第3話 新人さんいらっしゃ~い?
雪音とうぐいすが買い物から帰ってくる直前、ティナは今日からUGN特殊感染症対策部に所属することになる8人の内、4人を待つために玄関に居た。あとの4人はフェルとリンネが連れてくるとの事だったので2人に任せておきつつ、ティナは書類を見ながら待っている。だがしかし、彼女には不安の種があった。
「まさか、ディメンジョンゲートを使わないで来るとは予想外ですね・・・・」
そうなのである。ディメンジョンゲートを使ってワープしてくるのかと思いきや、まさかの「歩き」である。確かに周りを確認したり裏通りに美味しい店があるかどうかなどの確認は重要である。よく紅雪が美味しい店を探しては爆死したりしてはいる。いるのだが、周りとの立ち位置としては鼻つまみな感じの部署なため、立地条件は「交通の便は良いが辺鄙な田舎」であり、裏通りなど無い。
ここで、UGN特殊感染症対策部の建物を紹介しよう。簡単な例を出せば、辺鄙な田舎にある道の駅と言えば想像しやすいだろうか。周りは完全に草原であり、片側一車線の道の傍らにぽつんと立つ近未来的な5階建てのビルである。一応駐車場は完備しており、64台の普通自動車と16台の二輪車、そして地下には所属しているオーヴァードが個人で所有している自動車やバイクの置き場所がある。
「しかし・・・・・盲点でしたね。まさか、そうすることでループさせることができるとは・・・・。やはり、まだまだ奥が深いですね」
ちなみに、暇潰しに読んでいる書類とはゲームの無限レベルアップ方法である。あるゲームをフェルに勧められた結果、大抵のゲームにドはまりし、以来廃課金レベルでゲームに金を貢ぐようになった。もちろん廃課金とは言っても、生活が困窮したり部署のお金を使うほど非道ではないが。
閑話休題《時間飛ばすよー》
そんな風にゲームの攻略方法が書かれた書類とにらめっこすること一時間。とっくに雪音が運転するうぐいすを乗せたミニバンが駐車場の方から地下に行ったのも見えた。地下に入るときにフロントバンパーが擦れそうになっていたために何をどれだけ買ったのかまるで分からなかったが。
そうして待っているとかすかに足音が聞こえた。読んでいた書類をポケットディメンションの中に放り込み、目線をそっちに向けるとこちらに向かって4人の少女が歩いてきていた。
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ミキ・ティアーユはバリバリに緊張していた。というのも、親友であるティエラ・クロニエミと一緒にオーヴァードとして覚醒し、学校という一種の閉鎖空間で行われようとしていた「生徒全員ジャーム化計画」をその場にいた人たちと協力して何とか解決した・・・・・というのまではよかった。問題はその中で呉越同舟となったFHエージェントと協力したことだった。それが原因で協力者共々UGN上層部の一部の人達に「ダブルクロス」とまで揶揄されることになってしまい、左遷みたいな感じで今日からUGN特殊感染症対策部というところに所属することになった。のだが。
「ティエラ。道はこのまま真っ直ぐで合ってる?」
「確認したけど、このまま真っ直ぐで合ってるよ。っていうかミキ、確認するのこれで10回目だよ?いつもの自信満々なミキはどこに行ったの?」
「いや、こんなに真っ直ぐな一本道がずーーーーーーーーーーーーーーっと続いていたら不安になるよ?電車とバスを乗り継いで、まさかこんなに遠くまで来ることになるとは思ってなかったよ」
「まあまあ二人とも。あそこに見えてる建物まで行ってみよっか。この辺りに建物があるってことは休憩できるかもしれないし」
「フレイス、ごめんね?私だけ翼があって」
「もぐ?」
「その方がいい気がしてきた」
「でも問題の解決にはならないからパース」
他の二人は、あの事件で協力してくれた人達。名前はフレイス・イクシリスとフィーリア・フォル・フェシラール。どちらも長いからフレイスとフィーリアって呼んでいる。
「あれ?あそこに人居ない?」
「え?どこ?」
「ほら、あの建物の目の前」
「あ、ほんとだ。ただここからじゃまだよく見えないね」
フィーリアとティエラが何かを見つけたようだが、歩き疲れたから何処かで休みたい。その建物やその近くに椅子があってほしい。そこで休憩したい、そう考える私のすぐ横で何かが開く音がした。そちらを見ると、何処かの道が見えた。それと共に、ティエラとフィーリアの声がまた聞こえた。
「あれ、建物付近にディメンジョンゲート無い?」
「あ、ほんとだ。向こうに行ける近道っぽいけど、そんなの何処に・・・・」
「もしかして、これ?」
私が隣に出来ているディメンジョンゲートを指差すと、フレイスが目を輝かせた。少し先行していたティエラとフィーリアも戻ってきた。
「この道の感じは多分続きだよね。とりあえず腕を伸ばしてみるから向こうに腕が繋がったらこれで近道しよう」
言うが早いか、フレイスはディメンジョンゲートに手を突っ込んだ。すると、微かではあるが、向こうのディメンジョンゲートに腕が出た・・・・・気がした。
「流石に腕だけじゃ分かりにくいし、私が先行してみるよ」
行動派のフレイスは、口より先に身体をディメンジョンゲートに投げた。すると、向こうにフレイスが現れた。つまり、このディメンジョンゲートは近道ということが判明した。そのため全員でディメンジョンゲートをくぐった。
「やっと休憩できるー」
「まぁ、目的地は・・・・・・えっ?」
とりあえず休憩しようとしたミキに対して、ティエラは驚きの声をあげた。
「ティエラ?どしたの?」
「いや、その、目的地・・・・・」
「え?目的地がどしたの?」
「彼女はこう言いたいのでは無いのですか?ここが目的地だと」
「そうそう、休憩できると思ったら、ここ、目的地みた・・・・・え?」
「どうされましたか?」
点でしか見えていなかった人が目の前に現れ、しかもこちらの考えを読みきっていた。そのことに全身が一気に冷え、ティエラもだがバックステップで距離をとった。
「だ、誰ですか!?」
「・・・・むぅ。そんなに警戒されても、休憩はできませんよ?」
「あ、ティナだ。久しぶりー」
「お久しぶりです、フィーリア。フレイスも」
「前に会ったときに言った事の意趣返しかな?」
「もちろんですよ。10年ぶりぐらいでしょうか?」
「電話だったりメールだったりテレビ通話してたりするからそんなに久しぶりに会った感覚ないけどね」
と思ったらフィーリアやフレイスが和気藹々と話していた。どうやら知り合いのようだ。
「え、え?フィーリア、フレイス、知り合い?」
「うん、私達のお師匠さん、なのかな?」
「確かに、レネゲイドコントロールや戦い方は教えましたが・・・・・」
しかも話を聞いていると、どうやら悪い人ではなさそうで、しかもレネゲイドウィルスの事を知っているということはこちら側の人間みたいだ。とりあえず最低限の警戒はしつつも、戦闘態勢は解除し近づいた。
「それで?ティナ、ティナはどうしてここにいるの?」
「案内のためですよ?四人が来るのを待っていました」
「え、待って」
ティエラは唐突に目的地をナビゲートしていたタブレットを手に取った。ノイマンの高速思考で何か閃くものがあったようだ。覗きこんで見ると、自分達が配属されることになったUGN特殊感染症対策部という部署の情報一覧だった。ティエラは私と違って準備に時間をかけるタイプだったために何か情報を整理していたのかもしれない。そう思って見ていたのだが、勢いよく顔を上げるとこう言った。
「えっと、お名前を伺っても・・・・・?」
「そういえば名乗ってませんでしたね。ティナ・ソフィーティアです。これからよろしくお願いしますね?」
彼女、ティナに言われてハッと気が付いた。目的地はUGN特殊感染症対策部と入れていたはずなのに案内された場所はここ、そしてその一番偉い人の名前は目の前の人と同じティナ・ソフィーティア。これらが意味することはつまり・・・・・・
「「ほんっとうに!大変ご無礼な態度を取ってしまい!まことに!申し訳ありません!!」」
土下座である。むしろ五体倒置の方が良かったかもしれない。確かに緊張はしていたが、そんな面接もしていない初期の段階で最悪な印象を持たせてしまった。その上、警戒もしてしまった。もう死にたい。リザレクトせずに死にたい。
「顔をあげてください。まずは歩き疲れているようですし、休憩しましょう?」
「さんせーい」
「やっと休憩できるー」
つまりこれは余命宣告。休憩したあとで、
「はぁ・・・・・・・、仕方ないですね」
そんな私とティエラの様子を見たティナは、ため息をつくとなんと私達に近付いてきた。つまりこれから公開処刑が行われるのだろう。そう思っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「怯えなくても大丈夫ですよ。むしろ覚醒したてであの反応速度は目を見張るものがありました。それに、私はこの程度では怒りませんよ」
頭を優しく撫でられた。それも、触れられているとほんのり感じられるような。困惑してしまって思わず顔を上げてみるとそこには慈愛の表情を浮かべたティナが微笑んでいた。
「二人とも、安心してください。今日からここが職場になるのですし、緊張しなくてもいいですよ。皆フレンドリーですしね」
「い、いやその、私は今、あなたにその・・・・・」
「失礼なことを働いてしまったので・・・・・」
しどろもどろになるティエラのあとを引き継ぎ、精一杯に弁解しようとする。が。
「初めは誰もが失敗を犯すものです。しかしそれを乗り越えるハードルとして、その失敗を生かせば良いのですよ。あぁ、私のことはティナで構いませんよ。自宅のような感覚で寛いで欲しいですね。さて、ミキ、ティエラ。歩き疲れたでしょうし、まずはゆったり休憩しませんか?」
その言葉を聞いて、緊張感が身体から抜けた。ティエラもなのだろう、お互いに寄り合うようにしてもたれかかっていた。
「フレイス、フィーリア。二人を背負ってあげてください。緊張で押し潰されそうになっていたのですし」
「はーい」
「ミキ、立てる?」
「な、なんとか」
だが、立ってみると小鹿のように足をプルプル震えさせるだけで歩きそうになかった。すると、フィーリアは肩を貸してくれた。
「ほら、捕まって」
「あ、ありがと」
チラリとティエラの方を見てみると、安心したのか緊張の糸が切れて気絶していた。フレイスは彼女をお姫様抱っこして、目前に見えていた喫茶店に皆で入った。
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