第2話 普段の日常(雪音の場合)
「何にしようかにゃー。春先だけど明日は冷えるらしいから鍋料理でもいいし、お金は考えなくていいって言ってたから焼肉っていうのもいいなぁ。あー、お金の事を考えなくていいって言われるだけで、なんて幸せなんだろなぁ」
私はいつもの相棒と一緒に、人で賑わう商店街へと繰り出していた。ティナから「持っていきなさい」と言われたブラックカードをいつものベルトバッグに入れて、数分前に自分で言ったことを少しだけ後悔しつつも、お昼ご飯をどんな感じにするかで迷いながら物色していた。
「そうね。それにしても雪音。貴女、前よりも食い意地はってない?」
「失敬な。向こうで私いっつも言ってたでしょ?ここから出られたら、世界中の色んなものを食べまわるって」
確かに貫入のある皿に料理を盛り付けて、高級なお酒と共に肴にして食べることをたまにしているけれど、それも週5回ぐらい。毎日していないから別に良いでしょ?
「まさかティナさんのディメンジョンゲートを使って世界中を旅するとは思ってなかった。ティナさんはタクシーか何か?」
「・・・・・・否定はしないかな」
元々私達は犯罪組織に所属していて、生まれた時から人を殺す技術を「学校」と呼ばれる施設で教えられて育ってきた。仲良くしていた友人をこの手で殺したこともあった。そしてその「学校」を出た私は、組織の暗殺部門に配属されて色々な人を殺してきた。どこかの国のお偉いさんであったり、同じ部隊の人であったり、上司であったり。だけど、あの日。忘れもしないあの日。私と他数名を除いて、組織はたった二人によって滅ぼされた。
今日も雨だ。今でもその時の事を思い出す。
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「敵襲!敵襲!敵の数は不明!見張りが塔ごと消し飛ばされた!」
あの日も大雨だった。そして、突然何者かが襲撃してきた。見張り塔が消し飛ばされた、という情報には度肝を抜かされたが何とか落ち着き、数少ない仲間たちと画策してきた脱走計画を実行に移した。このために何度も策略を練り、やっとこのクソッタレな箱庭から逃げられる。そう誰もが思っていた。
「動くな!動いたら殺す!」
監視カメラを壊したり無力化させ、強そうなヤツは偽の情報を流して誘導し、殺さないと突破出来なかったところはあいつらに教えてもらった技術で殺した。そんな風にして次々と仲間たちと難所を突破していった。罠と思えるほど順調に。
そして最終関門である正面玄関を突破しようとしたとき、組織の長が進行方向から現れた。私達が反乱を起こすことが分かっていたかのように、長の直属の部下が出口を塞ぐようにして出てきて全員が私達に対して銃を構えた。しかも、アンチワーディングファクターとかいう、一般人でもワーディングの影響がなくなる装備を付けていた。おまけに、目立つように周りのサーチライトが全部私たちに向けられた。計画が奴らにばれていたことを示唆していた。
「これから何処へ行くと言うのかね?」
「私達はあんた達の道具なんかじゃない!」
「そうよ!私達の自由を奪わないで!」
「安っぽい台詞だな。道具は道具らしく、反逆するなら壊れてしまえ!」
そう言われて、サーチライトの脇に搭載されているミニガンやチェーンガンが私達の周囲に向かって撃ってきた。当たらない弾だったため最後通牒のつもりで撃ってきたと思っていたが、何やら無線で飛ばしている声がおかしい。
「おい、どうした!奴らが見えてないのか!?」
『目標に命中しています!』
「ならどうして奴らは死んでない!?」
『分かりません!こちらからは目標に命中しているようにしか見えません!!』
「クソッタレが・・・・・どうなっていやがる!?」
どうやら射手からすれば命中しているらしいが、こっちから見ると的外れな場所に撃っていたようだ。考えられるものとしてはブラックドッグと呼ばれる雷を操る人たちによって電子機器を壊されているのか。だが命中しているように見えていることにはならない。モノを操れるオルクスなら、と考えたが操るなら目の前の長を操ったほうが効率は良い上に、銃を操れば良いだけなのでこの選択肢もない。幻覚を見せることができるソラリス辺りであれば矛盾はないだろう、そう考えてながらどうすれば突破できるのだろうかと思案していた時だった。
『貴様は何者ぐぼぁ!?』
「なんだ!何が起きている!?」
『こちらにも襲撃者です!どこから・・・・!?』
「何!?今度は何が起きてるの!?」
「貴様らの仕業か!」
「違うわよ!私達にとっても襲撃は予想外よ!」
HQが襲撃を受けた時点で私たちと関連付けを行ってきた。ただ私たちにとってこの襲撃は関係なかった。襲撃があってもなくても今日この日に脱出を試みる予定だったからだ。襲撃があったのは好都合と考えていただけだが。そして気付いた。私達を覆うように存在している半球状の透明なドームに。それによって銃弾が全て受け止められていた。しかも、銃弾は全てひしゃげていた。こんなことができるシンドロームは・・・・・!
「さて、こういう時は、『悪い子は居ないか?』って叫ぶものですよね?」
「いやティナ。それは秋田の郷土名物のなまはげだから。あと、ティナがしっかりしていないと、私の評価も下がるんだからね?」
「それは報告の時にしっかりするので大丈夫ですよ」
「そういう問題じゃなくて・・・・」
なにやら変な二人組がやってきた。これが私とうぐいすにとっての、この後上司になる人物との邂逅だった。
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「いや、やっぱりおかしい」
「どうしたの?」
「あの時、どうしてなまはげになろうとしたのかが分からないなぁ」
難しい顔になって思案してみるも、やっぱり分からない。あの時どうしてなはまげになろうとしたのか。
「ティナさんのことだし、多分驚かそうとした・・・・にしては真面目だったよね。安心させるためにあの言葉をかけようとした・・・・のならそもそも感性が・・・・」
「ま、まぁ、その辺りは人の感性だし。それに、一応は命の恩人だから」
「そうなんだよねぇ。あぁ、うぐいすは何食べたいとかある?」
「唐突・・・・。昼から屋上を使って焼肉?でも夜の方が良さそうだし・・・・」
「じゃあ昼は軽め、夜はたらふくって感じでいいかな?」
「うん、それでいいと思う」
「そうと決まれば!おっちゃん!この肉とあの肉とその肉ちょーだい!」
精肉店のおじさんに値切り交渉を仕掛けよう。なるべく安く食材を手に入れられれば、その浮いたお金でさらに食材が手に入るのだから。
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