第6話 アフタースクールミッション
家に着いた俺は「あっ…」と声に出して夕飯の買い出しを失念していたことを思い出した。
仕方がないので、今日は近くのコンビニで済ませることにした。
うちの両親は仕事の関係でよく家を空けている。
家族が揃って家にいられることは稀だ。
しかしそれでも家族仲は良好だ。
たまに気持ち悪いくらいベタベタしている両親をみるとなんとも言えない気分にもなるが、仲が良いに越したことはない…と思いたい。
そんなわけで、俺は自宅では比較的自由に行動できるのだ。
恋愛ゲームはもちろんのこと、アニメもゲームやり放題。
深夜にカップ麺をドカ食いしようが誰にも咎められることはない!
まさに無敵なのだ。
腹が減るまで、溜めていたアニメでも消化しようとした矢先に、携帯の通知音が鳴った。
ピコリン。
久しぶりに聞いた気がするSNSの音だった。
桜子<今日は色々ありがとう。久しぶりにケイと話せてよかった!>
サクラからだ。
昔連絡先を追加してから、ずいぶん長いこと連絡を取っていなかった。
とりあえず返信をせねば。
スマホに手を伸ばした瞬間、脳内にある葛藤が生じる。
帰りのことを、サクラに言うべきか否かだ。
隠すつもりはないが、モモのことだ。
勝手に彼氏と別れたことなど姉に報告されれば怒り狂うかもしれない。
まずは様子を見るべきだろうか?
啓人<おう。俺もサクラと久しぶりに話せてよかった>
と送信したところで、夕方のサクラとの会話を思い出す。
彼女が俺に頼んだこととは「モモの相談に乗る」ことだ。
しかしモモ本人が俺に話をしたがらない現状では、このミッションの遂行は不可能だ。
強引にでも、モモの話を聞いてやるしかない。
サクラ<桃子のこと、よろしくね>
滝城先輩とは別れたモモ。
しかしそれだけではサクラの不安は完全には消えないだろう。
彼女の懸念はすぐにモモが彼氏を作るところにあるはずだ。それこそ取っ替え引っ替え、また新しい男をすぐに作るかもしれない。
今、俺が阻止しなければならないのはそれだ。
無論、モモが恋愛感情を抱いた上での付き合いなら俺たちは何も言うことはできないのだが。
少なくとも今までの経緯と、あのモモの態度からしてそれは考えにくい。
啓人<明日学校で話してみようか>
サクラ<うん、ありがとう。お願いします>
女子とのSNSなんて、いつ以来だろう。
ひと段落した会話を終え、スマホを置く。
なんだか、文字での会話って気を使うな。
変に疲れる気がする。
ピコリン。
またスマホが鳴る。
サクラ<今、なにしてる?>
文面を見た俺は困惑する。
唐突な個人的な質問。
一体どう言う意味だろう。
啓人<帰ってゴロゴロしてる>
サクラ<晩ご飯は??>
啓人<買ってくるの忘れたから適当に食べる>
サクラ<なに言ってんの!ちゃんとしたもの食べなさいよ!>
オカンか。
なるほど、俺の晩飯を憂慮してくれたわけか。
ほんと出来たお姉さんだこと。
そういえば、懐かしいな。
昔もよくこうして、俺の世話を焼きたがっていたっけ。
サクラ<今からそっちいくね>
…!?
そっちとは、どっちだ。
まさかこの家か???
啓人<ちょ、ちょっと待て。何もそこまでしてもらわなくても>
サクラ<おじさんとおばさん、お仕事なんでしょ?ご飯作ったらすぐ帰るから大丈夫!>
さすが幼馴染み。俺の家庭の事情も完璧に把握済みというわけか。
いやそういう問題ではない!!
年頃の異性を家族のいない家に上げるなど、いいのか!?
いや幼馴染みなんだ、問題はない…はずだ。
しかしこの罪悪感はなんだ。
俺の頭の中で、天使と悪魔が論争を繰り広げているかのようだ。
七海姉妹と俺の家はそう遠くはない。
地図で見れば、通りを二つほど挟んだところだ。
小さい頃は、3人で帰っていた帰り道。
今日は2人だけだったが、少し懐かしかったな。
いやそれどころではない。
桜子が我が家に来る。
年頃の異性が来襲するのだ。
サクラの親切心からくる提案故、断る勇気も湧いてこなかった。
正直幼馴染みなので、他の女子に比べれば抵抗は少ない。
しかし俺の自室を覗かれた瞬間ゲームオーバーなのは変わらない。
七海姉妹は知らないのだ。
この俺がいまやアニメと恋愛ゲームに傾倒しているド級オタクということを。
御厨啓人、緊急ミッション発令。
無事に、七海桜子の来襲を乗り切ること。
波乱の1日は、まだ終わりそうに無かった。
恋愛初心者の俺は、さくらんぼに挟まれて困ってます うどん。 @bebemaruudon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。恋愛初心者の俺は、さくらんぼに挟まれて困ってますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます