これも全部、夕陽のせい

色空

これも全部、夕陽のせい

 放課後の教室にいるのは、勉強をしている彼女と、それを見ているだけの僕。

 教室の窓からは夕陽が射し込んでいた。赤色と橙色が混ざりあった、ぼんやりとした光が僕らを照らす。


 僕らの他には誰もいない。二人だけの空間、二人だけの小さな世界。


 

「ねぇ、あのさ」


 そんな言葉を彼女に言った。急に話しかけたから、びっくりさせてしまったかもしれない。

 悪いね、驚かせちゃって。まあ、休憩がてら僕の戯れ言に付き合ってくれると嬉しい。


「……? なに?」 


 動かしていた手を止め、彼女は僕の方を向いた。少し不思議そうな顔をしている。

 夕陽に照らされて少し顔が赤くなっていた。多分、僕もそうなっていることだろう。


「心臓の鼓動ってさ、一生のうちにする回数が決まってるらしいんだよ。昨日テレビで言ってたんだ」


 随分と唐突で脈絡もなく、彼女からすれば、いきなり何を言い出すのかってところ。


「……そうなんだ」


 興味があるんだかないんだか、彼女はそんな微妙な返事をした。

 別にいいけどさ。ここで興味でも持たれたら、それはそれで困っていただろうし。

 昨日、ちらっと見たってだけの情報で、そこまで詳しく知っている訳ではないし、本当に合っているのかも分からない。


「それを聞いて思ったんだけどさ……好きな人と一緒にいると、心臓ってドキドキするだろ?」


 言ってから、なんだか酷く恥ずかしいことを言ってるような気になった。でももう喋り始めちゃったことだし、このまま最後まで言わせてもらおう。勢いって言うのは大切なのです。


「だからさ、このまま君と一緒にいたら僕、早死にしちゃうなぁ、なんて」


 うーん。何言ってんだろ、僕。恥ずかしいこと言っちゃってるな、間違いなく。

 段々と顔が熱くなってくる感覚。彼女も彼女で、僕の方を見たまま固まっちゃったし。何か反応してくれると嬉しいんだけど。


「…………」

「…………」


 僕らの間に流れる沈黙。誰か助けてください。こんな話やめときゃ良かった。でも、ふと思い付いてしまったんだから仕方ないね。なーにが勢いが大切、だ。冷静になれよ。まったく。


 あー、顔が熱い。





 

 


「…………じゃあ私も、このまま貴方といたら、寿命縮まっちゃう?」


 



 実際の時間としては10秒もたっていないんだろうけれど、僕としては永遠に等しい時間だった。


 待ち望んでいた返事は、嬉しいような、さらに恥ずかしさが増すような言葉だった。

 追い討ちですか? もう大分トドメは刺されたよ。


「う、うん? まあ……そうなんじゃない?」


 僕の口から随分とまあ情けない声が出た。いやでもこれは仕様がない。あんなこと言われたら誰でもこうなるだろ。


「……貴方とたくさん一緒にいたいから、それはちょっとやだなぁ……」






 そう言った彼女の顔は、どことなく赤みを帯びているように見えた。この真っ赤な夕陽のせいにしとこうかなぁ……なんて、そんなことを思った。

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