第10話地獄の入口
蓮が廃工場に連れて来られてから暫く経った頃、
東城はアランが話した事を考えていた。
アランの話した内容は俄かには信じ難い事だった。
蓮を初めて見た時の動きが眼から離れず気になって彼を調べるように命令したのだが、思いがけず彼の側にいた人物が元傭兵上がりだとわかりそのせいで彼もまたあのような動きができたのだと。だが、彼の保護者であるアランはそれが事実ではないと話した。
東城は机の抽斗から蓮に関する資料を取り出し、改めてそれを見つめた。
「シリアで10年間か…」一人呟く。
現在シリアは内戦状態であり、それとは別に宗教的にも複雑な状態なのだ。過激派と保守派が対立していてシリア各地で市民が巻き込まれている状態なのだ。
そんな状況下で幼い子が生き延びた事を考えていた。
そんな時東城の携帯に蓮を見張らさせていた部下から連絡があった。
「それで場所は特定出来たのか?」
「はい。羽田近くの廃工場に監禁されているみたいですがどうしますか?」
「お前は手出しせずにそのまま見つからないように待機していろ。何かあったら直ぐに連絡しろ。でも、決して関わるな!」
東城は男にそう命令してから秘書を呼び車の準備をさせた。
***
廃工場では蓮を監禁している男達の所に新たに男3人が現れた。
銀龍会の会長と生田が手下の一人だろう男がやってきたのだった。
蓮を誘拐した男達は3人に気付くと一斉に立ち上がり頭を下げた。
「お疲れ様です。これが例の高校生です。」
界が説明した。
生田が会長へ説明すると、会長は蓮を眺めてから生田へと殺害の指示を出した。
生田は堺へ蓮を殺すように顎を蓮へと向け指示を出した。
「兄いちゃん悪いが死んでもらうぜ。俺を恨まないでくれよ。元はと言えばお前が余計な事さえしなかったらこんな事にはなってないんだからな。」
界がそう言いながら懐から拳銃を取り出し蓮のこめかみに銃口を突きつけた。
その瞬間後ろ手に縛ってあったはずの蓮の手が拳銃を掴み取ってそのまま銀龍会会長へと向けそのまま撃った。銃口から飛び出した弾は会長の眉間の中心に孔をあけ会長は後ろへと倒れ込んだ。
一瞬の事に何が起こったのか理解できないでいた男達は会長が倒れた姿を見て唖然とする。
「俺を殺すって?それは無理だと思うけど。」
蓮の言葉に我に返った男達は
「テメェ何しやがった!」
生田の声に側にいた者たちも一斉に拳銃を取り出した所で、蓮によって容赦なく手元を撃たれて皆一様に拳銃を手から落とした。そして一人ずつ頭を撃ち抜いて行った。
生田と界は身を守る為に機械の陰に隠れて此方の方を伺っている。
「お、お前一体何者だ?東城の回し者か?」
機械の陰から生田が問う。
「は?東城さん?関係ないよ。俺はあんたらが許せないだけさ。だからわざわざ俺があんたらの顔を見たって噂を流してここまで連れてきてもらったのさ。」
蓮は拳銃を捨ててそう答えた。そして界が隠れている機械の方へ足を向けるとゆっくりと近づく。
その間に生田は他の者が落とした拳銃を拾い上げると蓮に向かって狙いを定めた。
「お前が何者でも関係ねぇ!お前のお陰で俺が銀龍会のトップだ!ありがとよ。」
そう言うと蓮に向けて撃った。だが生田の撃った弾は蓮にはあたらず全て界の身体に孔をあけた。
生田が撃った瞬間蓮は界を盾にしたのだ。
界を盾にしたまま生田へと近づきその身体を生田へと押しやった。もはや自分では立っていられない界はそのまま生田へまるで物のように倒れこんだ。
界の身体の重さでバランスを崩した生田は持っていた拳銃を落とし同じく倒れ込んだのだが、ゆっくりと近づく蓮を見ながら身体を起こすと近くにあった金属の棒を掴み蓮に殴りかかってきた。
蓮は身体を少しだけ後退させ躱すと今度は蓮の方から生田へと蹴りを繰り出した。蓮の蹴りを棒で防いだ生田はニヤリと笑い棒を蓮に向けて振り下ろした。だがやはりそれはあたることなく躱されコンクリートの上に叩きつけられた。
「やるじゃねぇか!はっ、殺してやる!」
持っていた棒を構え直して蓮に凄んで来るが蓮は生田に向かって言い放った。
「お前が銀龍会のトップだと?それはあり得ないな!何故ならお前はここで終わるからな。」
蓮は落ちていた拳銃を拾うと、機械の陰から僅かに出ていた脚を撃ち抜いた。
「うあぁ!」
どさりと生田が倒れる音がした。生田は撃たれた脚を両手で抑えながらもがいている。
蓮はゆっくりと生田に近づき容赦なくもう一方の脚にも弾を撃ち込んだ。
「うあぁ…やめてくれ」
両脚を撃たれた生田は戦意を失い蓮に懇願してくる。だが蓮はそれを一切無視して今度は脚を押さえている腕に孔をあけた。
「やめてくれ。俺が悪かった。頼むからやめてくれやめてください。」
最早先程の威勢は完全に失われ恐怖がある生田を支配していた。
生田の命乞いは続くがそれを全く無視して今度は肩を撃ち抜いた。
「お前たちはやり過ぎなんだよ!新宿を守るならいいが、壊すのは許せない。地獄へ堕ちろ!」
生田が命乞いをするのを完全に無視して蓮は銃口を口に入れ引いた。
どさり。
静まり返った工場の中後始末をして蓮はその場所を後にした。
工場を出てしばらくすると蓮の歩く側に一台の車が止まり助手席側の窓が下りてアランが顔を出した。
「お疲れ様。さあ、乗ってください。」
滑り込むように乗り込んだ蓮にアランが声を掛けた
「怪我は?」
「大丈夫なんともない。終わったよ。」
そう言う蓮の顔には少しだけ返り血がついていたのでアランが運転しながら後ろの席を勧めた。
「後ろに着替えとタオルがあるので着替えてください。」
蓮は直ぐに後部座席へと移動して着替えると又助手席へと戻った。
「アラン、サンキューな!いつも助かるよ。」
返り血を浴びた服を着替えてそう言うとアランから思っても見ない言葉が飛び出した。
「今回は久し振りに全滅させたんですね。」
「そうだな。今回は見過ごせなかったからな。」
日本に帰ってからは人殺しは一切していなかった蓮が今回は一人残らず始末したのだ。その事を思って敢えてアランは口にしたのだ。
蓮はそんなアランの心配をよそに話題を変えた。
「アラン。あのさ俺、アメリカ行くよ。」
「卒業旅行ですか?」
「いや、卒業したらあっちの大学に行こうと思ってるんだ。」
その一言にアランが動揺する。
「受かった大学は?え?どうしたんですか?」
「ほら、俺一回大学行ってるじゃん。その時の教授がアメリカの大学に客員教授として去年から行ってるんだけどさ、この間メールが来て俺にも来ないかって誘われたんだ。勿論学生としてだけど。
暫く考えてたんだけど博士号取得しようと思って。
こっちで言う大学院だな。」
蓮がそこまで話したところで
「わかりました。早速準備します。家に帰ったら大学名とか教えてください。」
さっきの動揺が嘘みたいにアランが言ったのだった。
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