第8話
「好き嫌いとか分かんないからとりあえずさっきと同じオムライスにしてみたけど……食べれるか?」
「食べれるし、好きです」
「そうか。なら良かった」
1階のカウンターには、私が
言ってみれば世界の中心と言えるその料理を口に運んだ。心の底から美味しいと言える味で、同時に那賀さんの話を更に理解できた。¨美味¨を表現しているメロディーがすっと体の中に入り、全体に広がっていく。それが抜ける事はなく、皮膚の内側に
一口一口味わって食べてもいつかは全て体に取り込まれる。気が付けば残りスプーンいっぱい分しか残っていなかった。
____その時ふと、あの本に記された名前が脳を過った。
「あの、
「何だ? もう腹に入らないか?」
彼女問いに、いえ、それに凄く美味しいですと答えてから本題に入った。
「さっき
「……嗚呼そうか、見たか。きっとアンタは本なんて開かないだろうと思ってそのまま通したんだけどな……」
私をディスってるだろその発言、とツッコミを入れたくなる自分を抑えながら必死に左脳を働かせ始めた。
やっぱり、もう転生した前のウェイトレスさんの名前? 否、そんな関係なさげな人を彼女が隠そうとするとは思えない。もっとこう、想さんにも私にも関係のあるような____駄目だ、私の推理力は此処が限界のようだ。降参と示すようにスプーンを口に入れ、ごちそうさまと声に出した。
「まぁその事はまだ関係ないからいつか話すよ。今日はもう寝な」
「え? 今お昼ご飯食べたところ……」
「朝昼晩の時間が、というかきっと1日の時間が地上とは違うんだ。もうすぐ真っ暗になるぞ」
想さんにそう言われた後自分の部屋の窓を見ると、もうすっかり暗くなっていた。外灯の見当たらないこの天界では、もう今日はふわふわな雲の輪郭を見る事ができなさそうだ。感覚としては起きてから4時間位しか経っていないのだが、体が適応してきたのだろうか、もう眠くなってきた。
「おお、おはよう。やけに早いじゃないか」
「なんか目が覚めちゃって……」
起きる時にドアを叩く音は聞こえなかった。今は昨日の起床時間よりいくらか早いのだろう。ウェイトレス姿になって部屋を出た。
この建物は吹き抜けになっているので、何処かで音が鳴ると分かるようだ。今日はまだお客さんが来ておらず、一般的な一軒家と同じ規模と思われるmemoriesには私と想さんしか居ない。
「腹減ったか? 要るなら作るけど」
「いや、いつも朝ごはん食べてないので空腹な感じはないです」
空腹どころかオムライスの余韻がまだ残っている。新たに胃の中に入れなくったって、気持ち的には既に満腹だ。
しばらく無言の時間が続くと、椅子にお客さんが二人現れた。あまりに突然の事だったのでしりもちをついてしまった、想さんに笑われた。拗ねた。
さあ、今日接客するのはどんなストーリーを抱えたお客さんなのだろうか?
天界の飲食店 幸野曇 @sachino_kumori
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