第11話

新宿にある東城のオフィスには深夜にもかかわらず東城と秘書が残っていた。


「社長、今日はもう遅いですから一度帰られてはいかがでしょうか?」


「あ?ああ、もうこんな時間か。すまないな。

お前は帰ってもいいぞ。俺はもう少し頭を整理してからにするよ。」


秘書から掛けられた言葉に我に返った東城が答えた。夕刻にもたらされた部下からの連絡は東城に衝撃をもたらせた。

蓮が連れ込まれた場所を部下の男が東城に命令された通りに黙って気配を隠して見ていたところ、生田と共に銀龍会会長も現れ工場の建物の中へと消えていったのだが、それから暫くして争うような音と共に銃声も聞こえてきたのだ。焦った男は建物に近づいたのだったが東城からの命令を思い出し元の場所へ戻り息を詰めたまま成り行きを見ていた。

すると暫く続いていた音がしなくなったかと思った時、中から蓮だけが出てきたのだ。蓮は自分が乗せてこられた車に乗り込むと岸壁へと進路を取り近くまで来ると運転席から飛び降りてそのまま海へと車を落としたのだった。

そして一人で立ち去って行った。

男は中の様子も気になったのだが蓮が立ち去った方向へと足を向けた。見つからないように距離を取り後を追っていたところで蓮の側に一台の車が止まりそのまま蓮を乗せて走り去って行った。

男は踵を返して工場まで戻ると中へと入り惨状を目の当たりにしたのだった。

男は暫く衝撃の大きさに動くことも出来ないでいたのだが、我に返ると東城へと連絡したのだった。


東城は暫く考え事をしていたのだがすぐに秘書へと連絡を取った。


「俺だ。すまないがもう一度戻ってくれないか?」


「はい。今伺います。」


東城が電話を切った直後部屋に秘書が現れた。


「まだ帰っていなかったのか?」


「はいまだやることが残っていましたので。」


秘書はそう言ったが、実際は東城が帰るまでは一緒に残っているつもりだった。そして東城へと要件を聞く。


「悪いが今すぐに林田に連絡を入れてくれないか?

銀龍会のシマに出張って今から銀龍会のモンを全て新宿から叩きだしてしまってくれ!」


「会長、そんな事をしたらあの工場が見つかった場合警察がこっちに来る可能性が高くなりますよ。やばいじゃないですか。」


秘書の言葉はもっともだったが東城は首を横に振った。


「例えこっちに疑いが向いたとしても証拠は一切無いだろう。アリバイもしっかりしてるわけだし、それにこれで流星会は他の組から一目を置かれる存在となるさ。」


そう言うと口元に笑みを浮かべて妖しく笑った。


それを聞いて納得した秘書は早速林田への連絡を取るために部屋を辞して行った。



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銀の悪魔 第2部 @tamakichi3

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