UGN特殊感染症対策部 日常編

第1話 普段の日常(ティナの場合)

ティナの朝は早い。と言っても出勤するのに自転車や自動車は必要ない。ピンク色のドアのように、行きたい場所には徒歩10歩以内で行けるからだ。そんなわけで寝ぐせを梳いておやつといつもの無人ドローン《シェンフィールド》をポケットディメンジョンに収納し、ディメンションゲートで仕事場へ向かうのである。


「およ?今日は早いね~。早起きでもしたのかい?」

「いえ、いつも通りですよ。それより貴女がここにいる方が意外ですが」


いつもは骨董品巡りに精を出している部下兼同僚が珍しく先着していたのには思わず目を疑った。だが、それだけだ。自分のデスクに向かい、コーヒー片手にPCを立ち上げながら椅子に座る。いつものルーティンだ。


「ティナ、コーヒーに塩入れて飲むのが今のブームなのかな?」

「・・・・・・・・・・えっ?」


コーヒーに砂糖を入れているつもりが食塩を入れていた。しかも食卓に並んでいるはずの赤いフタのアレ。驚きを通り越して完全に動揺していたようだ。これはマズイ。何がマズイかって、そこの白髪は煽るのが大好きだからだ。


「それでー?ティナは塩入りコーヒーがブームなんだねぇ。変とは言えないけれど変わってるねぇ」

「飲みますか?」

「へ?いやいや、私はちょーっと遠慮したいかなぁ」

「そうですか・・・・・。では仕方ないですね。雪音が好きなワインだったのですが」

「お酒!?いや、それよりも!コーヒーメーカーからなんでワインが出てきてるの!?」

「コーヒーメーカーからはコーヒーが出ますよ?ワインなんか出ませんよ?」

「じゃあどこでワインに・・・・・・あっ」

「それはもちろん、コップの中でワインにしたからですよ?」


こういうときには煽られる前に煽った方が勝つ。彼女は自分から煽るのは好きだが煽られると弱いという、何だか訳のわからない弱点を持っている。

そんな彼女の名前は紅葉雪音くれはゆきね。自称殺戮系美少女。元々ある組織の暗殺者だったのだが、その組織を壊滅させてヘッドハンティングしたら、今までやりたいと思っていた旅行に精を出すようになり、天目茶碗などを肴にお酒や美味しい料理を食べるのが好きなぐーたら殺戮系美少女である。


「そういえば、今日はまだ珍しく菜緒ちゃん来てないね~。ゼーレちゃんもだけども」

「そうですね。二人とも、特に菜緒の方はルールとか守る方ですが、まぁ誰かさんみたいに毎日遅刻してこないですし、多目に見ましょう」

「ダレノコトカナー?」


ひとつため息をつきつつ、パソコンからメールアプリを開いて見るが関係なさそうな迷惑メールだけが受信フォルダにあるだけだった。内心頭を抱えつつ迷惑メール拒否に登録しつつ削除、アプリを閉じて机に突っ伏した。いつもの朝の感じである。


「すみません。遅れました」

「ごめんなさい!」


そしてちょうど二人が入ってきた。噂をすれば何とやらである。どちらもちみっこいが。


「それで、どうして遅れたのですか?」

「それは、その‥‥‥」

「菜緒は悪くないです!私が忘れてたから‥‥‥」

「菜緒、何があったのか教えてくれますか?」

「新作ゲームの予約日が今日のお昼までという事を忘れてて‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥」


遅れてきたのは何故なのかを聞いてみると、これまた外見相応の反応が返ってきた。それを聞いて思わず噴き出してしまった。

「ぷっ」

「ティナさん?どうかしましたか?」

「いえ、可愛らしいと思っただけですよ。もしかしてですが、クエの冒険ですか?」

「は、はい」

「今度、協力プレイでもどうですか?」

「へ?」

「えっ?」

「はい?」


三者三様の反応を呆けた顔で見ることができたため、さらに腹筋にダイレクトアタックされて思わずお腹を抱えて笑ってしまった。

クエの冒険はインディーズゲームから有名になったARPGである。そして彼女もそうだとは思うが私はインディーズの頃からやっている。クエの冒険の最新作が出た時点で予約するぐらいには私もマニアである。この辺りは「あの時の自分」がまだ残っているのだろう。


「私も予約していたのですよ。予約開始日当日に、ですが。つまるところ、私と菜緒は同志ということですね。なので、ゼーレも含めて遅刻したことは不問に処します」

「・・・・・・・・ありがとうございます」

「ティナさん、ありがとうです!」

「じゃあ今日の昼は私が腕をふるってあげようかな」


そう言ってやる気になる雪音は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。


「では雪音に命令です。貴女の腕で出来る限り豪華なご飯を作ってくること。お金のことはこちらで何とかするので考えなくて大丈夫です。ついでに寝ているであろううぐいすも連れてきてください」

「あいあいさー!」


そう返事しつつドアを蹴破りそうな勢いでこの部屋から出ていく彼女を見て、ここに所属させて良かったと思った。あんなにいい笑顔で行動する雪音は、前の組織に居たときよりイキイキしているからだ。


「では、豪華なお昼ご飯が食べられるように、彼女の分まで仕事を終わらせておきましょうか」

「了解しました!」

「分かりました!」


大体、こんなのが日常だ。朝起きて出勤して仲良く仕事をして、定時になったら用事の無い人で遊びにいく。そんなホワイトな職場だ。緊急時はそう言っていられないけれど、依頼が来ていない限りは偽りの平和の中でまったり過ごす。それが、私の日常だ。


「そういえば、他の皆さんは任務中です?」

「フェルとリンネは今はアメリカだそうですよ。カシウスとエフィーは地下の訓練場でコンビネーション技を作ると意気込んでいましたね。天音とハルとチィとティファレトは多分ゲーム室ですね。レトロゲーで対戦しているのでしょう」

「新人研修と言いつつ、新人をサンドバッグにするあれなのかな」

「大丈夫ですよ。天音は結構打ち解ければあとはとんとん拍子で進みますからね」

「それなら大丈夫そうですね!」


なお、数時間後にゲーム室から出てきた彼女達は、ゲームをしながら話に花を咲かせていたというのは、また別のお話。

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