第9話罠
銀龍会本部
「おい界!お前の噂が流れてるらしいぞ。ガキに顔を見られたらしいな。」
生田が界に問い詰めた。
「兄貴、あの時は仕方無いじゃ有りませんか。
車を出した所に飛び出して来やがったんです。でも、オレの顔を見たって言ってもそれだけじゃね。」
界は言い訳をしていたが生田は界めがけて平手で頬を叩いた。
「お前分かってるのか?お前の面がバレたら流星会が黙っちゃいないだろう。それに組長にどう言うつもりだ?言い訳してただで済むと思ってるのか?」
生田は界の頬を軽く叩きながら話した。
元々流星会の東城を殺るつもりだったのだが、乗っていた車は防弾ガラスに守られていて結局は東城を殺る事が出来なく運転していた男だけが死んだ。
この報告で銀龍会の会長は怒り狂っていた。
そして後始末のため流星会の中にいる銀龍会の人間に罪を被らせその場を凌いだのだった。
このまま、この噂が広まれば折角お膳立てした流星会の内部抗争に見せかけて後始末をしようとしたのが無駄になってしまうかもしれないのだ。
生田は内心焦っていた。
警察の耳に入れば必ずここまでやってくる。それはなんとしても阻止したかった。
生田は界に顔を見られた高校生を捕えるように指示を出した。
「間違ってもヘマするんじゃねえぞ!羽田の倉庫に連れて行け、後から俺も行くから!」
その指示を受けて界は舎弟達を連れて飛び出して行った。
大学受験も終わりそれぞれが進路を決めてしまった後、高校生達は殆どが春休みに入っていた。
この日は蓮も友人達の来たる大学生活へ向けての準備に付き合って買い物に出かけた。
殆どの友人は都内の大学への進学が決まり自宅から通うことになるので新生活へ向けての準備と言っても新しい鞄を見たり洋服を見たりと大した買い物では無いのだが、それなりに新しい生活は夢と希望に溢れているのだ。
「朔田これどお?」
同じクラスの一ノ瀬がキャップを被って見せた。
「いいんじゃないか?」
帽子が置いてある棚の横についた鏡を見ながら話す。蓮も黒いキャップを試す様に鏡を覗き込んだ。
店内を背に設置してある鏡にはちょうど外の通りも映っていた為蓮はキャップを試すフリをして外も様子を窺うと、近頃蓮につきまとっている男の姿が確認できた。
(東城はまだ此方の要求をのんでいないな!)
蓮はそう思いながら試したキャップを棚に戻すと会計を済ませた一ノ瀬がやってきた。
一緒に店を出た所で一ノ瀬には用事があると断って別れた。
一ノ瀬と別れた後は新宿駅まで戻り西口大ガードを抜けて線路脇の道へと歩いていく。
その道はちょうど永井凛子が連れ去られた場所の近くだ。わざと周りに人がいなく道幅の狭い場所を選んで歩いていると背後から猛スピードで近づいて来る車があった。襲撃事件の時に見たSUVだった。蓮はわざと気付かぬふりをして歩いていると、車は蓮の横で停まり数人の男によって車の中へと押し込められた。
全く抵抗しないのもなんなので少しだけ抵抗すると、
「大人しくしろ!殺すぞ!」
男の一人が脅しをかけた。
そのまま大人しくすると今度は目隠しと猿轡をされ、車は急発進すると何処かへと向かった。
暫くすると車が停まり蓮は車から引き摺り降ろされ
何処かの建物らしき中に入った。
目隠しをされたままなので何処へ連れ込まれたのかは分からなかったが、周りの音や匂いなどからそこが羽田近くの埠頭にある今は使われていない工場跡である事は予測出来た。
建物の中に入ると男達に椅子のような物に座らされた。
「お前も不運な奴だ。正義感なんかあるからこんな目にあうのさ。」
蓮を椅子に座らせた男は、目隠しと猿轡をはずした。
「言っとくけど、叫んでも誰も助けには来ないぞ!ここは誰一人近づかないからな」
目隠しを外されたので周りを見るとそこはかなりの広さがある、かつては何かを作っていたであろう工場の廃屋だった。自分が座らされているのは商談にでも使っていたと思われるスペースでそばにはソファーやテーブルなどが有り蓮を連れて来た男達はソファーや椅子に座っていた。そしてそこから見えるものは大小の機械類があるがもう既に使われなくなって長いのか錆びがひどくかなり腐蝕しているものばかりだった。
男が蓮に言ったこともあながち間違ってはいないのだろうと思わせるのには十分だった。
ここならどれだけ叫べとも大きな音がしようとも気にしなくても良いのだ。
手を縛られたままではあるが蓮の口元に笑みがこぼれた。
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