嫉妬するほどの能力の無駄遣い
課長代理がタクシーに
「ベリーエクスペンシブ!チープチープチープ」
と連呼することでだいたい相場通りの価格で無事ホテルに着いた我々3人は、課長代理の勢いにたじたじとなった張さんとともに、この人には日本は狭いんだなあという意見の一致をもって結論した。
なし崩し的に課長代理に決定権が発生した。
「では、決を採ります。飯、風呂、寝るのどれからがいいですか?」
ちょうど、大浴場があり、熱帯の暑さもあって部屋に荷物を置いたら3人でお風呂に行くことになった。今更だが、張さんが理解ある人で良かった。
ふと、課長代理がニヤニヤしているのに気が付いて、
「どっちにする?」
と見せられたルームキーの番号が1069と1072だった。
「部屋の中くらい一人にしてくださいよ。」
番号の大きい方を貰ったら珍しいものを見る目をされた。
私だってたまにはやりかえすのさ。
部屋は廊下を挟んで向かいの位置だった。
浴場では、遠くからクラシックらしきにぎやかな曲が聞こえる。
壁には美術の資料集で見たような絵が描かれている。
金髪の美女が貝に乗っている奴だ。
浴場に我々3人しかいないのを幸いに、厚顔無恥な課長代理の質問が飛んできた。
「この絵のことをご存知かね?」
これは絶対知ってて聞いてるやつだけど、ほっとくと2人がかりで余計に面倒なことになるので相手することにした。
「ボッティチェリのヴィーナスの誕生ですかね。」
「その通り。では、モデルとなった人物は?」
「シモネッタ……あ。」
「HAHAHA,It's below joke!」
なるほどね、
自分に自信があると発言が違うなあと自然に頭が下がる。
その後も衣服から解放された課長代理の満腔の喜びの勢いにたじたじとなった張さんとともに、モノが違うというかこの人には日本は狭いんだなあという意見の一致をもって結論した。ちなみに、曲はマーラーの巨人(交響曲第1番)だった。
ドビュッシーの月の光がかかる中で珍事とも言えるくらい何事もなく夕食を済ませると、張さんと別れ、明日の打ち合わせを済ませて眠った。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます