第8話誤解と警告

新宿

都庁より程近い高層ビルの一つに東城の経営する会社がある。

アランは1階にある受付に行き東城へのアポイントがある旨を告げた。

受付の女性はアランを見ると少し頬を染めてから

電話をとり上階へとアランの来訪を告げた。

「ただ今参りますので少々お待ちください。」

そう告げると、わざわざ側にあるソファーへと案内をしてくれた。

「ありがとう。」

微笑むアランにドギマギした様子で受付の中に戻っていく。

程なくエレベーターから東城の秘書が降りて来て

アランを応接室へと案内した。


「いや〜!サフィールさん、ようこそお越し下さいました。


応接室に通され程なくして東城が現れた。


東城が柔らかな物腰と笑顔でアランを迎えてくれたが、眼だけは笑ってはいなかった。


「今日はどうされたんですか?」

「先日は蓮のお見舞いに来て頂き有難うございました。これはお返しです。」


そう言いながら持ってきた紙袋を東城に渡した。

東城はアランの向かいに座りそしてアランにも着席を促した。

はじめ東城はアランに蓮との関係やどうして一緒に居るのかなど遠回しに聞いてきたがアランはそれには答えず、先日の一件について話した。

それから暫くは雑談していたのだが、アランがおもむろに東城に問いただした。


「いや、最近周りを飛ぶ蠅の様な輩がいるんですが

ご存知無いですよね?あまりにも煩わしいのでどうしようかと考えているんですよ。」


「それは大変ですね。なんでしたら、私どもの方でどうにかしましょうか?」


「いえ、それは結構です。此方にも此方のやり方があるもので。」


東城は素知らぬ顔で提案してきたが、アランは有無を言わせず言外に断りそのまま、それではと席を立とうとした。

その時、東城の携帯に一本の着信があり、アランに断るとそのまま電話に出た。

電話を切るとアランの方を見ながら今の電話について話した。


「私の部下からなのですが、たまたま坊やを見かけた所、誰かに車で連れ去られたとの連絡でした。」


「そうですか、たまたま見かけたと?」


焦るであろうと思ったのにも関わらず、全く動じないアランを見て東城は訝しんだ。


「坊やが連れ去られたと聞いても動じないとは、坊やなら大丈夫だと?自分で育てたから間違いないと?相手は銀龍会だぞ?高校生の一人くらいの命なんてあいつらは気にしないぞ!」


「くくっ。」


アランは東城のその物言いに笑った。そして、アランの態度に東城は驚きそして憤慨した。


「東城さん、あなたは最初から誤解している。

彼ならば大丈夫ですよ。それにこうなる様に「彼が運転していた奴を見た。」と言う噂を広めたのは

私達ですから。」


「なに?」


東城は全く理解出来ないと言う様にアランを見つめた。


「ですから、此方がこうなる様に仕組んだんですよ。だからあなた方は手出ししないで頂きたいと、そう申し上げているんです。」


相手の理解の無さに少しだけ苛つき今度は強く念を押す様にたたみかけた。


「お前はあの坊やがどうなってもかまわないと?」


アランは頭を横に振り今度は改めて事の次第を聞かせた。


「坊やではなくて蓮です。朔田 蓮。あなたは、私が彼に命令していると思っている様ですが、それが間違いなんです。彼が私の主人なんです。」


この告白に東城は驚きのあまりなにも口にできなかった。アランは東城の様子を見つつさらに続けた。


「暫く前に、銀龍会が女性を薬漬けにしてお金を稼いでいた事件があったでしょう。あれはあなたを陥れるために仕組まれたものだったのは知っているでしょう?それに今回の件もあり彼は銀龍会に相当怒っているんですよ。薬物事件の時銀龍会に対して警告したつもりだったんですけどね、それがまた、流星会と銀龍会との争いで一般の人が巻き込まれたんですよ。だから噂を広めわざと捕まったんです。」


「あの件も坊やが?」


東城は驚きを隠さずに聞いた。

アランは無言で頷いた。


「蓮は、私より上ですよ。なにもかも。だからあなた方が心配する必要は有りません。もしもあなたの部下がまだ蓮の事を追っているなら今すぐに辞めさせる事です。あなた方が巻き込まれる様なことがあっても知りませんよ。それから今日話した事は他言無用にお願いしますよ。

私は蓮みたいに優しくは無いですから。」


アランは東城を見据えて言い放った。

東城は黙ったままアランを見つめ返してきたが、アランは立ち上がるとそのままドアへ向かった。


東城はアランが去った後、部下に直ぐに戻る様に連絡を入れた。


















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