成功と否認
当日、現地スタッフは30分ほど前に到着し、ダイツ人グループはほぼ時間ぴったりに着いた。
イスマラ教の国であるマラーシアやブルセイ・ダルマラームは近くにある鎮護国家のテイ王国やコンボジアと比べて、待つ方にも待たされる方にも寛容とのことだ。
そのあたりの微調整もできるあたり、やはり能力の方は流石である。
ひげを生やした現地の人に比べて、ダイツ人ペアは流石というかパリッとしていた。
日差しを遮るサマーコートに、頭の先からつま先まで一部のスキも見せないのはダイツの誇る世界的企業ソーメンスである。もっとも、ダイツ人の専門家の方は南部訛りらしく、ゾーメンスと発音していた。
ビジネス的な挨拶を交わし、会議の前に、ダイツ人のコートを褒めたら専門家の方にはしかめっ面をされて、通訳の方から
「ニホンゴ、ちょっと苦手ナノデ」ときた。
もう一度、英語で褒めても微妙な顔をされた。
お世辞はいらない合目的的なタイプなのだろうか。
課長代理だけはニヤニヤしている。
改めてメンバーを見ると少し若い張さんを除いて5人とも見事にタイプの違うおっさんであり、ここまで来ると壮観である。
(自分をおっさんに含めるのは悲しいけど慣れた。)
つまり、課長代理と張さんが少し「お漏らし」しても誠心誠意謝れば訴訟まで行かなくても済むと思う。不幸中の幸いである。
またメンバーはそれぞれ
ダ専門)英〇 ダ通訳)英〇 中〇 日△
現地ス)英〇 中〇 張さん)中〇 日〇
私)日〇 英〇 代理)日〇 隠語〇
となっている。
一人変なのがいるが気にしないでくれ。そういう存在なんだ。
基本的に中国語か英語で会話して、自国語を翻訳してもらってという形で、
課長代理がダイツ式、放電という度にダイツ人ペアがぴくっと反応していたのが気になったが、会議自体はきちんと進んでいるので、そこには触れないようにした。
途中、休憩が入りダイツ通訳さんから
「私のクニのユウメイな人、知ってマスか?」
と聞かれたので、無難に
「アダムスミス、マルクス、それからカントですね。」
と答えたら、ダイツ人ペアが今度はニヤニヤしていた。
その後も問題なく進み、サインをもらう段になって、改めて張さんとソーメンスのペアに確認をする。
「張さんの漢字って普通に弓を張るの“張る”で良いんですね?」
と聞いていたら何故かダイツ人ペアが反応していた。
私のメモのソーメンスのSoがSaに見えたからってごまかされたっぽいけど、それってしれっと大問題だし、もしかしてもしかしてあんたらも“あっち側”の人間かよ!!
もうやめて。私と現地スタッフさんしかちゃんとしてないなんて。
課長代理は全てわかっているかのようにニヤニヤしている。
そんなこんながありながらも、無事、仕事の方は終わり、現地スタッフさんは礼拝の時間だからと帰った後での歓談タイムのことである。
すり合わせというか親交を深める目的というかで仕事の失敗談を私が語る番になった時に、鉄板ネタのシュークリームを顔にかけられた話の反応がすごかった。
シュークリームって確か和製英語だからCream Pieでいいかなと思って
「…then
3人が真顔になって、課長代理から耳打ちされた張さんが後で真顔になった。
「…まさか、あんな…」
「…会社でですか?」
みたいな会話をしてるけど、課長代理、あなたは日本語でちゃんと真相を知ってるでしょ!!!
もうこんなプロジェクト知らない。と思って半ば
ちなみに、creampieの謎はホテルのペイチャンネルで分かった。
帰国してしばらく経ってのことである。
結果から言うとうっかり成功してしまったらしい。
いや、失敗するよりは遥かに良いに決まってる。
しかし、問題は周囲にこのプロジェクトには私が必要だと判断されたことだろう。
またしてもこのメンバーと、しかも長期間やりあっていくのだ……。
きちんと否認しとけばよかったと頭痛が激しくなってきた。
なお、それぞれの会社の上の方の人たちは「面白い奴ら」ということは織り込み済みだったらしい。
巻き込まれた当事者からすれば
「うんうん、これも国際交流だね。」
というネタしかふられた気がしないのだが。
みなさんも成功したときにはきちんと否認はしておいた方が良い。
望まぬ信任を得ないためにも。
完
Below Joke 宮脇シャクガ @renegate
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