Below Joke

宮脇シャクガ

うん、これにしよう

順番で言えば3番目の私がなぜ、マラーシアまで行くことになったのかは、なまじ出来る奴だからって大きな案件を任されたかわいそうな奴と、予備になってた癖にあっさり事故に巻き込まれて海外出張が無理になった奴らに聞いてくれ。

私は悪くない。むしろ被害者だ。

大学でマレー語をたまたまやってて、今、すぐに自由に海外に行ける人員が自分しかいないなんて思わないじゃないか。


以上、回想終わり。

というわけで、私は癖の強い上司とマラーシアへの船旅に出ることになった。

議題は主に路面電車の放電をダイツ式にすることによってソーメンスの特許に触れないか、また、東南ワジワへの導入についての実地調査という名目だ。

今回はそうでもないが、次回以降は飛行機に持ち込めない物を運ぶことになりそうなので、船旅となった。

船は長崎を出て、狆縄の湖のほとりにある港に寄港して、現地での通訳兼合弁の協力相手であるチャンさんと便を同じくすることになっている。


張さんは日本の大学に通っていたので、日常会話レベルでも問題ないらしい。

限りなくあやしい上司と同行なので、助かる限りである。

どんな上司って?もうすぐ張さんと合流するからわかりますよ。


「オォー、チンポォさんとオパーイさん!」

「違います、新保しんぽ課長代理と大饗おおわいです。」

「オオパイですか?」

「O、Y、です。」

油断してたらしょっぱなから喰らわされた。張さんもあっち側の人間だったか……。


「まあまあ、大饗君、ここは私に任せたまえ。」

「部下の名前をオオパイと間違われたらちっとTIT困りますなぁ。なんちって。」

「HAHAHA、課長さんお上手!!」


頭痛の種が2倍、いや2乗になっただけだった。

2人ともあっち側の人間だからか、ジャブから意気投合まで早すぎだろ。


ビジネス的な挨拶は飛ばし飛ばしで無事終わり、張さんがちょっと失礼と言って、仕事の連絡らしきものが終わったらそのままソシャゲをやってた。

ちらっと見えた画面のキャラに見覚えがあったので、張さんに確認を取って見せてもらう。課長代理はとっくにだし、そろそろ雑談に入っても良いころだろう。


「それ、10年くらい前に流行った奴ですよね。」

「そうですそうです。あ、そうだこれのGEM面白いんですよ。見てくださいね。」


と、張さんが見せてきた画面には「珍宝」と書かれていた。

こやつ、知っててやってやがる……。しかも、こちら側の立場も理解してだ。

なるほど、この2人を組ませるからには1人犠牲が必要だったわけだ。

私は突如自分の立場を理解した。

張さんとは部屋が違うので、夕食兼ミーティングの後は別行動となった。


しばらくして、暑いのでアイスでも買うかという話になり、珍しく課長代理がおごってくれるらしい。ちゃんとしてればまともなんだけどな、この人。

「やっぱり、アイスはヴァニラに限るよ。ちなみにこの香りがラテン語で……。」

せめて、ジャジャネタくらいで済むかと思ってたらそっち系の知識無限かよ!


強引に話を打ち切り、仕事の話に切り替える。

「そういえば、泊まるホテルかなりいいところらしいんですが、課長代理は何かご存知ですか?」

「なんとぉ、ペニンセーラホテルらしいよ。」

「ちなみにペニンセーラってのは半島って意味で、植民地時代に入植してきたペニンスーラって呼ばれる人々が語源らしいよ。」

「ところで大饗君、貨幣単位のペニーの複数形は?」


「ペニ……おおっとひっかかりませんよ。ペンス。」


数日後、船はジャハール海峡を通って、クワエルンプールの近くの港に着いた。

そこからは車だ。

「課長代理曰く、頭や足でなくブーブーBOOBを使うんだ。文明人だからね。」

とのことだ。よく聞いたらまたネタ仕込んでるんだろうけど…。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る