル席の奥のテーブル席にティエラが寝かされた。ティエラが心配でその奥のテーブル席に行こうとして、無意識の内に足が止まった。ティエラが起きたから・・・・・・ではない。その三人の少女と眼が合ったからだ。


「・・・・・・・・・・・えっ」

「え」


お互いに驚きすぎた顔になっているのだろう。一番驚いているのは茶髪の女の人だろう。何せ、


「せ、先生?」


桑楡そうゆ学園で死んだはずの恩師、時枝佳奈がそこにいたからだ。


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人は驚きすぎれば一周回って冷静になる、とはいうがどちらかというと冷静にはならない。むしろ混乱する。この様子を赤の他人に見られることで冷静に見えるのが真相だろう。今絶賛混乱中だからだ。


「ミキ、ちゃん?」

「もしかして、ソフィーとカリン・・・・・!?」


しかも先生の隣に居た二人は、どちらも同じく死んだと思っていたクラスメートだった。名前を口にした瞬間、押し倒されて抱きしめられた。


「ミキ!?ミキなの!?」

「ソ、ソフィー!?」

「ミキ。会いたかった」

「私も会いたかったよ!カリン!」

「ミキちゃんにも会えるなんて・・・・・」「しかも、さっき運ばれてたのってティエラだよね!?」

「だね。あの時あの場所にいたクラスメートと先生がこうやってまた会えるなんて、夢にも思わなかった」


その騒がしさでティエラも起き、皆で泣いて喜んだ。






「落ち着きましたか?」

「あ、ご、ごめんなさい。私がしっかり注意しないといけなかったのに」

「大丈夫ですよ。お客さんは居ませんし、皆さん再会できるなんて思ってもなかったのでしょう?」

「そ、それはそうだけど・・・・・」

「説明して欲しい」


カリンの言葉に、ティナとフレイスとフィーリアは椅子を持ってきて近くに座った。


「まず桑楡学園についてですが、実はあの学校はオーヴァードが全く居なかった場所なのです。だから、フレイスとフィーリアを派遣して何かあれば対処できるようにしたのですが、派遣した直後に桑楡学園でジャームが起こした事件が発生しました。普通であれば援護できたのですが学校を覆うように結界が張られてしまったため援護が出来なくなってしまいました。なのでフレイスとフィーリアに情報共有兼オペレーターとしてアシストに専念しました。ここまではミキやティエラも知っているかと思います」

「まぁ一応秘密保護の観点から名前は出してなかったけどねー」


その辺りは情報を集めるときとかにフレイスやフィーリアに聞いていたから分かっていた。


「そしてあの学園で、ティエラやミキは彼女達が死ぬ現場に立ち会ってしまって、後悔していたのでしょう?」

「それは・・・・・」

「あの時、エフェクトを使って簡単に助けられた、けど、エフェクトを使えば記憶処理されて私たちのことを忘れて生きていくって聞かされたし、見殺しにするのも嫌だった。それで一瞬迷ってしまったから、ジャームに逃げられたし、その時の余波で皆を・・・・・」


悔いていたことを吐き出すようにティエラが涙ながらに告白する。そうだ。喜んでいる場合じゃなかった。生きている事に喜んでしまったが、本当は謝らなければならなかった。一瞬の迷いで先生と二人を見殺しにしてしまった。助けられる命を助けなかった、その事を。姿勢を正して三人に向き合った。


「先生。ソフィー。カリン。あの時」

「ミキ。謝らなくてもだいじょぶ。あの時、死ぬ間際に泣き叫んで懺悔してた。あれだけで、私達のことどれだけ心配してくれてたかっていうのが分かったし。だから、懺悔や後悔の言葉はもう要らないし、死んで詫びるのもやめて」


懺悔や後悔の言葉はもう要らないって言われた時点で隠し持っていたナイフを自分の胸に突き立てようとしていたのだが、それもいらないと言われて、腕が力無く落ちてナイフが地面を転がった。


「大丈夫ですよ、ミキ。彼女達にも事情は説明していますし」

「で、でも・・・・・・!」

「それと、私の話はまだ途中ですよ?」

「ご、ごめんなさい・・・・・・」


話を遮ってしまった。しかも自分勝手な理由だけで。それだけで自分自身に嫌悪感を抱く。昔からそうだ。かなりの高確率で自己中心的だと言われてきた。その上私は


「あたっ」


痛みで思考が中断された。顔をあげてみると時枝先生が少しむすーっとしたような顔でこちらを見ていた。


「せ、先生?」

「それ、ミキちゃんの悪い癖ですよ?深く考えるのは良いことですが、嫌なことも深く考えるのは感心しませんよ。嫌なことは少しでも良い方向に持っていくようにしないと、負の連鎖が続いて無限ループが発生しますよ?」


そこを指摘されて、ハッと気が付いた。先生が死ぬ間際に言っていたことと同じことを言われた。これでは何の成長もしていない。なので自分の手のひらで自分の頬を叩いた。これ以上、過ちは繰り返させないために。


「ごめんなさい」

「大丈夫。ミキちゃんは結構、修正してくれる方だから」

「それで、お話を戻しても大丈夫でしょうか?」

「あ、ご、ごめんなさい」

「構いませんよ。ミキにとって重要なお話みたいでしたし」

「あの後、ミキ達が校長と殴りあっているときに箱庭が解除されたため、彼女、リンネを派遣しました。すると、異常なほどのレネゲイドクロリアン値の上昇が見られたためリンネを向かわせると、彼女達がオーヴァードに覚醒していました。まだ覚醒したてだったためレネゲイドコントロールが上手くできておらずジャームになりかかっていました。そのため彼女達を気絶させ、ここに連れてこさせました。あとはミキやティエラにしたのと同じく説明を行っていました。そして今その説明が終わったところですね。レネゲイドウィルスがカラダに馴染むまで時間がかかって、起きたのはつい先ほどなので」

「自己紹介が遅れました。私はリンネ・ベルリオーズといいます。気軽にリンネとお呼びください」


ソフィー達の向かいに座っていた少女が座りながら丁寧にお辞儀をした。つられてお辞儀を返す。しかし、人間のものとは思えない美貌であったためか、そのお辞儀でさえ芸術的に見えてしまい、見とれてしまった。立ち居住まいだけを取って見ても、現実に居る人とは思えないような仕草で。


「ミキ。大丈夫ですか?」

「あ、すみません・・・・・」


ティナに呼ばれてやっと正気を取り戻すほどには見蕩れていた。


「もしかして、私に見蕩れていたのでしょうか?」

「もしかしてもなにも、それ以外無いでしょうね。さっき佳奈に押し倒されていたでしょう?」

「先生・・・・・・・」


先生の方を見てみると、難しい顔になっていた。まぁ、先生自身の感性で可愛い子とは親密になる人ではあったのだが・・・・・


「し、仕方ないじゃないですか。リンネさんが可愛いのがいけないんですっ」

「私も見蕩れていたから何も言えない・・・・・」

「私は機械の身体ですよ?」


そう言いながらリンネさんは密着しているスーツを少しはだけさせて、肌を見せてくれた。その奥にある歯車や金属で出来た骨格も一緒に。


「わたしは両腕だけどリンネは全部?」

「そうですね。でも便利ですよ?覚えることは全部覚えられますし」


確かにCPUと比べたら、脳の容量なんてたかが知れている。長期記憶になれば無限とは言っても、長期記憶にするまでの反復期間などがある為CPUのように1度覚えさせれば永久保存させることは出来ない。その上忘却機能は無いから永遠に覚えていられる。欲しい、と思ってしまったのは私だけじゃないはず。


「それで、どうします?ソフィー、カリン、佳奈。ここに就職するか、厳重な監視下でガラス張りの日常を謳歌するか、それとも今ここで殺されるか。どれがいいでしょうか?」

「ミキとティエラはここに就職したんだよね?」

「就職したというか・・・・・・ここに左遷されたというか・・・・・」


三人の未来を決めるここ一番のターニングポイントでティエラに聞かれたからしどろもどろに言うティエラ。緊張するなという方が無理だ。


「私は決まってる。ソフィーと先生は?」

「わたしはもう既に決めていますよ」

「私だけ!?あぁもう!いいよ!カリン!決めちゃって!」

「ん、分かった。というわけでティナ。これからよろしく」

「未熟者ですが、よろしくお願いします」


ソフィーは決められなかったのか、未来をカリンの選択に委ねた。姉なのにそれでいいの?まぁ、一緒になれるのは嬉しいけど。


「ええ。よろしくお願いしますね。ソフィー、カリン、佳奈」


そう言いながら電子サインで三人の名前を書いて電子署名に承認した。ちなみにこの間、フレイスとフィーリアはというと


「くかー」

「すぴー」


完全に寝ていた。確かに蚊帳の外ではあったけれども。


────────────────────────────────────────


「フレイスとフィーリアはリンネに任せましたし、さっき言っていたゲーム機に行きましょう」


そう言って、ティナさんは先導してこの施設を案内しながら、さっきソフィーちゃんやカリンちゃんと一緒に聞いた、「ストレス発散にいいゲーム」をする事にした。もちろん、そのゲーム機がどこにあるか分からないため、案内してもらっている状況だった。


「これがその機械ですよ。今は誰も居ませんが、私も含めて全員でストレス発散することもありますよ」

「そうなんですね。それにしても大きいですね」

「葡萄?」

「言われてみれば、確かに葡萄ですね。その表現は初めてです」


形は一房の葡萄だった。ただし、実がある所には人が1人入れるカプセルになっていて、ティナさんいわくリクライニング機能付きの椅子が配置されていた。たまにゲームをせずに寝る人も居るそうで、それだけ椅子の座り心地が良いのかな?と思ったりもした。しかもこのゲーム機、一部屋に最低二機は付いており、個人に必ず一部屋宛てがわれるプライベートルームにも二機ずつ、談話室には十機備わっているらしい。その上ボイスチャットまで完備しているから、別々の部屋から同時に入ることだって可能だと、ティナさんが熱弁をふるっていた。


「では皆さん、一人一つずつその中に入ってください。入ったらドアを閉めて、椅子に座ってリラックスしてください。ソラリスのエフェクトもあるので、すぐに眠くなると思いますがそのまま寝てください。寝てからゲームが始まりますので、睡魔に身を任せてください」


説明の通りカプセルの中に入ってみると、アロマのような香りがした。その匂いだけで落ち着いた。鎮静剤が混じっているのかと思ってしまうぐらいで、椅子の方は勝手に一番リラックスできるようにリクライニングし、ダメソファのような感触だった。そのため、意識をゲーム機に飛ばすのに数分とかからなかった。






「ログイン成功、肉体のバイタル安定、レネゲイドウィルスによる侵食率既定値。皆さん、先程ぶりですね」

「ここは何処なのでしょうか?」

「ここはあれですよ。ゲームの設定を決める画面です。このゲームは肉体と精神を分離させて行なう、いわゆるVRゲームというやつなので」

「それが、あのカプセルなのですか?」

「ええ。身も心もリラックスさせることにより、肉体と精神を分離させる、それがカプセルのある意味ですね」

「それで、このゲームでは何ができるの?」

「何でもですよ?」


ソフィーちゃんの問いに対しての答えは何でも。つまり、どんなこともできるということ。そんなのを聞かされてしまえば、色んなことをしたくなるじゃないですかっ。


「RPGもホラーもシューティングも、なんでもござれですよ。なんなら、恋愛シミュレーションも出来ますし、ただ単に異世界に住むみたいなことも可能です」

「色々出来るんだ」

「まぁ一番の目玉としては、精神だけですがエフェクトが使い放題なのと、疑似的ではありますがジャーム化が可能です。欲望のままに動いて、ストレス発散にどうです?」

「ジャーム化!?え、それ拙くないの!?」

「ジャーム化させるわけでも、する訳でもないですよ。暴走した時の精神状態をさらに少しだけレネゲイドに、つまり本能に染めるのです。私も何度もやってますが、ジャームになってませんね。というより、一度やればハマりますよ」


かなり危険な言葉が聞こえたが、ゲームの中での事なので大丈夫らしい、ということが分かった。そうなってくると、やりたいことが色々ある。興奮が止まらない。もし肉体があったのなら、息が荒くなっていることだろう。現実の体を模した電子の身体で表情はどうなっているのかは分からないが、欲望を口にしていたり、顔がニヤついていたり、ヨダレを垂らしていない事を切に願う。そんなことをしていれば、先生失格だ。


「では、説明は終わりですので、皆さんがしたいように、ゲームを楽しんで下さいね」


自分の欲望を無けなしの理性で食い止めていたら、既に説明が終わっていた。聞きそびれたと思っていると、ティナさんがこっちに近付いてきた。そして囁いてきた。


「大丈夫ですよ。その衝動。解放して見てください。きっと、素晴らしいストレス発散になりますよ」

「そ、その、現実に戻ったらでいいのですが、マスクを下さい。き、機械で出来ている、口だけを覆うようなものが欲しいです」

「マスク、ですか?」

「に、任務の時に、一般人を怖がらせてはいけないと、思うので」

「分かりました。手配しておきますね。あぁそうそう。話も聞いていなかったみたいなので、最初はサポートしますね?」

「あ、ありがとうございます。で、では、大都会で、お願いします。服は─────で」

「分かりました。では、愉しい楽しい殺戮を、お楽しみください」


あはっ

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UGN特殊感染症対策部 イェーレミー @yehremy

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