第4話

 一方。ルノと別れたカリアは森の中にいた。

 上空から梟が監視しているのを気づいていたが、あえて指摘せず黙ってついてくるよ泳がせていた。


「クソ あいつ後輩の癖に偉そうにしやがってよお!」


 近くにあった丸太を蹴飛ばした。

 身体の底から腹が立ってくる。


「なぜあんなニート暮らしの新人を俺と一緒に仕事をしなくちゃいけないんだ」と怒りが収まらない。


「俺だけだったらこんな任務、さっさと終わるのに…あの動物たちの話を真に受けやがって。マーノを殺した犯人かもしれないんだぞ!」


 歯を食いしばりながらルノのことを思い浮かべていた。なぜ、あんな奴を俺と同じ任務に同行したんだと所長は何を考えているんだと、募りはいずれ丸太を爆破するほどに至っていた。


 遥か上空から眺めていた梟はカリアが突然の爆発音を目に瞠りながら危険人物であるということを考えていた。

 仲間たちが無事であることを祈りながらカリアの動向をただ見守ることでしか今の選択肢はなかった。


「落ち着け俺。ルノのことなんて何も考えるな。俺がやればいいだけだ」


 冷静になれと心を落ち着かせる。深呼吸し、墨となった木を見つめた。


『ピュイ』


 カリアの懐から現れた小さな竜。悲しそうに目をウルウルしていた。


「すまん。目が覚めてしまったかい」


 小さな竜の頭を優しくなでた。

 赤い鱗にトカゲのような尻尾。息は過熱したかのような熱い息吹。赤い瞳。小さなドラゴンのような姿をした妖精。


『ピュイピュイッ!』


「これか…ごめん。ついつい怒りが止まらないことがあるんだ」


 手のひらを広げ、見つめた。

 加熱処理の手袋をつけ、自らの手を焼けないようにしている。副所長のお墨付きだ。


『ピュイピュイ』


「サダンのせいじゃないよ! これは俺が制御できていないだけだ」


 再び可愛がる。

 その度にサダンは嬉しそうに懐いていた。


 そのとき、遠くから茂みをかき分けながら歩いてくる音が聞こえた。

 上空から飛んでいた梟も気づいたのか旋回し、森の中へと降り立った。


「…敵か」


 鉄と鉄がぶつかりあう音が聞こえる。その音の数もただならぬほどに。


「炎印(フレア・ソウル)」


 炎の模様をなした烙印が手のひらに浮かび上がった。手袋を外し、サダンに託す。


「サダン、大事に持っていろよ。ルノ。これはちと手間になりそうだ」


 灰色に曇った空を眺めながら歯を食いしばった。


***


 ルノたちが店に到着後の時間。

 カリアは森で遭遇した何者かと戦っていた。


 敵はすべて兜や鎧を着衣した兵士たち。

 魔法の術を知っている素振りはなく、剣や槍、弓で抵抗してきていた。


「くっ…レベル1〈火球(ファイアボール)〉!」


 宙がえりしながら敵の矢を避ける。その隙に手を伸ばし火球を放った。手のひらサイズよりも大きくその大きさは樽ほどの大きさだ。


 兵士たちが慌てて逃げるも火球は彼らの下で大爆発した。


 〈炎印(フレア・ソウル)〉。妖精の力そのものを身に宿す秘術。魔力と操作性を飛躍的に増幅させる。一日に一度が限界のこの技。限定的だが、テンションをハイにするには絶好だった。


「こいつ魔法使いだ! 距離をとるな! 縮めろ!」


 兵士たちリーダー格が皆に大声で伝えた。

 魔法使いは距離を縮めば縮むほどその威力は弱くなり、対応できなくなる。リーダー格はそう判断したようだが、その答えは全く違う。


「古い考え方だな」


 確かに、魔法使いは詠唱しないと魔法を使えないケースが多い。儀式を持って妖精と仲良くなっても無詠唱で使えるケースは稀だ。

 だが、今の時代、魔法使いは~魔法_レベル~と唱えれば詠唱なしで使えるようになった。これは大きな一歩。そして、距離を縮めれば勝ちというあいまいな考え方こそ古い者の証である。


「てりゃっ!」


 槍を持った兵士がカリア目掛けて突き刺す。ひょいっと避け、槍を掴み、兵士から奪い取る。


「やぁっ!」


 剣を持った兵士が横から襲ってきた。棒回しのように回転させ、兵士の身体を強打させる。


「ぐはっ!」


「クソ…敵が多すぎる」


 矢を射る兵士に向かって槍を投げ、倒す。

 倒れていた兵士から剣を奪い取り、「レベル3〈火力(マイトチャージ)〉!」と炎を力に変えて、筋力と魔力の操作性を飛躍的に増幅させた。


 周りから見れば燃えるような赤い炎を身に纏ったような姿をしていた。


「はああ!」


 剣を振り下ろす。空気の圧が衝撃となって周囲の敵を薙ぎ払った。


「ぐうっ」

「ぐはっ」

「…強い」


「どうしたその程度か? というか、お前ら何者だ!?」


 兵士が逃げていく。叶わないと悟ったのか。それとも――


「お前…強い…な…」


 大鎌を担いだ人が立っていた。紫色の布を顔に覆い、ローブを着ている。ローブの中も紫色の布のようなもので巻かれているだけで着衣は見当たらない。

 声からして、女性と思われる。


「何者だ!? というか…なんだあの禍々しいオーラは」


 彼女が担いでいる大鎌から黒くて禍々しいオーラを放っていた。あの武器はおそらく――


 ハッと気づき、空高く飛び立った。

 梟が慌ててカリアを運んで上空へ逃げた。肩の服を器用に両足で掴んでいた。


「おいっ放せ!!」


「逃げるよ。アイツはヤバい。俺達を動物にした奴と一緒にいた奴だ」


「なに!?」


 再び奴を見るがすでに遠く離れていた。

 く…歯を噛みしめる。実力を測る前に怖気つくなんて、弱くなったものだ。

 

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ウィッチウィザード にぃつな @Mdrac_Crou

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