第7話
「……実は、あの
「え……」
……何故に?
駄目だ、どこから見ても大海さんの心理を理解できる気が全くしない。
「理由は分からないし、最期が嫌な思い出で死んじゃったんですけど。でも、やっぱりあの日は私にとって宝物なんです」
そう言って微笑む那賀さん。
すると____またもや、視界いっぱいに濃霧が広がった。
気付いた時には茶色ずくめの建物の中に突っ立っていた。あの不思議な空間に行かされる前にいた場所だ。けれどあの時とは違う所がある、那賀さんの位置。
近くに女子中学生の彼女はいなかった。昨日私が頭をぶつけた、とても重い扉を開けようとしている。
大丈夫ですか、と声をかけようとした。重くないですか、開けれますか、っていうか開けるんですかと。
けれど、それを言うために息を吸った瞬間、一気にあの扉が空いたのだ。
「ありがとうございました」
____彼女の口がその言葉を紡いで前を向いた時、外からの眩い光の中に消えた。
そして、扉はゆっくりと閉まったのだった。
自分が一番楽しかった時期の思い出を言って転生する。きっと、先程行った事がこの店の従業員としての役目なのだろう。
ついさっき話に感情移入した相手が、すぐにこの世__此処をこの世と言っていいのかどうかは分からないが__からいなくなる。そんなのが転生期には毎日あるのだろう。
今日、しかもほんの数時間前に知り合った人なのに、存在がなくなってしまうとこんなにも悲しくなる。それは何故だろうか、人間の特性みたいなもんなのか?
「
「
食べたらお客さんは店を出る、それは当たり前。
でも此処はmemoriesで、転生する人々が最後に訪れるレストランだ。
「1人だけでそんなに悲しんでるとこの先持たねぇぞ」
「分かってますって……」
想さんが冷酷って訳じゃない。多くの注文を聞いて、多くの過去も聞いて、多くの転生する人を見守ってきた、ただそれだけだ。私だって、今回の転生期が終わる頃には慣れているかもしれない。
「ほらほら、昼飯作るから¨思い出の記録¨部屋に置いてこい」
「おも……?」
「さっきまで客がいた席のテーブルに置いてある本、アンタが聞いた内容が書かれてる。____永久に残る物。これからは自動的にそれに書かれるからな」
想さんが言った思い出の記録は部屋に置いてあった本と類似している。それらはきっと、前のウェイトレスさんが接客した人々の記録だろう。
階段を駆け上がり、彼女がドアを強く叩いた時に居た部屋に入る。昨日はあまり気にしていなかった本達の中から、持ってきたのと入れ換えるようにひとつだけ抜き出す。一番右にあった、おそらく既に収納されていたものの中では一番新しいであろうであろうそれを開いた。
1ページ目には____その時のウェイトレスの名前だろうか。
想羅……想さんの顔が浮かんでくるのは、彼女をほんの数分前まで見ていたから?
どれだけ時間が経っただろう。お昼ご飯あるんだった、と思い出すまでずっと4文字の漢字を見ていた。
「おい、いつまで籠ってるんだ。できたぞー」
斜め下からそんな声が聞こえた。
「はーい、今行きまーす」
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